お兄ちゃんの前世は猫である。その秘密を知っている私は……

ma-no

文字の大きさ
上 下
96 / 130
中学校である

096 無事到達である

しおりを挟む

 お兄ちゃんの前世は猫である。私の名前は広瀬ララ。お金はお金持ちの元へ寄って来るって、迷信じゃなかったんだね……

 中学生にしていきなり億万長者になっていたのでビビりまくった私が「全額寄付したい」と言ったら、母親にめっちゃ止められた。寄付したところで税金は丸々残るんだとか……だから日本はダメなんだよ!
 それに諸々の手続きはやってしまったし、ジュマルの口座にもお金は入っているから、下手に動かすとマルサが「悪い子はいねがぁ~?」と押し寄せるらしい。それはナマハゲだよね……私、もう中2だよ? 騙せると思ったの??

 そこまで言われては私もどうしていいかわからないので、口座のことは考えないことにした。ドキドキが止まらないんだもん。最悪、ジュマルにあげよう。
 そんなドキドキの春休みが終わったら、私は2年生。ジュマルは3年生となった。

 新学期は感染症対策が少しは緩和されていたので、いつも通り挨拶回りはしていたけど握手は禁止。ジュマルはわかってくれたのに女子が「握手して~」とうるさいので、隠れて見ていた私がクラスに乱入した。

「広瀬ジュマルの妹です。お兄ちゃんを応援してくれてありがとうございます」

 そこでペコリとお辞儀して、マスクを取ってからニッコリ微笑んでみたら、全員、眩しいのか目を手で覆っていた。私の笑顔、閃光弾みたいだな!

「お兄ちゃんはサッカーの予選の最中です。さらに野球の予選が待っています。もしもお兄ちゃんがOM1ウィルスに感染してしまったら、そこで最後の大会はおしまいです。いえ、部員や生徒が感染しても終わるかもしれません。どうか皆様、節度を持った行動を心掛けてください。お兄ちゃんのために、お願いします」

 マスクを付け直して喋り終えた私が再びお辞儀をすると、各部活のメンバーが両隣に走って来て無言で頭を下げた。その光景に、女子たちは声を出さずに拍手で応えてくれたのであった……


 なんとかジュマルに群がる女子は退治できたが全員が聞いていたわけではないので、校長先生にお願いして、お昼には同じような放送をしておいた。
 これで学校は一丸となって、OM1ウイルスに立ち向かってくれたので一安心。夏まではなんとかなりそうだ。

 それから私は野球部に顔を出したら、監督が尻尾を振って走って来たから「それ以上近付くな!」と言ってから話をする。

「いや~。ありがとな。お母さんのおかけで、店は潰れなかったよ。妹ちゃんには足向けて寝られないわ~」

 どうやら補助金やらなんやらを母親が手伝ったから、礼を言いたかったみたいだ。

「私は何も……ママに伝えておきますね」
「いやいや。本当はプロを雇おうとしてたのを、妹ちゃんが止めたって聞いたぞ。このパンデミックの最中、監督の給料が無かったらヤバかった~」
「それはたまたま監督が運が良かったからだよ。その強運、大会で発揮してくださいね」
「ジュマルがいて、運なんていらないだろ。わははは」

 私は単純に資金を掛けすぎだから両親を止めただけなので、監督に感謝される筋合いはない。とりあえず話を逸らしたら、監督は自信満々に笑っている。
 なので皆の調子を聞いてみたら、県大会レベルには育っているみたいだ。

「あの弱小だった野球部が?」
「正確に言うと、全体のレベルが下がっているからってのもある。まぁ、みんなジュマルに夢を見て、個人練習をおろそかにせずに頑張った結果でもあるな。我ながらいいチームに育てたもんだ」
「いまの話だと、監督の出番がなかったような……」
「練習メニュー考えてるの俺だって!」

 ちょっとおちょくってみたら、監督はマスク越しでもってツバが飛びそうなツッコミをするので私は距離を取った。

「てことは、優勝は確実ってことですね?」
「感染者が出なければな」
「ホント、それだけが心配ですよね~。私なんて、小学校時代のほうが中学校生活を満喫してた感じですもん」
「ああ。あの時は毎日来てたもんな~。アレから3年か~」

 野球部の練習を見ながら、しばし思い出話をする私と監督であった……


 それからもマスク生活は続き、政府の不甲斐なさに愚痴りまくり、動画配信はジュマルの無観客試合を遠巻きに録画した物と、私が応援している姿だけを流していたら野球部は勝ち進み、ついに全中の決勝戦となった。
 私もいちおうマネージャーで登録しているので、無観客試合でも会場どころか控え室にまで入れる。でも、戦術とかはよくわからないので、壁際で監督たちのミーティングを聞いているだけだ。

「正直いうとな~。このチームはジュマル頼みのチームだ。不甲斐ない監督で申し訳ない!」
「「「「「ブッ! あはははは」」」」」

 監督の第一声は、自虐。おそらく、緊張している皆を笑わせようとしたのだろう。まさかここまで笑われるとは思ってなかったって顔をしてるけど……
 その笑いが収まると、キャプテンにまで昇格した大翔ひろと君が前に出た。

「それを言ったら全員そうですよ。ジュマルさんがいなければ、県大会も2回戦、勝てたかどうかです」
「ちげえねぇ」
「「「「「あはははは」」」」」

 大翔君まで自虐すると、誰かが合いの手を入れてまた笑い。ジュマルは暇そうにしてる。私もそっち側だ。

「まぁなんだ。こんなこと大声で言うのもなんだが、ジュマルがいるから絶対に負けない! お前たちも、気楽にやって実力を出し切れ!!」
「「「「「おう!!」」」」」

 監督の言葉に、本当に大声で言うことでもないなと私が思っていたら、監督は私に右手を差し出した。

「妹ちゃんからも一言!」
「え? あ、はい。みんな~。ファイトだお」
「「「「「うおおおお~~~!!」」」」」
「行くぞ~~~!!」
「「「「「うおおおお~~~!!」」」」」

 私がちょっと応援しただけで、さっきより気合い入ってない? 噛んで照れてるのがかわいかったのかな??

 こうして野球部は、やたら気合いを入れて最後の戦いに挑むのであったとさ。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編をはじめましたー! 他のお話を読まなくても大丈夫なようにお書きするので、気軽に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。

稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています

水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。 森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。 公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。 ◇画像はGirly Drop様からお借りしました ◆エール送ってくれた方ありがとうございます!

神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜

シュガーコクーン
ファンタジー
 女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。  その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!  「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。  素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯ 旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」  現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。

元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます

みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。 女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。 勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...