お兄ちゃんの前世は猫である。その秘密を知っている私は……

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小学校である

075 ララ総長である

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 お兄ちゃんの前世は猫である。私の名前は広瀬ララ。さすがに疲れた……

 私は喉を貫かれてのたうち回る虎太郎を見ながら棒に寄りかかり、ジュマルが指示通り動いたかを確認すると、横に立ってた。

「お兄ちゃん、がく君は?」
「忘れてた! てか、ララが心配やったし!!」
「もういいわ。ちょっと手伝って」

 ジュマルは私が一番。岳君を助けるより私を優先していたのは有り難いけど、作戦はまた変更だよ。
 とりあえずジュマルには虎太郎を押さえてもらい、私は岳君と肩を組んでいる斜め帽子の若者に視線を向ける。

「タイマンで私が勝ったわよ! たった今から朱痰犯閃スタンハンセンは私の物! 岳君を解放しなさい!!」

 私が怒鳴り付けても、若者は驚愕の表情をしているだけ。ジュマルより小さい少女が暴走族の総長を倒したもんね。気持ちはわかる。
 その虎太郎は、喉を押さえてヒーヒー言ってるけど、まだやる気だ。

「ゴホッ。ざけんなよ……ゴホゴホッ。まだ負けてない……ゲホッ」
「その足で? 立てもしないのにどうするの?? 手があるとか言いそうね。お兄ちゃん、右手を押さえて」
「こうか?」
「よいしょっと!」
「ギャッ! ゴホゴホッ!?」

 虎太郎の右手に私の全体重を乗せた棒の先端を落としたら、骨が折れる鈍い音と虎太郎の悲鳴があがった。

「これは序の口よ。虎太郎が殺されたくなかったら、さっさと解放しなさい。脅しとかじゃないわよ? 私、小5だから人を何人殺したとしても裁かれないの。お兄ちゃんも一緒。あんた達は、敵に回してはいけない兄妹を敵に回したわね! アハハハハハハハハハハハハ」

 私が法律を出して狂ったように笑うと、朱痰犯閃スタンハンセンはドン引き。岳君を掴んでいた若者も力が抜けたのか、岳君は自力で抜け出して走って来た。

「アニキ~!」

 岳君は怖かったのか、ジュマルに抱きつき涙を流してる。

「アネゴもありがとうございます。でも、怖すぎまんがな~。うわ~~~ん」
「感謝するか泣くかだけにしてよ。てか、助けてやったんだから引くな!」

 相変わらずいらんことを言うので私もツッコンでしまったけど、そんな場合ではない。

「んで……あんた達はどうすんの? 私の傘下に下るか、私たちとタマの取り合いするか……お兄ちゃんは私の百倍強いわよ! やるなら命を捨てる覚悟でかかって来なさい!!」

 私の啖呵たんか朱痰犯閃スタンハンセンは悩んだ末、敗北を認めて整列して座るのであった……


「それじゃあ、これからの方針を発表するわ」

 ジュマルに虎太郎を押さえさせ、私はその背中で座りながらこんなことを言うと、岳君にめっちゃ引かれてる。口に出すなよ?
 岳君にひと睨みしたら、私は爆弾を落とす。

「あんた達、いまからヤクザの事務所、ひとつ落として来なさい」
「「「「「……」」」」」
「聞こえなかったの? ヤクザの事務所を落として来るのよ!」
「「「「「……はあ!?」」」」」

 小5女子から出て来ない言葉では、朱痰犯閃スタンハンセンも驚きを隠せないみたいだ。その中で、副総長をしているガラの悪い革ジャンの男が何か言っていたので発言を許可する。

「えっと……そ、総長? 総長やジュマル……のアニキは、一緒に来るということだよ……ですよね?」

 副総長は言葉を選びまくって質問してるな。名乗りもしてない小学生じゃ、そうなるか。

「はあ? なんで私たちが行かなきゃならないのよ??」
「いや、総長ですし……」
「あんたバカなの? 戦争に、総理大臣や大統領が最前線に立つと思ってるの??」
「えっと……それはないかと……いやいや、俺たちは暴走族だ。総長が鼓舞してくれないと……」

 副総長はちょっと納得しかけたけど、そりゃ無理か。

「いい? いまはチームは小さいけど傘下を増やしていけば、暴走族でも同じことが起こるのよ。チームが大きくなると、小隊を指揮する幹部が必要なの。その幹部以上は、無理な指示だけして高みの見物よ。
 この中で幹部になれるのは、一握り。あとは全員捨て駒。あんた達は楽できらびやかな道を進んでいるように見えて、最も険しい道を進んでいるのよ。だったら、恐れずヤクザの事務所にカチコミして来い!!」

 私が長々と喋って怒鳴ると、朱痰犯閃スタンハンセンは周りの者に視線を送っている。

「それで失敗したら、総長は俺たちを助けてくれるんですよね?」
「話聞いてた? 捨て駒をなんで助けなきゃいけないのよ。国だってそうでしょ? 戦争に勝つにしても負けるにしても、雑兵は死のうが怪我しようがたいした保証はないわ。敗戦国も、賠償金を払って終わりよ」
「国じゃなくて、総長のことを聞いてるんだ!」
「同じことよ。うち、金持ちだから、ヤクザに一千万ぐらい積んで手打ちにしてもらうわ。それだけのことよ」
「ふ、ふざけんな……虎太郎だったらそんなことしねえ!!」

 副総長は怒鳴り散らすが、私は冷めた目で見る。

「これが世界のことわりよ。大きくても小さくても、その理からは逃れられないわ。こいつだって、いつかあんた達を駒としか見ない日が来るわ。その時、あんた達は喜んで死ねるの?」
「そんなことにはならない! なあ!? 虎太郎!!」
「いまはどうとでも言えるって話をしてるのよ。この道を行けば、あんた達はただの捨て駒。それも悲惨な運命のね。だったらいま散って来なさい。名前ぐらいは覚えておいてあげるわ」
「虎太郎! なんとか言ってくれよ!!」

 副総長は虎太郎に何度も呼びかけるが、まだ喉が復活してないのかモゴモゴ言っているだけ。その時、入口で何か動いた。

「やっと来た。あんた達、警察が来たわよ? ヤクザが嫌なら警察に突撃しなさい。ちなみにあんた達は子供の誘拐事件に関与しているから、かなり重い罰になるわよ。さらに罪を重ねて、重犯罪者の仲間入りよ~! アハハハハハハハ」
「「「「「なっ……」」」」」

 私が大笑いで事実を突き付けると、朱痰犯閃スタンハンセンも今ごろ自分たちの起こした事件の大きさに気付いた。

「警察や! 全員動くな! この建物は包囲した! 誰1人逃がさんからな!!」

 そこにヤクザ刑事の怒声が響き、次々と雪崩れ込む警察官を見て、朱痰犯閃スタンハンセンは諦めたのかやる気が失せたのか、その場で項垂れるのであった……
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