75 / 130
小学校である
075 ララ総長である
しおりを挟むお兄ちゃんの前世は猫である。私の名前は広瀬ララ。さすがに疲れた……
私は喉を貫かれてのたうち回る虎太郎を見ながら棒に寄りかかり、ジュマルが指示通り動いたかを確認すると、横に立ってた。
「お兄ちゃん、岳君は?」
「忘れてた! てか、ララが心配やったし!!」
「もういいわ。ちょっと手伝って」
ジュマルは私が一番。岳君を助けるより私を優先していたのは有り難いけど、作戦はまた変更だよ。
とりあえずジュマルには虎太郎を押さえてもらい、私は岳君と肩を組んでいる斜め帽子の若者に視線を向ける。
「タイマンで私が勝ったわよ! たった今から朱痰犯閃は私の物! 岳君を解放しなさい!!」
私が怒鳴り付けても、若者は驚愕の表情をしているだけ。ジュマルより小さい少女が暴走族の総長を倒したもんね。気持ちはわかる。
その虎太郎は、喉を押さえてヒーヒー言ってるけど、まだやる気だ。
「ゴホッ。ざけんなよ……ゴホゴホッ。まだ負けてない……ゲホッ」
「その足で? 立てもしないのにどうするの?? 手があるとか言いそうね。お兄ちゃん、右手を押さえて」
「こうか?」
「よいしょっと!」
「ギャッ! ゴホゴホッ!?」
虎太郎の右手に私の全体重を乗せた棒の先端を落としたら、骨が折れる鈍い音と虎太郎の悲鳴があがった。
「これは序の口よ。虎太郎が殺されたくなかったら、さっさと解放しなさい。脅しとかじゃないわよ? 私、小5だから人を何人殺したとしても裁かれないの。お兄ちゃんも一緒。あんた達は、敵に回してはいけない兄妹を敵に回したわね! アハハハハハハハハハハハハ」
私が法律を出して狂ったように笑うと、朱痰犯閃はドン引き。岳君を掴んでいた若者も力が抜けたのか、岳君は自力で抜け出して走って来た。
「アニキ~!」
岳君は怖かったのか、ジュマルに抱きつき涙を流してる。
「アネゴもありがとうございます。でも、怖すぎまんがな~。うわ~~~ん」
「感謝するか泣くかだけにしてよ。てか、助けてやったんだから引くな!」
相変わらずいらんことを言うので私もツッコンでしまったけど、そんな場合ではない。
「んで……あんた達はどうすんの? 私の傘下に下るか、私たちとタマの取り合いするか……お兄ちゃんは私の百倍強いわよ! やるなら命を捨てる覚悟でかかって来なさい!!」
私の啖呵に朱痰犯閃は悩んだ末、敗北を認めて整列して座るのであった……
「それじゃあ、これからの方針を発表するわ」
ジュマルに虎太郎を押さえさせ、私はその背中で座りながらこんなことを言うと、岳君にめっちゃ引かれてる。口に出すなよ?
岳君にひと睨みしたら、私は爆弾を落とす。
「あんた達、いまからヤクザの事務所、ひとつ落として来なさい」
「「「「「……」」」」」
「聞こえなかったの? ヤクザの事務所を落として来るのよ!」
「「「「「……はあ!?」」」」」
小5女子から出て来ない言葉では、朱痰犯閃も驚きを隠せないみたいだ。その中で、副総長をしているガラの悪い革ジャンの男が何か言っていたので発言を許可する。
「えっと……そ、総長? 総長やジュマル……のアニキは、一緒に来るということだよ……ですよね?」
副総長は言葉を選びまくって質問してるな。名乗りもしてない小学生じゃ、そうなるか。
「はあ? なんで私たちが行かなきゃならないのよ??」
「いや、総長ですし……」
「あんたバカなの? 戦争に、総理大臣や大統領が最前線に立つと思ってるの??」
「えっと……それはないかと……いやいや、俺たちは暴走族だ。総長が鼓舞してくれないと……」
副総長はちょっと納得しかけたけど、そりゃ無理か。
「いい? いまはチームは小さいけど傘下を増やしていけば、暴走族でも同じことが起こるのよ。チームが大きくなると、小隊を指揮する幹部が必要なの。その幹部以上は、無理な指示だけして高みの見物よ。
この中で幹部になれるのは、一握り。あとは全員捨て駒。あんた達は楽で煌びやかな道を進んでいるように見えて、最も険しい道を進んでいるのよ。だったら、恐れずヤクザの事務所にカチコミして来い!!」
私が長々と喋って怒鳴ると、朱痰犯閃は周りの者に視線を送っている。
「それで失敗したら、総長は俺たちを助けてくれるんですよね?」
「話聞いてた? 捨て駒をなんで助けなきゃいけないのよ。国だってそうでしょ? 戦争に勝つにしても負けるにしても、雑兵は死のうが怪我しようがたいした保証はないわ。敗戦国も、賠償金を払って終わりよ」
「国じゃなくて、総長のことを聞いてるんだ!」
「同じことよ。うち、金持ちだから、ヤクザに一千万ぐらい積んで手打ちにしてもらうわ。それだけのことよ」
「ふ、ふざけんな……虎太郎だったらそんなことしねえ!!」
副総長は怒鳴り散らすが、私は冷めた目で見る。
「これが世界の理よ。大きくても小さくても、その理からは逃れられないわ。こいつだって、いつかあんた達を駒としか見ない日が来るわ。その時、あんた達は喜んで死ねるの?」
「そんなことにはならない! なあ!? 虎太郎!!」
「いまはどうとでも言えるって話をしてるのよ。この道を行けば、あんた達はただの捨て駒。それも悲惨な運命のね。だったらいま散って来なさい。名前ぐらいは覚えておいてあげるわ」
「虎太郎! なんとか言ってくれよ!!」
副総長は虎太郎に何度も呼びかけるが、まだ喉が復活してないのかモゴモゴ言っているだけ。その時、入口で何か動いた。
「やっと来た。あんた達、警察が来たわよ? ヤクザが嫌なら警察に突撃しなさい。ちなみにあんた達は子供の誘拐事件に関与しているから、かなり重い罰になるわよ。さらに罪を重ねて、重犯罪者の仲間入りよ~! アハハハハハハハ」
「「「「「なっ……」」」」」
私が大笑いで事実を突き付けると、朱痰犯閃も今ごろ自分たちの起こした事件の大きさに気付いた。
「警察や! 全員動くな! この建物は包囲した! 誰1人逃がさんからな!!」
そこにヤクザ刑事の怒声が響き、次々と雪崩れ込む警察官を見て、朱痰犯閃は諦めたのかやる気が失せたのか、その場で項垂れるのであった……
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
炎華繚乱 ~偽妃は後宮に咲く~
悠井すみれ
キャラ文芸
昊耀国は、天より賜った《力》を持つ者たちが統べる国。後宮である天遊林では名家から選りすぐった姫たちが競い合い、皇子に選ばれるのを待っている。
強い《遠見》の力を持つ朱華は、とある家の姫の身代わりとして天遊林に入る。そしてめでたく第四皇子・炎俊の妃に選ばれるが、皇子は彼女が偽物だと見抜いていた。しかし炎俊は咎めることなく、自身の秘密を打ち明けてきた。「皇子」を名乗って帝位を狙う「彼」は、実は「女」なのだと。
お互いに秘密を握り合う仮初の「夫婦」は、次第に信頼を深めながら陰謀渦巻く後宮を生き抜いていく。
表紙は同人誌表紙メーカーで作成しました。
第6回キャラ文芸大賞応募作品です。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!
隣の家に住むイクメンの正体は龍神様でした~社無しの神とちびっ子神使候補たち
鳴澤うた
キャラ文芸
失恋にストーカー。
心身ともにボロボロになった姉崎菜緒は、とうとう道端で倒れるように寝てしまって……。
悪夢にうなされる菜緒を夢の中で救ってくれたのはなんとお隣のイクメン、藤村辰巳だった。
辰巳と辰巳が世話する子供たちとなんだかんだと交流を深めていくけれど、子供たちはどこか不可思議だ。
それもそのはず、人の姿をとっているけれど辰巳も子供たちも人じゃない。
社を持たない龍神様とこれから神使となるため勉強中の動物たちだったのだ!
食に対し、こだわりの強い辰巳に神使候補の子供たちや見守っている神様たちはご不満で、今の現状を打破しようと菜緒を仲間に入れようと画策していて……
神様と作る二十四節気ごはんを召し上がれ!

愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜
シュガーコクーン
ファンタジー
女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。
その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!
「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。
素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯
旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」
現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる