お兄ちゃんの前世は猫である。その秘密を知っている私は……

ma-no

文字の大きさ
上 下
70 / 130
小学校である

070 覚悟である

しおりを挟む

 お兄ちゃんの前世は猫である。私の名前は広瀬ララ。まさかまだ恨まれていたとはビックリだ。

 朱痰犯閃スタンハンセンの総長、佐藤虎太郎の現在は、中学もろくに行かずに高校もすぐに暴力事件を起こして退学になったらしい。家にも帰っていないらしく、どこで何をしているかもわからないとヤクザ刑事が教えてくれた。

「やっぱ、警察役立たず……」
「おまっ……ヤクザと違って暴走族の案件はやりにくいんやぞ」
「ふ~ん……ところで暴走族って、交通課が対応するんじゃないんですか? なんでマル暴が出て来てるんですか??」
「おい、この嬢ちゃん、なんでこんなことまで知ってんだ??」
「話を逸らした~。てことは、朱痰犯閃スタンハンセンはヤクザと繋がっているのね……シャブとか?」
「なっ……言えるわけないやろ! 小学生がシャブとか言うなや! まさかやってるんじゃないやろうな??」

 まさか小5女子がここまで鋭いとは思っていなかったのか、ヤクザ刑事も一瞬顔に出てしまった。それを隠そうと怒ってるけど、私に手を出せるわけがない。

「睨んでも怖くありませ~ん。私のバックには、こわ~い弁護士先生がついていま~す」

 念のため弁護士がついているとダメ押ししてやったら、ヤクザ刑事は落ち着いた顔になった。

「広瀬ララ……広瀬……お前、あのべっぴんすぎる弁護士の娘か?」
「美人すぎるね。ママが警察が何もしないって聞いたら、どう思うでしょうね?」
「お前な~。そんな悪知恵ばっかり働かせていたら、いい大人になれへんぞ」
「別に私はどうでもいいの。問題はお兄ちゃんよ。この学校にはお兄ちゃんの仲間がいっぱい居るの。その仲間に危害が及んだら、何をするかわからない……今度こそ、佐藤君が殺されるかもしれないの。だから私は、そうならないようにありとあらゆる手段を用いるわ」

 私の覚悟の目を見て、ヤクザ刑事も真面目な目を返して来た。

「お前の兄貴、本当にそんなことできるんか?」
「できる」
朱痰犯閃スタンハンセンは、50人以上いるぞ?」
「数なんて関係ない。お兄ちゃんがキレたら、自分の命を省みずボスの首を噛みちぎるわ」
「……チッ。マジみたいやな」

 メンチの切り合いに負けたのは、ヤクザ刑事。先に目を逸らして、頭を掻きながら考えている。

「わかった。俺ができる限りのことはやってやる。これ、俺の直通電話や。もしも命の危機がある場合は、すぐにかけろ。100人のマル暴引き連れて5分以内に駆け付けてやるわ」

 ヤクザ刑事から譲歩を引き出し名刺を受け取ると、私は茶々を入れる。

「マル暴って、そんなに人数いるの?」
「お前な~。察しろよ~」

 やっぱりいなかったんだね。

 カッコイイことを言っていたヤクザ刑事は、最後まで私に言い負かされてカッコ悪く去って行くのであったとさ。


 この日はけっこうな騒ぎだったので、しばらく警察が小学校の周りを固め、午後の授業が終わった頃に、連絡を受けた保護者が迎えに来ていた。
 私とジュマルは母親が迎えに来てくれたけど、警察と話があると言うので6年生のクラスに残って、窓から心配そうに歩く保護者や生徒を見ていた。

「あ~あ。みんなに迷惑かけちゃったな~」
「ララは何もしてへんやん。てか、俺が悪いんか? それやったらゴメン」
「ううん。お兄ちゃんも悪くない。でも、起点であることには変わりないのよね~」
「ようわからんけど、どついたらええんか?」
「う~ん……最悪、それしか手がないかも……」
「ララが止めへんの珍しい……」

 口うるさく暴力を止めていた私が否定しないので、ジュマルも何かを感じ取ったみたいだ。
 それから2人で喋ることもなく外を見ていたら、教室に母親が入って来た。

「ララちゃ~ん。ジュマ君。お待たせ~」

 私は机から飛び下りてランドセルに手を掛けたら母親が変なことを言い出した。

「ララちゃん。ヤクザさんとメンチ対決で勝ったって本当??」

 なので、ズコーッとこけそうになった。

「そんなことするわけないでしょ~。てか、誰がそんなウソ言ってたの?」
「ヤクザさん本人から聞いたんだけど……」
「あの人、ああ見えて刑事さんだよ?」
「あっ! 刑事さんの間違い。でも、あの顔はどう見てもヤクザよね? ママ、何もされてないのに被害届け出しそうになったわ~」
「なに罪?? アハハハハ」
「詐欺罪……いや、わいせつ物陳列罪でもいけるか……アハハハハ」

 そんなバカ話をしながら皆で外に出ると、タクシーに乗り込み家路に着く。そうして家に帰り、父親も帰宅して夕食を食べ終えたら、家族会議が始まる。

「なんで俺まで……」
「お兄ちゃんのことだからよ。てか、いつもお兄ちゃんのことを私たちで話し合ってるのよ! 一回ぐらい参加しなさい!!」

 今日はジュマルも強制参加。よくよく考えると、この家族会議はジュマルのことが8割ぐらい占めているから、当たり散らしてしまった。
 その間に母親は今日の出来事を父親に説明して、私もジュマルの服を掴みながら補足する。

「なるほど……暴走族相手じゃ、ママも警察も分が悪いのか……」
「そうね。暴力団なら、構成員も所在地もハッキリしてるから、接近禁止とかならやろうと思えばできるけど……」
「暴対法の適応外だもんな~」

 両親が賢い会話をしているなと眺めていたら、答えは出たようだ。

「もうやっちゃえ。責任はパパが取る」
「どんな罪だろうと、ママが最小のダメージにしてあげるわ」

 その答えも、やっぱりカッコイイ。私が母親の時は、そんなこと言えなかったよ。あの猫も責任取るとか言って、土下座しただけだったし。まぁあんなに必死なあの人の顔は見たことなかったか……

 私が前世に子供が起こした事件というには些細な傷害事件のことを思い出していたら、ジュマルにも両親の覚悟は伝わったようだ。

「ララも似たようなこと言ってたで?」
「へ??」
「ララちゃん?」
「ララ??」
「言ってない言ってない!? お兄ちゃんの暴力事件を覚悟しただけ。責任は取らないから安心して!!」

 いや。ジュマルが梯子を外したから、両親は出番を取られたようなガッカリした顔を私に向けるので、必死に言い訳するのであったとさ。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

炎華繚乱 ~偽妃は後宮に咲く~

悠井すみれ
キャラ文芸
昊耀国は、天より賜った《力》を持つ者たちが統べる国。後宮である天遊林では名家から選りすぐった姫たちが競い合い、皇子に選ばれるのを待っている。 強い《遠見》の力を持つ朱華は、とある家の姫の身代わりとして天遊林に入る。そしてめでたく第四皇子・炎俊の妃に選ばれるが、皇子は彼女が偽物だと見抜いていた。しかし炎俊は咎めることなく、自身の秘密を打ち明けてきた。「皇子」を名乗って帝位を狙う「彼」は、実は「女」なのだと。 お互いに秘密を握り合う仮初の「夫婦」は、次第に信頼を深めながら陰謀渦巻く後宮を生き抜いていく。 表紙は同人誌表紙メーカーで作成しました。 第6回キャラ文芸大賞応募作品です。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

隣の家に住むイクメンの正体は龍神様でした~社無しの神とちびっ子神使候補たち

鳴澤うた
キャラ文芸
失恋にストーカー。 心身ともにボロボロになった姉崎菜緒は、とうとう道端で倒れるように寝てしまって……。 悪夢にうなされる菜緒を夢の中で救ってくれたのはなんとお隣のイクメン、藤村辰巳だった。 辰巳と辰巳が世話する子供たちとなんだかんだと交流を深めていくけれど、子供たちはどこか不可思議だ。 それもそのはず、人の姿をとっているけれど辰巳も子供たちも人じゃない。 社を持たない龍神様とこれから神使となるため勉強中の動物たちだったのだ! 食に対し、こだわりの強い辰巳に神使候補の子供たちや見守っている神様たちはご不満で、今の現状を打破しようと菜緒を仲間に入れようと画策していて…… 神様と作る二十四節気ごはんを召し上がれ!

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

処理中です...