お兄ちゃんの前世は猫である。その秘密を知っている私は……

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小学校である

062 広瀬家の逆襲である

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 お兄ちゃんの前世は猫である。私の名前は広瀬ララ。結局あの黒猫キーホルダーはなんだったんだろう?

 母親がじん君の弁護士になって1億円を請求したところでチャイムが鳴ったので、一時休戦。お昼を食べてから場所を変え、井口先生と校長先生と教頭先生、3人との対戦に広瀬家は挑む。

「なんで私だけ……」
「当事者の話も必要でしょ?」
「当事者はお兄ちゃんだよ~」

 父親は外で電話中の上に私だけ呼び出されたので、グチってやったが母親は逃がしてくれない。ジュマルなんて、今ごろ自習のプリントもやらないで寝てるはずだ。いい身分だな!

「では、始めましょうか」

 教頭先生が私をチラッと見てから開始を告げる。こんな大事な話をする大人の中に1人だけ子供がいるのは変だもんね。
 教頭先生の話は掻い摘まんで言うと、保身の嵐。なんとか穏便に済ませてくれないかと懇願している。そりゃないわ~。

「事を大きくしたくないことは重々承知しております。しかし今回の件は、保護者の耳に入った時点で大きくなるのは目に見えています。直ちに正直に発表することこそが、学校、ひいては責任者が生き残るただひとつの道だとお考えください。これは私が学校を守る側だった場合の、弁護士としての助言です」
「「確かに……」」

 もうすでにクラス全員に知られてしまっては口を塞げない。母親の助言はさもありなんと、教頭先生と校長先生はコソコソと耳打ちしあっている。
 それで焦ったのか、井口先生は立ち上がった。

「騙されてはなりません! 助言とか言って優位に立とうとするのは、悪徳弁護士の常套手段じょうとうしゅだんですよ! 向こうは勝てる勝負ではないから、こちらに負けを認めさせようとしているだけです!!」
「「「確かに……」」」
「ララちゃん? ララちゃんまで納得しないでくれない?」

 弁護士ドラマでもこんなシーンがあったと私が頷いていたら、母親に優しくツッコまれた。

「私は悪徳弁護士じゃないよ? テレビで巨悪を退治した正義の弁護士って言われていたの、忘れてない??」
「「「確かに!!」」」

 母親は私に説明していたのに、校長先生も教頭先生も同時に思い出して、勝利の天秤は一気に母親に傾いた。テレビの影響って凄いね。

「正義? 勝てば官軍ってだけでしょう。そもそも子供たちは、僕をおとしいれようと共謀して噓をついているだけですよ? 僕がどうして糸本さんをイジメるのですか? 教師ですよ? ジュマルさんがイジメていたのを止めていただけです。それを全員で僕に罪を擦り付けているんですよ」

 井口先生はペラペラと噓を言い続けるので、私が「いけしゃあしゃあと……」と睨んでいたら、母親が発言権をくれた。

「お兄ちゃんは、どうしようもないバカ。何かを解決しようとしたら、必ず暴力を使う。残念だけど、そんな頭はないの。そんなことも知らないなんて、何ヶ月担任してるんですか? あんたは教師なのに、子供1人1人の性格をきちんと把握していないと言ってるようなモノですよ??」
「おま……ララさんが裏で手を引いていたんでしょう。悪知恵はよくないですね」
「私が手を引いていたら、もっとスマートにあんたを消しています。悪知恵あるんで」
「「こわっ……」」
「ララちゃん言いすぎだよ~」

 せっかくいただいたチャンスだから怒りをぶつけたのは悪手。校長先生たちを震え上がらせて、勝利の天秤はフラットまで戻ったかも? 女児の発言じゃないもんね。
 その雰囲気の悪いなか、外で私用のスマホをいじってばかりしていた父親が入って来てくれた。

「首尾は?」
「バッチリ」
「じゃあ、決着と行きましょうか」

 父親が座ると両親は小声でこんなことを言っていたから、ひょっとしたら私は時間稼ぎに使われていたのかもしれない。してやられたな~。


「それでは学校に対しての、こちらの要求を提示します」

 母親の言葉で部屋に緊張が走った。

「学校は、井口先生を即刻解雇。教育委員会にも呼び掛け、教育現場から永遠に排除してください」
「それはいささかやり過ぎでは……」
「いえ。学校を守るため、子供たちを守るためには必要な措置です」
「校長! こんな要求、ただの脅迫ですよ! 聞く必要なんてありません!!」

 あまりにも重い処罰に校長先生が及び腰になっていたから、井口先生は息を吹き返した。そこに、父親はスッとスマホを前に出した。

「こちらは井口先生の裏アカです。ネット上にある日記帳だと認識してくれれば結構です。内容を読みますね。あのダブルハゲ、使えね~。また仕事を押し付けられたよ。ま、俺は副担に押し付けて帰ってやったけどな」
「「ダブルハゲ~??」」
「はい? え? こ、こんなの知りませんよ! 僕じゃありません! 誰の裏アカなんですか!?」

 井口先生は明らかに驚いた表情をしていたが、自信を持って否定している。アレはバレないと確信している顔だ。

「あなたです。特定されないように注意をしているようでしたけど、ここに鏡がありますでしょ? アップにしたら……ほら? あなたの顔ですよね」
「ち、違う! 似てるだけだ!!」
「あと、別のアカウントは普通に顔出しした上に部屋の写真も載ってます。これ、間取りも家具も同じですよ。よって、このふたつのアカウントは、井口先生……あなたの物だ~!!」

 父親がズバッと指差して決めているが、こっち見ないで。私にいいとこ見せようとしてるのバレバレで、笑ってしまいそうなの。

「それは置いておいて、本人確認はそういうことです。ただ、ここには同僚の先生や子供への悪口が多く出て来るんですよね。さらにイジメを助長していた内容もあります。もっと言いますと、井口先生、前の学校で同じことしてクビになってますよね? 過去の文章に残ったままですよ??」
「だ、だから、それは俺のじゃない!!」
「この証拠も警察に提出しますので、判断は任せます。否定するなら警察でしてください」

 父親のターンはここまで。母親に託す。

「校長先生、教頭先生。このことを知っていて雇っていたとなったら、大問題になりますよ?」
「し、知らない……私たちも聞かされていません」
「ここは、広瀬さんの案に乗ったほうが……」

 ここまでされては、校長先生たちも井口先生を切るしか生き残る道がない。しかし、切られる側も必死だ。

「俺をクビにしたら後悔するぞ! こんな裏アカ、消したら終わりだ! 証拠なんて何もなくなるんだよ! 不当解雇だとお前らを訴えてやるからな!! そうなったら、お前らの評価も下がるだろうな~。わはははは」

 死なば諸共。井口先生は本性を現し、脅してでも生き残りに賭ける。そのやり取りのなか、両親は涼しい顔で黒猫キーホルダーのフタを外してスマホに突き刺し、ポンポンと画面を叩くと怒鳴り声が聞こえて来た。

「それって盗聴器だったの??」
「やだな~。ララちゃん。盗聴器なんて人聞きが悪い。ただの録音機能が付いたキーホルダーだよ」
「おっ。ここじゃないか? お~。意外と綺麗に聞こえるな~。あれ? 井口先生が殴るぞとか言ってるぞ??」

 私たちがのほほんとした会話をしていると、井口先生たちはゆ~っくりとこちらを見た。

「本当だね。これでお兄ちゃんが殴られたらどうなるの?」
「正当防衛と言いたいけどね~……過剰防衛気味だからね。でも、先に殴り掛かったのは井口先生みたいだから、情状酌量はあるかもね」
「ま、これで裏アカを消したところで証拠は残るな」
「うんうん。さっきの校長先生を脅していたところも録音してるから、学校側の弁護もしちゃおっかな~? お金、ガッポリよ」
「ママ、がめつい。アハハハハ」
「「アハハハハ」」

 広瀬家、大爆笑。教室という密室での証拠があると知った井口先生は、その笑い声を聞きながら力なくその場に座り込んだのであった……
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