61 / 130
小学校である
061 大人のケンカである
しおりを挟むお兄ちゃんの前世は猫である。私の名前は広瀬ララ。私にだって許せないことはある。
私が井口先生に怒声を浴びせて親指を下に拳を突き付けたら、教室に静寂が訪れた。
「何があったのですか!?」
そこにジュマルの前担任、若い女教師、池田先生が血相変えて飛び込んで来た。おそらく、結菜ちゃんが呼んで来たのだろう。
「何もかにも、広瀬ジュマルさんに、僕が殴られたんですよ。突然暴れて手に負えなくて……これは、警察に通報する案件です」
井口先生は味方が来たからか言葉遣いが丁寧になり噓をペラペラと喋っていたが、池田先生は私に近付いて来た。
「ララさん。何があったのですか?」
「なっ……池田先生は、僕が噓を言っているとでも思っているのですか?」
「それはわかりません。しかし、ジュマルさんが暴力を振るうには、必ず理由があると知っています。まずはその理由を聞きたいだけです」
「そのララさんは、ジュマルさんの妹ですよ? ジュマルさんのために、あることないこと言うに決まってますよ」
「いいえ。ララさんは子供とは思えないぐらい分別があります。私は何度も助けられましたからね。何があったか聞かせてくれる?」
池田先生は井口先生を押し退けて私に説明を求めるが、ここは私の出番ではないはずだ。
「その人の言う通り、私は部外者で兄の親族です。岳君たちに聞いてください」
「そ、そう……分別ありすぎ。小2だよね?」
だから2人に譲ったのに、池田先生は小声で何を言ってるんだか……小2ですよ。
それから10分ほど経つと、池田先生は岳君だけでなくもう2人から話を聞き終えて、怒りを抑えながら井口先生に向き直った。
「いまの話は本当なのですか?」
「本当なわけありませんよ。子供の言っていることですよ? 信じるのですか??」
「私だって、井口先生のことを信じたいですよ。でも、これだけ証言が一致しているのですよ?」
「甘い。池田先生は甘いです。僕がこれまで、どれほどの子供に噓をつかれたか……池田先生。子供とは、そういうモノなんですよ」
20代の池田先生より、井口先生のほうが経歴が20年以上も長いから押され気味だったので、私が割り込む。
「こんな教師……いえ、こんな人間の言葉に信念を乱されないでください。私たちは全員、池田先生の味方ですよ? 好きなように反論してください。負けたとしても、私たちがストライキでもなんでもして仇は討ってあげますから。ね? みんな! こいつを許せないよね!!」
「「「「「うん!!」」」」」
「ララさん、先生は死ぬの??」
「言葉の綾ですがな~」
せっかくクラスメートを焚き付けてあげたのに、池田先生はいまいち盛り上がらず。私の言い方が悪かったみたいだ……
それから池田先生は私たちの弁護を続け、井口先生がのらりくらりとかわしていると他の先生も集まり、場所を変えようとなったその時、待ち人来たる。
「広瀬ジュマルの父です! 息子が申し訳ありません!!」
「あれ? ママは??」
「もうすぐ着くと思う……ララ、パパじゃダメなのか? メール見て急いで来たんだぞ~」
急いで来てくれたのはありがたいけど、私は社長じゃなくて弁護士が欲しかったの! とか思っていたら、そのすぐあとに母親が走って来た。
「広瀬ジュマルの母です! 息子が申し訳ありません!! あれ? パパのほうが早かったの??」
「タッチの差だったね」
ここは母親が先に来てくれたら登場シーンもかっこよかっただろうに、父親に先を越されては締まりに欠ける。ちょっと恥ずかしそうだ。
その照れたような顔で母親は教室内を見回して、どのような状況か把握しようとしている。
「えっと……ララちゃん。どういった状況?」
「外で話そう。お兄ちゃんも来て!」
「んがっ……」
「騒ぎの中心人物がなに寝てるのよ!!」
やることもないジュマルは寝ていたので、引っ張って教室を出たら、広瀬家大集合。コソコソと先程のやり取りを両親にインプットする。
そんな私たちを尻目に、ジュマルは頭の後ろで腕を組んで他人事。お前のことだよ。
「なるほど……わかったわ。あとのことはママに任せて。パパは井口先生のこと調べてくれる?」
「スマホしかないからたいしたことは調べられないけど、できるだけ集めるよ」
「ジュマ君は、アレ押した?」
「アレ? ああ、これか。押してるで」
「でかした! それちょうだい」
母親は父親に指示を出し、ジュマルからは猫型の黒いキーホルダーを受け取っているから、私は何か気になる。
「それはなに?」
「フッフ~ン♪ 秘密兵器。さあ、反撃するわよ!」
母親は黒猫キーホルダーをプラプラ揺らして教室に入って行くのであった。
「皆様、この度はご迷惑お掛けしまして、申し訳ありませんでした」
教室に入ると母親は頭を下げるので、私はジュマルの頭を押さえながら自分も下げる。
「井口先生におきましては、息子が暴力を振るったことをここにお詫びします」
再び謝罪の言葉を発した母親であったが、今回は頭を下げる素振りがない。
「当方は、井口先生への謝罪はこれ以上いたしません。ですから、刑事告訴、民事訴訟など、好きにしてください。ジュマルには、刑法に則って罪を償わせます。しかしながら、民事訴訟に関しては、当方は徹底的に戦う所存です。コストに見合った結果は、絶対に井口先生にもたらさないと約束します」
私は「笑顔でなに言ってんだこの人?」って母親の横顔を見ていたら、井口先生が異議を申し立てる。
「暴力を振るっておいて、それはないんじゃないですか? 慰謝料はきっちり支払ってもらいますからね」
「ですからそちらの件は、ご勝手にやってください。訴状が届くのを楽しみに待っています」
「はあ? こっちは被害者……」
「続きまして!」
井口先生の声を遮って、母親は笑顔から怒りの表情に変わった。
「私は現時刻を持って糸本仁君の弁護人となります。井口先生の行為は、ハラスメントを超えた児童虐待の疑いがあります。こちらは、即刻警察に通報します」
「なっ……ふざけ……」
「並びに! 仁君が受けた精神的苦痛に関する民事訴訟を起こします。額は1億円! 私の持てる力を注ぎ込みますので、覚悟しておいてください」
「い、1億……」
母親が人差し指をビシッと前に出して決め顔すると、井口先生はあまりの額に後退り、子供たちは「かっこいい~」と尊敬の眼差しを向けるのであった……
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~
丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。
一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。
それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。
ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。
ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。
もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは……
これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。
美少女に転生して料理して生きてくことになりました。
ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。
飲めないお酒を飲んでぶったおれた。
気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。
その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる