お兄ちゃんの前世は猫である。その秘密を知っている私は……

ma-no

文字の大きさ
上 下
60 / 130
小学校である

060 緊急事態である

しおりを挟む

 お兄ちゃんの前世は猫である。私の名前は広瀬ララ。緊急事態だ!

 結菜ゆいなちゃんから全てを聞かずに走り出したら続きが後ろから聞こえたので、階段を駆け上った踊り場で私はポシェットからスマホを取り出した。

「早く出て~……留守電!? ママ! 緊急事態!!」

 母親のスマホは留守電だったので用件だけ簡潔に告げたら、グループトークにも一言書いてダッシュで階段を上り切る。
 そしてジュマルのクラスの前で滑るように急停止。踏ん張ってドアを勢いよく開けたら、担任のおじさん教師、井口先生に馬乗りして両手でビンタしているジュマルの姿が目に入った。

「お兄ちゃん! 離れろ! 待て! 離れろ~~~!!」

 ジュマルは興奮しているのか、私の怒鳴り声すら耳に入っていない。私はまた走り出し、飛び掛かって怒鳴ったがこれも効き目がなかった。

「最終手段よ! お兄ちゃん、喰らえ~~~!!」

 こんなこともあろうかと、私のポシェットには武器が搭載されている。その武器の真空パッケージを外し、ジュマルの口に突っ込んでやった。

「うまっ!? あ、ララ……うまっ!?」

 酒飲み大好き、焼き魚の燻製だ。旨味成分たっぷりの魚をくわえたジュマルは、ようやく私に気付いた。

「いいから先生から離れなさい!!」
「でも、こいつが……」
「わかってる! 私はお兄ちゃんの味方だよ!!」
「う、うん……」

 私の剣幕に押されたジュマルは言い訳もできずに燻製をカジカジしながら下がって行くのであった。


「先生。大丈夫ですか? 兄が暴力を振るって申し訳ありません!!」

 顔を押さえてまだ立ち上がろうとしない井口先生に、私は謝罪から。頭を下げて待っていたら、井口先生は体を起こして壁に背中をつけた。

「ふざけるなよ……教師に手をあげたんだぞ! ガキの安い頭を下げたぐらいで許されると思うなよ!!」
「もちろん両親からも謝罪はあります。いまは落ち着いて話を聞かせてください」
「なんでガキなんかにするんだ! 警察! 警察だ!!」

 私が誠心誠意、頭を下げても井口先生の興奮は収まりそうにない。そのせいで、下がっていたジュマルが近付いてきてしまった。

「お前、なに俺の妹に怒鳴っとんねん。ララもこんな奴に謝らんでええで」
「お兄ちゃんは黙ってて。お願い」
「ハッ……妹に頭を下げさせて、自分は謝罪もなしか。どんな教育を受けたら、こんな猛獣になるんだ!」
「お前!!」
「お兄ちゃん! 下がれ! あと、あんたも大人なんだから言葉には気を付けなさい!!」

 私はジュマルを押し返しながら、井口先生を睨んだ。

「ほら? 素が出たな。お前もジュマルと同じ人種だ」
「ええ。同じ人間です。ですから、同じ人間のあんたも守っているのよ」
「はあ~?」
「わからないの? お兄ちゃんは手加減してんのよ! 下手したらあんたは死んでたのよ! 私はお兄ちゃんを人殺しにしたくない!! もういい! ドサンピン。何があったか説明しなさい!!」
「へ、へい!」

 本当は被害者から先に聞き取りをしたかったが話にならないので、がく君を呼んで説明してもらう私であった。


 ジュマルと井口先生のいざこざは、1学期の後半から。糸本じん君という吃音きつおんの生徒が井口先生からからかわれていたから、ジュマルが怒って止めたそうだ。
 それが気に食わなかったのか井口先生はジュマルに標的を移したらしいが、ジュマルはクラスのボス。誰も笑ったりしない。なんならジュマルは寝てるから聞いてない。
 ジュマルをイジるにも時期が悪く、母親が美人すぎる弁護士として活躍したから、分が悪いと捨て台詞を残して井口先生も諦めたらしい。

 「美人すぎる弁護士が母親でよかったな~?」って、情報漏洩はお前か~い!

 それはムカつくけど今は置いておいて、2学期になると仁君イジメは再燃。ジュマルが寝てるところを狙ってやっていたらしい。
 仁君もジュマルに気を遣って言わなかったらしく、周りにも我慢するから黙っているようにとお願いしたそうだ。しかし、エスカレートする井口先生に皆が怒って、代表して岳君がジュマルにチクる。

 ジュマルも頭を使って寝たフリをしていたら、ついに今日、現場を押さえた。その時の井口先生は、仁君が気持ち悪いだとか、みんなで無視しようとかイジメを先導していたのだ。
 それを聞いたジュマルは机を叩いて井口先生に詰め寄った。この時点では怒鳴るだけだったのだが、井口先生が言ってはならないことを言ってしまった。

「弱者はなぁ。強者から何をされても文句言えないんだよ。お前らのようなガキなんて、俺が本気出したら一発だぞ!」

 私と真逆のことを言って殴り掛かったのだ。ジュマルは私の言葉は、ほぼ絶対。真逆のことを言う井口先生はボコボコにして、いまに至る……


「はぁ~~~……」

 岳君から全てを聞き終えた私は、怒りを抑えるように大きく息を吐きながら井口先生を見た。

「何か反論はありますか?」
「ああ。全部噓だ。ガキは噓しか言わないんだよ」
「ガキガキガキガキ……」

 せっかく抑えた怒りも、井口先生の発言で私は爆発。

「まず最初に言っておきます。兄の暴力については謝罪します。訴えてくださったら、治療費程度はお支払いします。でもね! 仁君をイジメたことは、私は絶対に許さない!!」
「はあ?」
「真っ先に守らないといけない人間が何してんのよ! あんた教師でしょ! 教師が守ってくれなかったら、これから仁君はどうなるのよ! 絶望よ! 金輪際、大人に助けを求められなくなるの! なんてことしてくれるのよ!! そんな人間に教師を名乗る資格はないわ!!」
「何を偉そうに……」

 私が怒鳴り散らしても、井口先生の心には響かないみたいだ。

「あんたはわかってないだろうけど、あんたが言ったガキにだって心はあるのよ。ここにいる全員が、あんたの敵よ!」

 私が両手を広げると、井口先生は周りを見渡して怯んだ顔を見せた。おそらくだが、生徒全員に軽蔑の目を向けられているのだろう。

「だからどうした! 俺は教師でお前らはただのガキだ! どっちが信用されるかな!?」
「信用なんてどうでもいいのよ。私がどんな手を使ってでもあんたを地獄に叩き落としてやるわ! もう教師でいられると思わないことね!!」

 それでも反論する井口先生に、私は拳を突き付けて親指を下に向け、不敵に笑うのであった……
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています

水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。 森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。 公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。 ◇画像はGirly Drop様からお借りしました ◆エール送ってくれた方ありがとうございます!

婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します

けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」  五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。  他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。 だが、彼らは知らなかった――。 ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。 そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。 「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」 逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。 「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」 ブチギレるお兄様。 貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!? 「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!? 果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか? 「私の未来は、私が決めます!」 皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!

処理中です...