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小学校である

047 母親の秘密である

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 お兄ちゃんの前世は猫である。私の名前は広瀬ララ。先生ではない。小1だよ?

「あはは。そんなことあったんだ~」
「「「あはははは」」」

 今日は日曜日。隔週で集まるようになったママ友スリーは、私たちの苦労話を聞いてめっちゃ笑ってる。だったら死ぬほど笑わせてやる!

「母の絵です」
「「「ぶはっ!? あはははは」」」
「ララちゃん! どこから持って来たの!?」

 母親の「猫」という題の絵を見せたら、ママ友スリーは吹き出してぶっ倒れた。どこからも何も、母親がゴミ箱に捨てた物を回収して自分の部屋に隠していた物だ。
 この騒ぎには子供たちも集まって来たので見せてあげたら、漏れなくぶっ倒れた。母親の絵は最強だ。プププ……

「こちらは兄の絵です」
「「「「「ぶはっ!? あはははは。もうやめて~~~。あはははは」」」」」

 さらに畳み掛けたら、みんなお腹が痛そう。捻れちゃったんだね。気持ちはわかる。私も次の日は筋肉痛だったもん。

 これ以上はさすがに死にそうなので、母親が音楽の話題に変えて大画面テレビに私とジュマルの発声練習を見せていたけど、追い討ちになっただけだと思う。

「なんで『にゃ~にゃ~』言ってるのよ~」
「「「「「あはははは」」」」」

 そりゃ、こんな雰囲気のところに意味不明な発声練習は笑うに決まってる。

「まさかママ……さっきの仕返し??」
「仕返しじゃありませ~ん。かわいいから見せただけで~す」
「ぜったい仕返しだよ~~~」

 母親の策略で、私まで恥を掻かされたのであったとさ。


 皆の笑いが落ち着いたというか笑い疲れてダウンして、ようやく話ができるようになったら木原さんから質問が来た。

「これでジュマル君もカラオケに参加できるようになったの?」
「いちおう……でも、あんまり上手くないよ」
「へ~。ジュマル君の歌も聞きたいな~」
「どちらかというと下手だよ?」
「まぁまぁ。カラオケやろうよ~」

 木原さんは私の忠告を聞かずに勝手にカラオケを準備したので、仕方なく私がジュマルの十八番を入れて歌わせてみた。

「う~ん……下手は下手だけど、笑えるほどでもないわね」
「だから止めたの~」

 ジュマルは音程を微妙に外して抑揚が少ないので、アップテンポの歌でも盛り上がりに掛ける。何を歌わせても動揺みたいに聞こえるのだ。

「やっぱりカラオケといえば、ララちゃんの独壇場よね~。次、いってみよう!」
「ええぇぇ~……」

 木原さんに押されて私は嫌々マイクの前に立つと、仕方なく歌い出す。

「んあぁ~あぁ~。つがるかいきょう、ふゆぅげぇしきぃぃ~~~♪」
「「「「「ララちゃ~~~ん!!」」」」」

 でも、超盛り上がるから私もノリノリ。演歌を3曲も歌っちゃったよ。でも、お母さん方も演歌を聞く年じゃないと思うんだけど、わかって聞いているのかしら?


 めちゃくちゃ盛り上がった私のリサイタル……いや、ママ友の集まりも16時前には終了。ママ友スリーは感謝の言葉を残して帰って行く。
 それから父親が戻り、楽しい夕食をしてジュマルの宿題や明日の予習、お風呂に入って就寝するいつもの日常。

 その日の深夜、トイレで目覚めてしまった私は喉の渇きもあったから1階のキッチンにまで下りたら、ダイニングに明かりがついていた。

「ママ……何してるの??」

 ダイニングでは、分厚い辞書を開いてノートを取る母親の姿。私に気付いた母親は、背伸びしながら振り返った。

「ん~? ララちゃんどうしたの?」
「喉渇いたから……」
「そっかそっか。お茶でいい? ママも飲もっと」

 母親は質問に答えずにキッチンに向かったので、私はキッズチェアに登って待っていたらお茶を持って戻って来た。

「これって弁護士のお勉強??」
「よくわかったね~。これ、六法全書っていうの。凄く分厚いでしょ? 昔は全部頭の中に入ってたのにな~……7年のブランクはきついね」

 母親はケラケラ笑いながら六法全書を私に見せてくれた。私は「文字、ちっさ!」とか思いながらお茶を飲む。

「なんで勉強してるの?」
「そろそろ仕事しようかと思ってね。準備してたの」

 やっと母親が私が知りたい答えを言ったけど、私はコップを落とし掛けた。

「家計、火の車……私、習い事辞める……」
「ララちゃん? 違うよ? てか、どこでそんな言葉覚えて来るの!?」
「職員室……」
「ララちゃんって休み時間、いったい何してるの??」

 私が真っ青な顔をしていたから母親は焦ったみたいだけど、私の返しが気になって普通のテンションに戻った。

「2人とも小学校に入ってから、ママは暇になっちゃったからね。仕事しようかと思っただけなの」
「家事と仕事の両立って大変じゃないの?」
「まぁ……そうかもしれないね。でも、パパも協力してくれるって言ってたから大丈夫」

 母親はウィンクしているけど、私は心配だ。私の元夫なんて、ぜんぜん協力してくれなかったし、パンツの場所すら知らなかったんだからね!

「パパ、心配……」
「あはは。そう思うよね~? でも、パパはああ見えて家事得意なのよ? ララちゃんたちが生まれる前は、2人で家事を分担してやってたんだから。もしかしたら、パパの割合のほうが多かったかも?」

 なんだって!? あの容姿で仕事まで出来て家事までやるのか! どっかの猫に見せてやりたいわ!!

「あはは。信じられないか。まぁちょっとはララちゃんたちに不自由させてしまうかもね~……やっぱり家政婦さんでも雇おっかな~?」

 私が驚愕の表情をしていたら、母親も勘違いして金に物を言わすつもりになっている。ちょっと愚痴ってただけなのに……

「お兄ちゃん、家政婦は嫌がると思う……」
「確かに……まぁ、まだ先の話だから、もうちょっと考えるよ。それよりララちゃんも一緒に勉強する~??」
「ムリ。重たくて持てないよ~」
「あははは。そこ? 大人になったら持てるようになるから、将来はママと一緒に仕事しようね~??」
「検討させていただきます」
「なんで政治家みたいなこと言うの!?」

 弁護士の道は険しいと知っているからだ。いまは天才に見えるだろうけど、年を重ねる事に年相応になって行くのは目に見えている。
 私は母親の誘いと頬ずりを押し返しながら、将来のことに思いを馳せるのであった……
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