お兄ちゃんの前世は猫である。その秘密を知っている私は……

ma-no

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小学校である

041 50メートル走である

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 お兄ちゃんの前世は猫である。私の名前は広瀬ララ。よく噓をついている私が言うのもなんだけど、隠蔽はダメだよね~。

 ジュマルが体育の授業を受けていないと知った私はやらかしてしまったけど、ひとまず先生方は落とせたので、次はクラスメート。昨日から授業をサボったことを「ズルイズルイ」とうるさいのだ。
 というわけで、1人1人手を握って謝罪して行き、「許す」とムリヤリ言わせて満面の笑顔を見せてやった。

「「「「「オッフ……」」」」」

 その結果、男も女も関係なく私の笑顔にメロメロ。美人に生まれるって、なんてお得なの!

「ひ、広瀬さん……ちょっと怖いわよ? サキュバスだったの??」
「あ……違うんです違うんです! これは手っ取り早くですね!!」

 安達先生は、クラスメートに魅了をかけて回る私に恐れおののくのであったとさ。


 クラスメートは早くも落ち着いてくれたのですぐに平和が戻ったけど、後日、先生方がクラスメートにジュマルと私の関係を説明しようと、2年1組との合同体育授業を開いてくれた……遅いよ。
 ここで勝手に走り回るジュマルを見せて、これをやめさせるためには私がいないとどうしようもないこと、しばらく私が2年生の体育に参加することを説明していたが、1年生はすぐに納得していたので先生方は「なんで?」って顔になってた。

 安達先生はコソコソと、私のことをサキュバスとか言わないで!

 こうしてクラスや先生方が全員納得して、1年生の私が2年1組の体育の副々担任になったけど、その名称はどうかと……


 副々担任になったからには、クラスメートが勉強しているなか、私は体操服で2年生の体育に参加する。

「ララちゃんも大変ね~」
「アネゴ、よろしくたのんます」
「私語禁止。私、副々担任だから怒るよ?」
「「えぇ~」」

 結菜ゆいなちゃんとがく君は面識があるのですぐに喋り掛けて来たから牽制は忘れない。ただでさえ無理を言っているのに、先生の説教に巻き込まれたくないのだ。
 とりあえず私はジュマルの真後ろについて、体操服を握りながら池田先生の話を通訳する。今日は50メートル走の練習をするみたいだ。

 順番が来たらジュマルを走らせるけど、フライングしてどっか行った。真っ直ぐ走ることもできないの!?
 大声で呼び戻して、2度目もフライング。「よ~いドン」の「ドン!」で走るのよ!
 3度目はなんとかフライングしなかったけど、またどっか行った!? 真っ直ぐ走って~~~!!

 てな感じで、1人で「ワーワー」騒いでいたら、なんか周りの生徒は私に拍手していた。何事かと聞いてみたら、ジュマルをスタートラインに立たせられる人すらいなかったんだとか……なんかすいません。


 それから数日、ジュマルも50メートル走を理解して走れるようになったけど、今度はやる気なし。ダラダラ走ってゴールに着いてから本気出す。逃げるな~~~!!
 今度こそはと本気で走っているように見えたけど、ゴールを過ぎてもそのスピードは落ちない。だから逃げるな~~~!!

「や、やっとここまで来たわ……」

 なんとかかんとか50メートル走のタイムを取る日までに、ジュマルを仕上げた私は超偉い。

「エライお疲れでんな~」
「ララちゃんおっつ~」

 ドサンピンも結菜ちゃんもそう見えるなら、ちょっとは手伝ってよ! 無理だけど!!

「まぁこれでお兄ちゃんの正確なタイムが計れるから、体育の成績はもらったもんね」
「あ~。アニキ、速いですからな。トップは間違いありまへんやろ」
「どんだけ速いんだろ~? 10秒切っちゃうんじゃない??」

 岳君たちと喋っていたらジュマルの番が来たので、私は隣に立った。

「お兄ちゃん。頑張ってね」
「おう! 見てろや!!」

 珍しく私が優しく声を掛けたら、ジュマルも珍しくやる気モード。開始線についたらクラウチングスタートの体勢になった。

「ねえ? 誰かお兄ちゃんにあのスタートの仕方、教えてたっけ??」
「あんなん見たことありまへん。アレで走れますのん??」
「だよね。知るわけないよね……」
「ジュマルく~ん。カッコイイよ~」

 私は嫌な予感がヒシヒシとして岳君と喋っているのに、結菜ちゃんはキャピキャピうるさいな。

「よ~い。ドン!」

 そんななか、スタートの紅白帽は振られた。

「にゃ~~~!!」

 四つ足ダッシュ……ジュマルはクラウチングスタートの姿勢のまま、あっという間にゴールに辿り着いたのであった……


「ララ。どうやった? お兄ちゃん凄かったやろ??」

 私たちが呆気に取られるなか、ジュマルは四つ足のまま駆けて来て、私の前でドヤ顔してる。

「どうやった? ……じゃないわよ! なにあの走り方!? 今まで体育では一度もやってないじゃない!?」
「そやっけ? まぁええやん」
「ええくないの~。アレじゃあ記録が残らないのよ~」

 私が二足歩行で走ってくれと半泣きでお願いしていたら、血相変えた池田先生が走って来て、私だけ呼び出された。

「さっきのジュマルさんのタイムなんですけど……」
「すいません! 次は普通に走らせますので!!」
「まぁそれもそうなんですけど、タイムがですね……先生も驚いてストップウォッチを押すの遅れてですね……」
「あの……何が言いたいのでしょうか?」

 池田先生はゴニョゴニョ言っていて話がよく見えない。私は「やり直したらいいだけなのでは?」と思っていたら、ストップウォッチの画面を見せられた。

「5秒……ですね」
「はい……」
「速いですね……」
「はい……」
「ちなみにですけど、小2の平均タイムは……」
「それどころじゃないです。ウサイン・ボルトより速いんです……」
「は……破棄してください! お願いします!!」

 ジュマル、オリンピック100メートル走の金メダリストより速かった。どうりで私だけ呼び出されたわけだ。

 私は頭を何度も下げ、母親の職業も出してなんとかジュマルの記録を破棄させただけでなく、秘匿ひとくの約束を取り付けたのであったとさ。
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