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小学校である
038 ピカピカの1年生である
しおりを挟むお兄ちゃんの前世は猫である。私の名前は広瀬ララ。子供はかわいいから、つい世話焼いちゃったな~。
2年通った幼稚園の卒園式は、皆に涙ながらに引き留められたけど、私は今日から小学生。パッツン前髪も卒業してお姉さん仕様だ。ツインテールじゃお姉さんにぜんぜん見えないよお母さん……
入学式はおめかしして両親にチヤホヤされ、新学期が始まるとジュマルと一緒の班で登校して、2年生の教室に挨拶回りしにやって来た。
「ララちゃん。またやってるの? みんなクラス変わってないよ??」
「あ、結菜ちゃん。そうだったんだ。教えてくれてありがとう。それと今年もお兄ちゃんをよろしくお願いします」
「いいかげんお姉さんって呼んでよ~」
そう言われても、呼べない理由がある。ジュマルはハーレムを築いているから、妹の私が贔屓してしまうと何が起こるかわからない。他の女子がめっちゃ睨んでるんだよ! その視線に気付いて!!
笹岡結菜ちゃんが仲間外れにされないか心配しながら念のため挨拶回りを続けていたら、あいつもいた。
「ララのアネゴ。入学おめでとうございやす」
ドサンピン……いや、飯尾岳君だ。いつから私が姉になったんだ?
「ドサンピン。アネゴって呼ばないでくれない? 私のほうが年下だよ??」
「アニキが恐れてるんやから、アネゴがよろしいでっしゃろ。てか、アネゴもそのドサンピンっての、やめてくれまへん? オカンに聞いたら、仲間の中でも一番下のようなことを言われたんですわ」
「プッ……ついにバレたか」
「アネゴはわかって使ってたんでっか!?」
「うん。ピッタリよ?」
「そんなわけありゃしまへんって~~~」
うるさい岳君は放っておいて、挨拶回りも終わったら、チャイムギリギリに自分のクラスに滑り込んだ。
ここで子供っぽく自己紹介。幼稚園でママと呼んでいた子供は1人もいないので、なんだかようやく子育てが終わった気分だ。でも、授業が始まったら、子供はうるさい。教室はカオスに包まれているから勉強どころではないよ。
いちおう私は着席して中年女性の担任、安達先生の話は聞いていたけど、そういえば私はジュマルの教科書で全て勉強済みだから面白くない。超暇だ。
なので、立って歩く男子を捕まえて着席させたり、ペチャクチャ喋る女子たちに平仮名を教えたりしていた……
「広瀬さん……何してるんですか?」
「えっと……暇だから??」
「それ、先生の仕事だからやめよっか??」
「は~い」
しかしながら、安達先生に止められては仕方がない。私は母親に頼んで2年生の教科書を買ってもらい、安達先生の目を盗んで勉強する。けど、うるさ~~~い!
「広瀬さん? 席に戻ろっか??」
「あ、はい。でも、もうちょっとだけ待ってください。美桜ちゃん、サ行書けそうなんです」
「それが終わったら戻るんですよ?」
「は~い」
結局、このカオスを収めないことには勉強もままならないので、立ったり座ったりを繰り返していたら……
「ララさんは鈴木さんを見てくれますか?」
「は~い」
安達先生も諦めちゃった。その結果……
「「「「「ララ先生おしえて~」」」」」
クラスメートから先生と呼ばれるようになり、それを知った母親に「また保母さんやってるの??」と呆れられたのであったとさ。
私のおかげでクラスは静かになったので、もう私もお節介は焼かない。隣のクラスはうるさいけど、私は2年生の教科書を熟読する毎日。
「え? 広瀬さんをトレード??」
「私も広瀬さんほしいんですよ~」
休み時間に友達というか生徒と喋っていたら、先生どうしのこんな会話が聞こえて来たけど、広瀬さんって人は大人気だね。
と思っていたら数日後、2組の家藤先生という30歳ぐらいの女教師が私の元へやって来て、手を引かれて隣のクラスに連れて行かれた。広瀬さんって、私のことだった!?
「私が先生したら、ママに怒られるんですけど……」
「ちょっとだけ。ちょっとだけですからね。実験で、騒がしいクラスに子供の先生がいたら、どんな効果が生まれるかの確認がしたいだけなの。みんなも見てるからね?」
「みんなって、校長先生や教頭先生に見えるんですけど……」
「はい。私が安達先生のことを羨ましくしていたら、論文にできるのではないかと集まってしまいまして……ここだけの話、他校の先生もいますよ?」
「思っていたより大事!?」
1年生のクラスがこんなに早く沈静化したことは前代未聞だったらしく、興味を持った大人たちが2日間、2組の教室を子供にバレないようにこっそり覗いてモニタリングしていたのであったとさ。
その実験はすぐに母親にチクッてやったけど、ツートップに「教育の未来のため!」とか頭を下げられたし、1日目は終わっていたので渋々了承していたが、怒りはあったみたい。「ダブルハゲ~!」とか言ってたもん。
そして転んでもタダでは起きない。ある密約を取り付けて、母親はさっそく私に何かをくれるとのこと。
「ララちゃん。開けて開けて~」
ラッピングでデコレートされた箱を渡された私はなんだろう思いながら綺麗に包装を取ったけど、白い箱が出て来ただけなのでよくわからない。
「ハコ??」
「うん。それも開けちゃおっか」
「かたい……」
「え? 本当に固いわね……破っちゃえ」
「えぇ~」
私へのプレゼントは、母親の雑さで箱はボロボロに。しかし、中から出て来た物にはちょっとビックリだ。
「携帯電話??」
「うん。正確にはスマホ……スマートフォンね」
「いいの? 高いんじゃないの??」
「子供がなに気にしてるのよ~」
確かに子供らしくないことを言ってしまったので反省。小1に持たせていいのかとも聞きたいけど我慢する。
「私は早いと思うんだけど、ママ友に聞いたら防犯のために子供に持たせている人もいるみたいなの。だからララちゃんも学校に忘れず持って行ってね」
「学校に持って行っていいの??」
「うん。普通は教室に持ち込ませないように職員室で先生に渡すことになってるみたいだど、あのハゲ……じゃなかった。校長先生と約束してララちゃんはいいことになったからね。もしもまた嫌なことさせられそうになったら、すぐに電話して。すぐ駆け付けるから!」
それが狙いか~い。前回の無理難題の密約が、私のスマホ常時所持とは驚きだ。
「ママ、ありがとう。使い方教えて~」
でも、マイスマホはめっちゃ嬉しい! これで自由に調べ物ができる!!
「あ……なんか変なの出た」
「だからね。さっきも言ったでしょ? ここをスワイプして……ララちゃんにも苦手な物があったのね」
「携帯電話、ややこしい……」
「ララちゃん……お婆ちゃんみたいなこと言ってるよ??」
しかしながら、私は生前スマホどころかガラケーすら使いこなせていなかったので、初めて母親に私の正体がバレそうになったのであったとさ。
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