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幼児期である

036 対応策である

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 お兄ちゃんの前世は猫である。私の名前は広瀬ララ。デコピンは禁止だ。

 がく君は今頃ジュマルの仲間で居続けることが怖くなったみたいなので、これは使える。口下手なジュマルの交渉者ネゴシエーターとして任命してやった。

「いい? おにちゃの暴力を防ぐには、あんたのその達者な口にかかっているのよ?」
「わかってますけど、どうしたらよろしいんでっか?」
「笑いを取るのよ。相手を笑わせたら、大概の人は許してくれるわ」
「それやったら自信あります! 一発ギャグやりま~す!」

 岳君は渾身の一発ギャグをやったみたいだけど、私とジュマルはシーーーン。ちっとも面白くない。あの猫の不幸のほうが断然笑える。

「ウソでっしゃろ……家族はドッカンドッカン笑うのに……」
「まぁこれに懲りずに、笑いの勉強しなさい。学校だったら、クセのある先生のモノマネなんかウケるからね」
「いつかおふたりを笑い死にさせてやりますからね!」

 岳君は笑いにプライドがあったらしく、これから笑いの勉強に力を入れて将来はお笑い芸人になったけど、私はその前に笑い死にする経験をしていたのであった……


 岳君には言いたいことが言えたし下僕として使えるようになったので、隣の教室の母親を覗きに行ったらまだ池田先生と話をしていたから、私は静かに隣に座った。

「あ、ララちゃん。もう終わるからね」
「うん。でも、わたしも先生に話がある」
「なんだろ……」
「先に話を終わらせて」
「あ、うん」

 母親はジュマルが何かやらかしたのかと構え、池田先生は「幼稚園児が私に話? しっかりしすぎじゃない??」とか驚いていた。
 ひとまず話の続きを黙って聞いてみたら、ジュマルの学力の話。ギリギリのラインは届いているけど、最下位には変わりないから補習をやるかとの話をしていたみたい。
 ただ、池田先生の前では座っているのも難しいから、母親がなんとかするからと、学習要項を詳しく聞いていた。

「それで……ララちゃんはなんの話をしたいの?」

 学力の話が終わったら母親が話を振ってくれたので、私は池田先生に視線を持って行った。

「おにちゃ、佐藤君だけじゃなく、6年生と5年生の男子全員に追い回されていると言っていました。この件は、学校は把握されていましたか? また、対策を聞きたいです」
「しっかりしすぎ!?」

 先ほど気になった情報をぶつけてみたら、池田先生は答えよりツッコミを優先した。母親もビックリしたのか私と池田先生を交互に5回ぐらい見てから、池田先生をロックオン。私の賢さより、学校のほうが大変だもんね。

「ララちゃん、代わるわ。先生。ここからは録音させていただきます」
「……え?」

 しかも、超本気モード。私も見たことのない弁護士の顔だ。母親はスマホは操作してから机に乗せて質問する。

「先ほど、5年生と6年生の男子全員にジュマルが追い回されていると聞きましたが、事実ですか?」
「全員かどうかはわかりませんが……」
「ということは、少なくとも20人近くの男子生徒がジュマルを追っていたことは知っていたのですね?」
「はい……でも、何をしているかは聞きましたよ? 鬼ごっこしてると言ってました」
「それはジュマルからもですか?」
「い、いえ……」

 母親は冷静に池田先生を問い詰めて、こちらに有利な情報を集めているように見える。その情報が揃ったら、母親の攻撃だ。

「ジュマルが危険だとは、前もって説明していたのは覚えていますか?」
「はい……でも、危険なことをしたのは2件だけですし、そこまで気にすることではないと私は考えています」
「甘い……先生は甘いです。いまの状況は、凄く危険な状況ですよ。よく考えてください。多くの人間に校庭の隅に追い詰められた猫は、どこに行くと思いますか?」
「猫??」
「上です。壁を登ります。屋根に登ります。屋上に登ります。猫だけならいいですよ。子供は追います。屋上までは無理でも、壁や屋根ぐらいなら登るかもしれません。そして……」

 猫を例に出されて池田先生はポカンとしていたが、母親の説明でジュマルと猫が重なった。

「お、落ちます……」
「そうです。落ちて怪我してからでは遅いのです。このままでは、何人怪我人が出るかわかりません。対応してくれますよね?」
「は、はい……対策を練ります」
「よろしくお願いします。もしも怪我人や死人が出た場合は、当方は責任を持てません。ジュマルは私たちとの約束を守ってケンカをせずに逃げ回っているだけです。そのことをお忘れなく」
「はい! 早期に対応します!!」

 池田先生が温いことを言ったので、母親はダメ押し。さっそく夕方の会議で議題に出して、もしもの場合は脅してでもやってくれることとなった。元々脅されてるしね。


 こうして私たちは、ジュマルを連れて佐藤さん宅にタクシーで向かうのであった……

「ララちゃん、やっぱり普通に話せるよね?」

 その車内では、母親が私を問い詰めていたけど、私にも策がある。

「運転手さ~ん。ママが弁護士の力を使って学校を脅してカッコよかったんだよ~?」
「ララちゃん!? なに言ってるの!? アレは証拠を取ってこちらに責任が来ないようにしただけよ!?」
「それが脅しと言うのでは……」
「うんうん……」

 運転手さんを味方に付けて、この件をうやむやにした私であったとさ。

 もちろん運転手さんには「ママに逆らったら怖いよ~?」と、脅されたよ……
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