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幼児期である

030 ジャスティスローリングサンダーである

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 お兄ちゃんの前世は猫である。私の名前は広瀬ララ。習い事は程々でいい。

 平良さんの来訪のせいで、母親が急に習い事熱に火がついてしまったからには私も困ってしまう。だって、韓流ドラマを見る時間が減るんだもん!
 しかし、よくよく考えたら、これは私のプラス。今世はお金持ちに生まれ変わらせてもらったのだから、その力を使ったほうが将来のためになる。ここは最初に言ったピアノと英語の習い事をやると母親に言ってみた。

「もっといいよ~? ダンス教室なんてどう? ララちゃんぐらいかわいかったら、宝塚歌劇団も夢じゃないよ??」
「おにちゃもいっしょ??」
「ジュマ君は……何かやらしたほうがいいのかしら? いやいや、絶対に問題起こす……小学校だけでも心配なのに……あれ? ララちゃんの時間を奪いすぎたらヤバくない??」

 でも、もっとやらそうとするので、ジュマルを出してみたら止まった。ジュマルの脅威を思い出して、私の必要性に気付いたみたいだ。

(宝塚歌劇団って選択肢もあるのか……それはそれで悩む~! 私だったら、何役になるのかな~? 男役もいいな~。できるかな~?)

 そんな感じで母親は私の習い事の数を考え、私は将来のことに想いを馳せていたら、事件が起こった。

「ララちゃ~ん。ついて来て~」
「え??」

 母親が幼稚園までやって来て、早退させられたのだ。何事かと思っていたら、タクシーの中でジュマルがやらかしたと聞かされた。それはわかったけど、なんで私まで??
 しかし拉致られたからには行くしかない。私は走る母親に抱っこされて小学校に入るのであった。

「いいですか? 心して聞いてください……その前に、なんで妹さんまでいるのですか??」

 ジュマルの担任の池田先生は、私が母親の隣に座っているので、まずはそこから。母親が「精神安定剤」とか言って、なんとか同席を許可された。雑だな……

「ジュマルさんが、上級生に対して……」
「「ゴクッ……」」

 池田先生が溜めまくるので、私たちは生唾を飲み込んで最悪の事態を覚悟した。

「ジャスティスローリングサンダーを放ったのです」
「「……え??」」
「ですから、6年生の男の子に、ジャスティスローリングサンダーを放って吹っ飛ばしたんですよ!!」
「「……もう一回……」」
「ですから!!」

 何度聞いても頭に入って来なかったので、一から説明してもらう私たちであった……


 その話は、2時間目と3時間目の間にある中休みの出来事。元気な子供たちは外に出て遊んでいたらしいが、ジュマルのクラスの男子が6年生の男子4人に囲まれていたそうだ。
 その理由は、喋り方が変だとのイチャモン。これは各自や周りで見ていた子供からも確認を取ったから確実らしい。

 そこに颯爽さっそうと現れたのが、我らがジュマル。「仲間をいじめるな」と言い、男子の手を引いて助け出した。しかし、6年生はそれを気に食わないと怒鳴り、ジャスティスローリングサンダーふつうのとびげりをジュマルたちの背中に放った。
 ジュマルはギリギリ避けたが、後ろからだったため男子は守れずに背中を蹴られて倒れたので、ジュマルは激怒。
 「これが本当のジャスティスローリングサンダーふつうじゃないとびげりだ~!」と、高くジャンプして錐揉みしながら放ったキックで、一番大きなリーダー格の6年生を吹っ飛ばしたのだ。

 それを周りで見ていた子供たちは「カッコイイ!」とかなって、聞き取り調査は難航を極めたらしい……


「「あぁ~……」」

 全てを聞き終えた私たちの反応もこんなモノ。暴力を振るったとかよりも、あのヒーロー物の大技をやっちゃったかと、遠い目になってしまった。

「それで6年生の子は、怪我をしまして……」
「怪我!? すいませんすいません!!」

 でも、怪我と聞いて母親は意識を取り戻した。

「どれぐらいの怪我ですか!? 相手の親御さんはもう来られていますか!?」
「広瀬さん。落ち着いてください。まずは怪我の具合からお伝えしますね」

 6年生は何メートルもぶっ飛んだのに、奇跡的に打撲と擦り傷程度。そのおかげで保護者も「子供どうしのことですから」と怒っていなかったそうだ。
 ただし、状況を詳しく説明したら一変。1年生をイジメたのかと、自分の子供に暴力を振るいそうになったらしい。でも、怪我をさせたジュマルの年齢と必殺技名を聞いて止まったんだって。
 6年生と1年生では天と地ほどの力の差があるのに、ジャスティスローリングサンダー使ったんだもん。誰だって、ジャスティスローリングサンダーって聞いたら止まるよ。

「あの……怪我をされたお子様と保護者の方には一度ご挨拶したいのですけど……まだこちらにいますか?」
「病院から直接帰っていますので……」
「でしたら、住所を教えてください。それがダメでしたら電話だけでも」
「そうですね……ちょっと確認を取ってみます。少々お待ちください」

 池田先生は教室の隅に移動して電話を掛けようとしているので、私は母親の袖を引っ張った。

「おにちゃ、しんぱい。みにいっちゃダメ?」
「そ、そうね。お願いするわ……」

 池田先生の電話はまだ繋がっていなかったので、母親はジュマルの居場所を聞き出して戻って来た。そして私を送り出す時に「自分の子供の心配を忘れるなんて、ダメなママ」と呟いたので、すぐに振り向いた。

「初めてのママなんだから、そんなもんだよ」
「え??」
「なんでもな~い。エヘヘ」

 これで励ましになったかどうかわからないけど、私は笑いながら教室を出るのであった。
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