上 下
7 / 130
幼児期である

007 動物園である

しおりを挟む
 お兄ちゃんの前世は猫である。私の名前は広瀬ララ。お母さんにママ友ができてよかったよかった。

「大変なお知らせがあります……」

 なのに、母親はめっちゃテンションが低い。父親の前で深刻な顔をしている。何故か私も同席してる……

「ママ友に聞いたんだけど、幼稚園の申請って秋にするんだって~~~」
「あっ! すっかり忘れてた!!」

 広瀬家、うっかりミス。だいたいの子供は満3歳から幼稚園に通うのだから、この3月も終わりの時期に話し合うことではない。

「こんなの母親失格だよ~」
「それを言ったら、僕も父親失格だ……」

 なので、2人とも落ち込み出した。でも、そもそもな話がある。

「おにちゃ、あぶにゃい」
「「あ……」」

 こんな猛獣、幼稚園に解き放って大丈夫?ってこと。家の中でも外でも暴れまくっているのだから、両親に幼稚園なんて考える余裕もなかったのだろう。
 さらにいうと、幼稚園の先生が苦労する絵しか浮かばない。ジュマルが子供を舐めたり引っ掻いたり追い回しまくったり、座っていることすらできないはずだ。

 私の発言から両親はそのことに気付いて、ちょっと明るくなった。

「まだ幼稚園は早いわね」
「ああ。保育園もやめておこう」
「「絶対にやらかすし……」」

 というわけで、ジュマルの進学は先送り。忘れてて結果オーライと、胸を撫で下ろす両親であったとさ。


 それからジュマルもソファーで丸まって寝入り、リビングにはコーヒーの香りとまったりした空気が流れていたけど、父親の発言から空気が変わる。

「でも、学校とかのことは考えていかないとな~」
「確かにそうよね。幼稚園で出遅れてしまっても、私立の小学校って行けるのかしら?」
「お受験させるのか? 公立でよくないか?」
「公立で進んだとしても、高校受験や大学受験があるのよ? まだ小学校のほうが可能性があるかもしれないじゃない」
「ジュマルだってその頃には普通になってるって。勉強よりは友達作りさせたほうがいいよ」

 そう。親とは子供の将来が心配なモノ。ただ、母親はリアリストで父親は夢想家だから、平行線が続いている。
 それでもジュマルのために、インターナショナルスクールだとか家庭教師の話にまで及んで言い争いに発展したら、2人して私を見た。

「「ララちゃんはどう思う??」」

 私が感心してウンウン頷きながら聞いていたから参考にしたいみたい。でも、私はしがない赤ちゃん。んなもん知るかと言ってやりたかったが、広瀬家崩壊を阻止するためには何か言わなくては!

「ど、どうぶつえん……」
「「へ??」」

 ゴメン。なんも思い付かなかった。ジュマルにはそこがお似合いだと思ったから口に出てしまった。

「動物園か……」
「アリかもね……」

 こうしてジュマルの進路は決まったのであった……


「さあ、着いたぞ~」

 と、次の日曜日には、スタイリッシュな車に揺られて本当に動物園にやって来た。

「ララちゃん。キリンさんおっきいね~?」
「あいっ」

 理由は別にジュマルを売りに来たわけではない。家族で遊ぶためだ。そもそも広瀬家では、ジュマルが暴れまくるから家族で何かをするという発想が抜けていたので、私の発言から思い出作りをしようとなったのだ。
 そのジュマルはというと、抱っこヒモで父親の前面に張り付けられている。ベビーカーでは見えないとの配慮だろうけど、逃がさないためだ。

「ほら? ゾウさんおっきいだろ??」
「フシャーーーッ!!」

 あと、背面だと人体の構造上引っ掻かれない措置みたい。動物にも襲い掛かれないようにしているみたいだけど、ジュマルのあの顔は怖いのでは?
 ひとまず家族で動物園をウロウロ歩き、檻の前では私は2歳児っぽい演技。ジュマルは小型の動物には食って掛かろうとするが、大型の動物に対しては逃げるような素振りをしている。

「ライオンさん。かっこいいね~?」
「ふにゃ~……」

 特にライオンの前では、ジュマルは元気なし。猫化最大級の動物を前にして、絶対に勝てないと猫の本能が言っているのかもしれない。ヘビの檻の前では「にゃ~にゃ~」騒いでいたのも、猫の本能なのだろう。
 そんな感じでジュマルが静かな時は家族で記念撮影なんかをしていたから、かわいい動物の写真は少ない。でも、両親が笑顔だったから、私の失言はいい方向に行ったと思うのであった。


 動物園を堪能し、駐車場で車に乗り込む時に事件が起こる……

「フシャーーーッ!!」
「あっ!?」
「ジュマ君!!」

 ジュマルを車に乗せようと抱っこヒモを緩めたところで、ジュマルが暴れたから落っことしたのだ。
 ジュマルは様々な動物を見たから、ストレスが溜まっていたのかもしれない。半回転して着地したら、四つ足で逃走してしまった。

「待て~~~!!」
「そっちはダメ~~~!!」

 ジュマルは一目散に出口に向かい、両親が追いかけるが距離が縮まらない。私も青い顔でベビーカーに乗って見ていたら、本道だと思われる道から車が走って来た。
 速度、角度的に車とジュマルがちょうどぶつかる位置。車からは障害物があるから四つ足で走るジュマルなんて見えない。周りにいる通行人もジュマルに気付いて大声を張りあげていた。

「ぶつかる!!」
「イヤ~~~!!」

 父親と母親が悲鳴をあげるなか、私も大声を張りあげる。

「おにちゃ! 待て~~~!!」

 その刹那、ジュマルは急停止。車は鼻先数センチ手前を通り過ぎた。

「ジュマル!!」
「ジュマ君!!」

 九死に一生を得たと両親が駆け寄ったが、ジュマルは逃げるような体勢を取ったので私も焦る。

「おにちゃ! 待て!!」

 すると動きが止まり、ジュマルは私を見た。

「お座り!!」
「あいっ!!」

 そして何故か命令通りお座りしたところを両親に捕獲されたのであった……
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~

丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。 一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。 それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。 ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。 ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。 もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは…… これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈 
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...