お兄ちゃんの前世は猫である。その秘密を知っている私は……

ma-no

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幼児期である

002 謎解きである

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 私は赤ちゃんである。名前は広瀬ララ。名探偵になりたい。

 お兄ちゃんの異常な行動に驚かされたが、よくよく考えてみたら、この家はおかしい。私が退院してからけっこう経つのに、病院と異様に高い壁の広い庭以外の外に出たことがないのだ。
 母親がいつも家にいるのは産休だからだとわかるけど、買い物に行っている素振りもない。私がお母さんの時なんて、赤ちゃんを背負って子供の手を引いて買い物袋を抱えて帰ったもんだ。

 毎日チャイムが鳴っているってことは、通販で買っているってこと? なんていい時代なの! 羨ましい!!

 羨ましいけどそれは置いておいて、母親まで外に出ないのはうつにならないか心配だ。それにジュマルのヤツ……リビングやお庭をハイハイで走り回っているし。
 でっかいテレビが壁に埋め込まれてたり、リビングに物が少ないのは、たんにお金持ちの家だから物を置きたくないのかと思っていたけど、これはジュマル対策なのかもしれない。とんでもない速度だもん。跳んだ!?

 あと、お母さんは私をソファーに置かないで! また来た!?

 隙を見せるとジュマルが私の顔を舐めるので、すかさずギャン泣き。てか、私の子供も、顔を舐め合っていたのかな? いまの人と違って目を離すことが多かったから、知らなかったな~。


 不思議なことはこれだけでは終わらない。ジュマルって、何歳ってこと。ハイハイをしているってことは、年子で1歳前後といいたいけど、私の予想では私が産まれてから半年近く経っていると思う。
 1歳半で、立って歩かず言葉も喋れないのもおかしい。もちろん発育の遅い子供もいるから誤差の範囲だとは思うけど、「ママ」ぐらいは言っていいと思う。なんで「にゃ~」しか言わないの? あ、「うぅ~」って唸ってる。

 そんなことを考えて過ごしていたら、私の公園デビューの話が出て来た。でも、両親ともに深刻な顔をしているのはなんで?
 そしてその当日に、車で移動してジュマルがベビーカーに張り付けられているのも意味不明。腰には縄が結ばれているし……

 それでも乗り心地の悪いベビーカーに揺られてやって来ましたどこかの公園。私たちが足を踏み入れた瞬間、近所のママだと思う人たちから一斉に見られた。

 これはアレかな? ママ友イビリとかいうヤツ。だから2人とも緊張していたのかも。

 と、思っていた時もありました。なんのことはない。ジュマルが凄い速さでハイハイして、父親が縄を持って走り回っているから変な目で見られていたのだ。
 これは私の予想だが、ジュマルの公園デビューは酷かったのだろう。あの速さで駆け回り、道路に出たとか? もしくは、赤ちゃんを舐め回したとか? 子供を追い回したとか? あっ! なんか猫とケンカし出したし~~~!!

 そんなことをしているのに、お母さんは私を見てニコニコしてるな。「普通っていい」って……ゴメンなさい。私も普通じゃないの。


 父親だけが疲労困憊の公園デビューから帰ったら、私は謎解きに取り掛かった。

 お兄ちゃんは変。てか、猫っぽい。だから家から出せないし、お母さんも外に出れない。ここから導き出される答えは、お兄ちゃんの前世は猫で、その記憶を持っている。
 そんなのありえないと言いたいところだけど、私にはひとつだけ身に覚えがある……

 謎は全て解けた。犯人はお前だ~~~!!

 なんて強く願って眠ったら、絶景の花畑に囲まれたテーブル席に座っていた。

「フッフッフッ。よくわかったね。金田一君」

 そこには、トレンチコートを着たこの世の物とは思えない絶世の美女がハウチング帽を人差し指で上げて立っていた。

「アマちゃ~ん。これってどういうことよ~?」
「アレ? せっかく乗ってあげたのに、探偵ごっこしないのですか??」
「そんなことより説明して」
「あ、はい。これには海より深~~~い事情がありましてね」

 この揉み手でイスに座った絶世の美女こそ、ジュマルの秘密を握る人物。ぶっちゃけ、神様だ。
 正確にはこの世界というか宇宙の魂を管理する管理者というのだが、聞いて驚くなかれ。正真正銘のアマテラスノミコトだから、私は神様としか思えないのだ。

 その神様いわく、千年に一度起こるような事故で、ジュマルの体には元々入る予定だった魂ではなく、猫の魂が入ってしまったとのこと。だからジュマルは猫っぽいのだ。

「それはわかってるのよ。なんで私が、この家に生まれたかを聞いてるの」
「それは~……幸子さん。いえ、いまはララさんでしたね。ララさんがこの地域のお金持ちを選んだからですね」
「私、美人で健康な人って言ったと思うんですけど~? 早産から始まったんですけど~??」
「あ……あはは。心配していた魂の夫婦が身籠もっていたから、ちょうどいいから入れちゃったみたいな??」
「やっぱり……」

 この会話を聞いておわかりだろう。私は、輪廻転生者。神様が徳が高いからと好みの体に魂を宿してくれた、元100歳オーバーのお婆ちゃんだ。
 でも、この夢の世界では20歳前後の女性の姿にしてもらってる。赤ちゃんの姿ではイスにも座れないもん。

「そう怒らないでくださいよ~。このままでは、広瀬家は酷い運命を辿っていたんですよ~」

 神様が言うには、ジュマルを産んでから母親の真紀はうつになりかけ、新しく授かった娘も早産ですぐに死去。心が完璧に壊れてしまい、その影響でジュマルも完全にグレる。
 保育園から暴力事件を起こしまくり、高校に入ったら速攻退学。それまでに母親は自殺、父親の浩希も育児放棄。ジュマルも半グレに入り、ヤクザの事務所に単独で乗り込み、全員殺して自分もその傷で死んでしまう未来だったらしい……

「そ、それは凄まじい人生ね……」
「でしょ? それなのに、ララさんが笑っただけで、未来がいいほうに変わったんですよ!」
「その笑ったっての、たぶん、元夫の映像を見てたんだと思うんだけど……」
「あの猫さん、いつも面白いですもんね~。ここうん千年で、一番笑えますもん」

 元夫というのは、本来ジュマルの体に入る予定だった魂。70年近くも一緒にいたから、もしも同じように輪廻転生していたら近くに生まれるのは嫌だから調べてもらうと、平行世界で白猫に生まれ変わっていたから死ぬほど笑った。
 その不始末というか、一緒に元夫を見てお喋りする友達として、私に平行世界の猫の映像を見る力を神様がくれたのだ。


 しばし元夫の話で盛り上がってしまったが、私はそんなことを話すために神様を呼び出したわけではない。

「つまり、私にお兄ちゃんをなんとかしろってこと?」
「そうで~す。猫としては徳が高かったのに、その猫の記憶を持ったまま人間に転生したせいで酷い人生になりそうなので、救済措置としてララさんを頼ったということが真相です」
「え~! 私、今回は何不自由なく楽に暮らしたかったのに~」

 私の前世は苦労が多かったから、お金持ちに生まれて好き勝手に生きたかったのに、お守りがいてはやってらんない。

「そうだ! だったら何かちょうだいよ~。あの人には魔法書あげてたでしょ~。私も魔法使いた~い」

 それならば、チート特典があってしかるべきだ。

「もうあげましたよ」
「へ??」
「生まれてすぐ死ぬ運命も変えましたし、平行世界を見れて私を呼び出すことができるじゃないですか」
「先払いだったの!?」
「いらないと言うのなら、無しということで……いまその権利を取り上げたら死んじゃわないかしら?」
「それってただの脅しじゃな~~~い!!」

 こうしてジュマルの謎は解けたのだが、神様から脅されて、私は使命をまっとうするしかないのであったとさ。
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