2 / 7
第2話 第一の町
しおりを挟む「たしかあったはず……あった! ありました!!」
起死回生。護衛依頼を受けさせるために、メイはオティリーをエサで釣ろうと、フルーツタルトを取り出した。
「ふむ……見た目は普通だな」
NPC売りのフルーツタルトとさほど変わらないので、オティリーは顔を暗くすが、一口味見をして、護衛依頼を受けるかの判断とする。
「確かに店の物よりは味がいいが、ユラ殿から貰ったフルーツタルトのほうが格段にうまいな」
味にうるさいオティリーだったが、その顔は幸せに満ちた顔をしていたので、メイは脈アリとみて畳みかける。
「ユラって人の事はわからないですけど、料理スキルが高い人が作った物だと思います。私ももっと練習して、美味しいフルーツタルトを作りますから、今日のところはこれで守ってください!!」
頭を下げるメイに、オティリーは問う。
「これは、貴様が作ったのか?」
「そうです」
「我でも作れるようになるのか?」
「はい。料理スキルをセットすれば誰でも……で、でも、現実世界で料理が上手い人の物は、もっと美味しく作れますよ!」
オティリーに作られてしまっては、自分の価値が無くなってしまうと感じたメイは、慌てて言い直した。
「なるほど……わかった。護衛依頼を受けてやろう」
「本当ですか!?」
「その代わり、フルーツタルトを持っているだけ出せ。ケーキもな」
「は、はい!!」
交渉成立。メイはありったけのフルーツタルトとケーキを、オティリーに前払いで渡すのであった。
オティリーとメイは隣り合って歩き、第一の町に向けて進む。しかし、オティリーは無口でフルーツタルトを食べる時以外は顔を緩めないので、無言に耐えかねたメイは一人で喋り続けていた。
メイは、デリング・オンラインでは花を育て、料理を作ったりなんかしていたこと。しかし、戦闘が苦手でお金が稼げず、一向にホームを持てなかったこと。本当はテイマーになって、モンスターをモフモフしたかった等々。
最底辺ゲーマーの日常を聞かされていたオティリーは相槌すら返さなかったが、テイマーという単語に反応する。
「そのテイマーとやらになれば、我でもモンスターを飼えるのか?」
「はい。これもスキルをセットすれば誰でも。ただ、多く飼うにはホームか牧場がないとダメで、買うには高いんです」
「そういえば、ユラ殿も牧場を持っていたな。なるほど……あの数を揃えるには、牧場が必要なのか」
「そのユラって人……ひょっとして、トッププレイヤーの人じゃないですか? 一人で理不尽姫を倒したって掲示板で見たことありますよ」
「ふむ。我も一目置く男だ」
ようやく二人の話が弾んで来た頃に、PKが現れる。
「ひゃっは~! 有り金置いてけ~~~!!」
「「「「「ぎゃははは……ぎゃ~~~!!」」」」」
しかし、一蹴。オティリーに斬り殺されて、死に戻りとなる。それから町に近付けば近付くほどPKが増えていき、50人ほどのPKを斬り捨てた頃に、ようやく第一の町に到着したのであった。
「オティリーさん凄いです! まるで理不尽姫みたいでした~」
理不尽姫とは、デリング・オンラインで最強を誇る裏ボスの女騎士のことだ。
理不尽姫に挑戦する前に、恐ろしく強いビッグエッグと深淵竜を倒さないといけない。その二匹をなんとか倒して出て来た理不尽姫は、感謝の言葉を贈りながら握手を求めるのだが、手を伸ばした者は首を落とされる。
理由は、深淵竜を狙っていたのは自分だと逆ギレされてのこと。
戦えば深淵竜よりも倍も強いので、30人で挑んでも倒すまでには一時間を要する。ここでレアアイテムでも貰えたら、理不尽姫と呼ばれなかったのだろうが、何も無し。全員でゲーム内通貨2万モンを貰って、ボス部屋から追い出される。
初見殺し、強敵、戦えば赤字。この三点から最後の女騎士が代表として、理不尽姫と呼ばれ、プレイヤーからそっぽを向かれる事となったのだ。
「みたいも何も……我がその理不尽姫だ」
「見た目も一緒ですもんね! もう本物と言っても過言じゃないです!」
「だから本物なのだが……」
「キャーキャー」
テンションの高いメイに何を言っても通じず。オティリーはため息を吐きながら歩き出すのであった。
「それより、護衛依頼は終わったのだから、行きたい所に行くがいい」
いつまでもオティリーについて来て、ずっと喋り続けるメイに、オティリーは迷惑そうにする。
「あ、そうでした。でも、オティリーさんはどこに向かっているのですか?」
「宿屋だ」
「宿屋ですか? ダメージを受けていなかったのに、必要なのですか?」
「まぁな」
「そうなんですか……でも、先にポータルの登録をしたほうがいいですよ」
「ポータル?」
「死に戻りをした時やログアウトした時は、ここからスタートになりますし、違う町のポータルに移動できるから便利なんです」
「ほう……そんな便利な物があったのか。それなら、いつも歩かなくてよかったのだな」
「またまた~。オティリーさんも知ってるくせに~」
メイは、オティリーがロールプレイで知らない振りをしていると思いながら、ポータルへと案内するのであった。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
働くおじさん異世界に逝く~プリンを武器に俺は戦う!薬草狩りで世界を制す~
山鳥うずら
ファンタジー
東京に勤務している普通のおっさんが異世界に転移した。そこは東京とはかけ離れた文明の世界。スキルやチートもないまま彼は異世界で足掻きます。少しずつ人々と繋がりを持ちながら、この無理ゲーな社会で一人の冒険者として生きる話。
少し大人の世界のなろうが読みたい方に楽しめるよう創りました。テンプレを生かしながら、なろう小説の深淵を見せたいと思います。
彼はどうやってハーレムを築くのか――
底辺の冒険者として彼は老後のお金を貯められたのか――
ちょっとビターな異世界転移の物語。
サバイバル日記
k
ファンタジー
1月1日 朝起きたらなんか異世界のような場所に来た。何故か手帳がすぐ近くに落ちているから日記でも書いてみようと思う。ところで起きた時から何か力を感じるなんだろうなこれ?
悪役令嬢にざまぁされた王子のその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。
その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。
そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。
マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。
人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。
※完結済 【R-18】白薔薇の騎士と純白の姫
白金犬
ファンタジー
※ノクターンノベルにて連載中の転載作品となります※
騎士を目指す優等生な少女とお姫様が、それぞれ陰謀に巻き込まれながら快楽堕ちしていく、18禁の本格的ファンタジーライトノベルです。
▽あらすじ
女性専門の騎士養成機関ミュリヌス学園。
その学園の卒業者は、聖アルマイト王国の第2王女の親衛隊「白薔薇騎士団」への入団を約束されていた。
リアラ=リンデブルグは、その努力と才能でミュリヌス学園へ入学することとなった。
優等生である彼女は学園内でもその実力でめきめきと頭角を現していくが、上級生でルームメイトでもあるステラに女同士の快楽を教えられ、溺れていくこととなる。
聖アルマイトの第二王女であるリリライト=リ=アルマイトは、自らの直轄部隊である白薔薇騎士団の騎士候補生達と親交を持ちたいがために、たびたびミュリヌス学園に訪れていた。その傍らには常に教育係の大臣グスタフが付き従っていた。
一見華やかで清廉な白薔薇騎士団と、その養成機関であるミュリヌス学園。
しかしその裏では欲望にまみれた陰謀が渦巻いていた。
リアラとリリライトは聖アルマイト王国全体をも揺るがすその陰謀に巻き込まれていく……
(駄)設定多めのファンタジーの世界観で、H要素多めの内容となります。
序盤はイチャラブやレズ要素多めですが、徐々に快楽堕ちや洗脳、アヘオホなどのハード展開になる予定です。
※注釈※
・中盤くらいまでレズ多め、後半からは男との絡みなどが増えてきます。
・暴力や残酷表現はありません。
・汚いことや不潔な要素はほとんどありません。(匂いとお漏らし表現が若干程度あります)
・NTRに関わる部分で、人によっては胸糞に感じる要素があるかも?
・キャラの台詞や表現での下品描写有。
マルスの女たち 第三短編集 ドリームガール 【ノーマル版】
ミスター愛妻
ファンタジー
良きアメリカはマルスに移住した。
ミコに仕えるアメリカの女たち、あまりややこしいことは苦手のようで、何事も概ねストレートに表現する。
奥ゆかしいなどとは無縁のようで、明るくミコを誘惑する、セクシー命の女たち。
失敗などはケセラセラ、チャレンジしないで、後悔するのは許せない!
そんな女たちの、マルス移住前後のささやかな物語を集めた、『惑星エラムより愛を込めて』の第二スピンオフシリーズの第三短編集
本作はミッドナイトノベルズ様に投稿していたものから、R18部分を削除、カクヨムで公開しているものです。しかしそうはいってもR15は必要かもしれません。
一話あたり2000文字以内と短めになっています。
表紙はテオドール・シャセリオー エステルの 化粧 でパブリックドメインとなっているものです。
友人の結婚式で友人兄嫁がスピーチしてくれたのだけど修羅場だった
海林檎
恋愛
え·····こんな時代錯誤の家まだあったんだ····?
友人の家はまさに嫁は義実家の家政婦と言った風潮の生きた化石でガチで引いた上での修羅場展開になった話を書きます·····(((((´°ω°`*))))))
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる