上 下
325 / 336
十四章 新居に移っても夜遊び

325 やっぱりの結果

しおりを挟む
 ルイーゼを怖がらせたフィリップは、フレドリクに怒られないように面白い話で笑いを取る。ほとんどボエルの苦労話だったので、ボエルは拳を握り込んでいるけど。
 そうしてフィリップは新居の改築も面白く説明していたけど、一番聞きたいことに踏み込んでみる。

「そういえば、中央館からの直通通路って、どうして封鎖してるの? アレのせいで、めちゃくちゃ遠回りになっちゃったんだよね~」
「ああ。アレはね」
「ゴホンッ」

 ルイーゼが喋ろうとした瞬間に、後ろに立つメイドが大きな咳払いをした。

「こ、工事中なの……」
「だからか~。どうりで通してくれないワケだ。危ないもんね」
「そうそう。危ないからね」
「ウチも古いし、ちょっと調べてみるよ。それでね……」

 明らかに話を逸らされたが、フィリップは話を変えてそれ以上踏み込まない。そのまま楽しくお喋りしていたけど、あまり長居するとフレドリクが戻って来そうなので、ホドホドで帰って行くフィリップであった……


「なあ? 絶対、工事中じゃなかったよな??」

 その帰り道、ボエルはあの違和感についてフィリップに聞いていた。

「どうだろうね」
「なんだよ。殿下も気になってんだろ? 調べて来てやろうか??」
「それはダメ。やめときな」
「はあ? 殿下らしくない……」
「前にも言ったでしょ。聖女ちゃんに関わるなって。ボエルもお兄様に怒られたくないでしょ?」
「あぁ~……いま立場が悪くなると困る……」

 ボエルは皇太子付きの近衛騎士に内定しているので保身に走る。フィリップは軽くジト目をしたけど忠告は忘れない。

「いい? お兄様の近くで働くようになったら、絶対に言われたこと以外やらないこと。無駄な詮索はしないこと。そうしないと生き残れないよ」
「そうか~? 言われたこと以外もやったほうが出世しそうな気がするけど……」
「お兄様が間違った指示するとでも思ってんの? やりたかったらやりな。でも、お願いだから、1年は様子を見て。僕、ボエルには不幸になってほしくないの」
「お、おう……なんか知らないけど、出過ぎたマネはしないようにしておく……」

 珍しくフィリップが悲しそうな目をするので、ボエルもこの忠告は心に深く刻んだのであった。


「フィリップは今日、何をしていたのかな~?」
「早い……早すぎるよ……」

 自室に戻ってダラダラしていたら、夕方には顔は笑顔だが目が笑っていないフレドリクと、怒った顔のカイ、ヨーセフ、モンスが来襲。
 フィリップの予想では明日だったので、下を向いてボソボソ言ってる。

「お兄様が新居に移ったって聞いたから、どんな屋敷に住んでるか見に行っただけなんだけど……ほら? ウチってボロボロだったから参考にしようと思って……」

 そんなことをしていても怒りは収まらないので、フィリップはもっともらしい言い訳だ。

「それなら表から行けばいいだろ? 馬車に乗って行ったほうが楽だし近い」

 だが、フレドリクには通じない。どうやら裏から近付く者は、すぐにフレドリクに通報されるみたいだ。

「馬車? ……あっ! 本当だ!? なんで僕は歩いて行ったの? ボエルも助言してよ~」
「いや、その……殿下が散歩とか言って歩き出したから……どこに向かうか聞いていれば、助言はできました」
「そこを読み取るのがボエルの仕事なのでは? 僕の新居の時も、歩いて連れて行ったよね?」
「あの時は~……すいません。思い付きませんでした。自室がそちらにありましたので、いつものクセで」
「てことは~……今回もボエルのせいだな」
「「「「「お前のせいだ」」」」」

 フレドリクの馬車発言からフィリップはボエルに罪を擦り付けようとしたけど、全員にツッコまれて大失敗。今まで頑張って敬語で喋っていたボエルまで「お前」って言っちゃったよ。

「何か見たか?」
「何かって……建物と庭しか見てないよ。中にも入ってない。お兄様がいないのに入るのは失礼だからね」
「それならいい。ルイーゼもいい気晴らしになったみたいだしな」
「それにしても、僕の屋敷と大違いじゃない? 寝室に『助けて』とか『殺してやる』とか血文字があったんだよ? 挙げ句の果てには、僕の顔ぐらいある蜘蛛が上からツーっと下りて来たんだよ~。アレにはビビった~。ボエルがグーパンするし~」

 フレドリクの表情が柔らかくなったところで畳み掛けるフィリップ。蜘蛛の時点でフレドリクたちも笑いそうになり、ボエルのパンチで笑いが弾けた。
 でも、フレドリクには血文字を書いた犯人に心当たりがあったので、名前と何があったのかを告げたら全員引いた。皇族の血で血を洗う骨肉の争いは笑えないわ~。

 そのおかげで、フィリップへの怒りは完全に鎮火。ボエルの今後の話を少ししたら、次はフィリップを招待してくれると告げて、フレドリクたちは帰って行くのであった……

「うぅ~……行きたくねぇ~」
「まぁ頑張れ。オレも、詮索しないように頑張るから」

 怒られたあとに誘われても、誰でも行きたくないってモノ。ボエルもフィリップの言いたいことが完全にわかったので、この日は2人で慰め合うのであったとさ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

スキルポイントが無限で全振りしても余るため、他に使ってみます

銀狐
ファンタジー
病気で17歳という若さで亡くなってしまった橘 勇輝。 死んだ際に3つの能力を手に入れ、別の世界に行けることになった。 そこで手に入れた能力でスキルポイントを無限にできる。 そのため、いろいろなスキルをカンストさせてみようと思いました。 ※10万文字が超えそうなので、長編にしました。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

破滅する悪役五人兄弟の末っ子に転生した俺、無能と見下されるがゲームの知識で最強となり、悪役一家と幸せエンディングを目指します。

大田明
ファンタジー
『サークラルファンタズム』というゲームの、ダンカン・エルグレイヴというキャラクターに転生した主人公。 ダンカンは悪役で性格が悪く、さらに無能という人気が無いキャラクター。 主人公はそんなダンカンに転生するも、家族愛に溢れる兄弟たちのことが大好きであった。 マグヌス、アングス、ニール、イナ。破滅する運命にある兄弟たち。 しかし主人公はゲームの知識があるため、そんな彼らを救うことができると確信していた。 主人公は兄弟たちにゲーム中に辿り着けなかった最高の幸せを与えるため、奮闘することを決意する。 これは無能と呼ばれた悪役が最強となり、兄弟を幸せに導く物語だ。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

猫王様の千年股旅

ma-no
ファンタジー
 神様のミスで森に住む白猫に転生させられた老人。  紆余曲折の末、猫の国の王となったけど、そこからが長い。  魔法チートで戦ったり技術チートしたり世界中を旅したりしても、まだまだ時間は有り余っている。  千年の寿命を与えられた猫は、幾千の出会いと別れを繰り返すのであった…… ☆注☆ この話は「アイムキャット!!? 異世界キャット漫遊記」の続編です。 できるだけ前情報なしで書いていますので、新しい読者様に出会えると幸いです。 初っ端からネタバレが含まれていますので、気になる人は元の話から読んでもらえたら有り難いですけど、超長いので覚悟が必要かも…… 「アルファポリス」「小説家になろう」「カクヨミ」で同時掲載中です。 R指定は念の為です。  毎週日曜、夕方ぐらいに更新しております。

処理中です...