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十三章 卒業前も後も夜遊び

314 新居の改築

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 フィリップが寝ていても騎士が護衛の辞退を心に決めても馬車は無情にも走り続け、新居に到着してしまった。
 門の前で馬車が止まると騎士たちは急いで降りて、豪華な馬車からフィリップが降りて来るのを待つ。

「ふあ~……おはよう」
「「「「おはようございます!」」」」
「んじゃ、とりあえず……」
「お言葉を遮って申し訳ありません! その前によろしいでしょうか?」
「んん~? どったの??」
「誠に申し訳ない話なのですが、我々も殿下の護衛の任、辞退させていただけないでしょうか……」
「我々って……全員ってこと?」
「「「「はいっ!」」」」

 その覚悟のセリフに、御者台に乗ってる騎士には話が行っていないのか驚いた顔をして、ボエルは吹き出して横を向いた。
 フィリップはいきなりの辞退だったが、あまり頭が回っていないので面倒くさそうに告げる。

「もう無理。どうしても辞めたかったら、騎士を辞めろ。いや、皇族に恥を掻かせるんだ。僕が直々に処刑してやる。それでいいね?」
「「「「い、いえ……」」」」
「じゃあお前たちはついて来い」
「「「「はっ!」」」」

 処刑を出したら騎士たちも諦めて、フィリップの言う通り動く。その騎士4人にサビッサビの鉄格子状の門を開けさせると、ギィギィと気持ち悪い音が鳴り響く。
 そこから全員入ると新居の庭に馬を繋ぐだけのスペースを作らせ、その辺にあった鉄製のベンチを持って来させる。フィリップはボエルにベンチに布を敷かせたらそこにふんぞり返って座り、騎士全員をその前に正座で座らせた。

「お前たちって……どうして選ばれたかわからないの?」
「いえ……」
「なんでわかんないかな~……ボエルの友達だからだよ」
「「「「「……あっ!?」」」」」

 騎士たち、ここで周りの顔を見回して気付いた。実を言うと、フィリップは護衛を選ぶ時に、後ろに立たせたボエルに友達がいたら合図を出させていたのだ。
 下級貴族なら、第二皇子が選んだら断れないのは狙い通り。他に4人の騎士に声を掛けたのはアリバイ作り。
 名前を聞いたら位の高い家だったから、そのまま加えたら断ると思っていたから全てフィリップの狙い通りだ。

「ボエルから聞いてるよ。帝都学院のダンジョン実習で優秀だったと。でも、準貴族だから出世はよっぽどのことがないと無理だ。それを僕が拾ってやったんだ。それなのに、辞める~~~?
 辞めるなら待遇聞いてからでしょ。向こうより高い給金用意してたんだけどな~……あ、さっきの処刑、嘘だから好きに辞めてくれたまえ。はいっ! かいさ~ん」
「「「「「辞退を辞退させてください!!」」」」」

 給料が高いと聞いて、手のひら返し。そんなフィリップに嵌められた友達を見たボエルは大笑い。指差してヒーヒー言ってるよ。

「確か、騎士団に入った準貴族は、見習いから上がっても月に金貨3枚だったよね? そこから銀貨が地味に上がる程度で、隊を任されないことには大幅なアップはない。うちは金貨6枚払うよ。殉職の場合は、ご家族に白金貨1枚ね。どうどう? 破格じゃな~い??」
「「「「「はい! 殿下に忠誠を誓います!!」」」」」

 さっきまで辞退しようとしていた騎士6人、給料を聞いただけで陥落。

「ねえ? ボエルはこいつらと本当に友達だったの??」

 でも、金の亡者に見えてフィリップは雇いたくなくなっちゃった。

「昔はこころざしの高いヤツらだったんだけどな~……騎士団で揉まれて、心を折られてたのかも?」
「騎士団ってブラック職場なんだ~」
「まぁ多少は肉体的にしんどい仕事だと思うけど、貴族のボンボンがな……オヤジも『何も知らないガキが偉そうに』とか言ってた」
「精神的にキツイか~……うん。お兄様に改革できないかチクっておくよ」
「「「「「ありがとうございます!」」」」」

 ボエルから理由を聞いたら、フィリップも自分の前世を思い出して哀れみ、騎士からは神のようにあがめられるのであったとさ。


 それからフィリップが護衛騎士の愚痴をニヤニヤ聞いていたら、馬車が数台近付いて来た。この人たちは、昨日、指示を追加して追い出したボエルに手配してもらった大工と庭師。
 なのに護衛騎士は敵だと思って走って行ったので、ボエルに止めさせた。剣を抜いていたから、全員クマパンチだ。

「んじゃ、騎士はしばらく暇になるから、大工や庭の仕事手伝うんだよ? こいつらこき使っちゃって」
「「「「「ええぇぇ~……」」」」」

 さらにフィリップが追い討ち。護衛騎士として雇われたのに、騎士以外の仕事ばかりやらされるもんね。
 しかし、今月から金貨6枚は支払われると聞いて、やる気復活。騎士団の給料と二重取りできるからだ。

 とりあえず護衛騎士は庭師と一緒に庭の掃除から始め、フィリップは大工を連れて打ち合わせ。地下から希望を伝え、上の階へ上って行く。3階の殺人事件の現場みたいな部屋では悲鳴が上がっていたよ。
 大工はフィリップの無茶振りに難しい顔をしていたけど、「帝国トップの大工集団って聞いたのにその程度なんだ」とあおられて超やる気。フィリップと一緒に設計図を作成する。

 お昼は一番近くのメイド食堂にお弁当を用意させて、広くなった庭で和気あいあいと食べる。ほとんどの者は、フィリップが一緒の物を食べていたことに驚いていた。
 設計図作成に目処が立つと、次は庭師を集めるフィリップ。各種希望を言って、庭師も悩ませる。

「ま、こんなもんかな? 各自、励んでくれたまえ。もしも変更とかある場合は、必ず相談してね。んじゃ、今日のところはかいさ~ん」
「「「「「はっ!」」」」」

 それだけ言ったフィリップは、ボエルと馬車に乗り込んで帰って行くのであった……

「なんか普通に指示とか出してたな……」
「本当に……」
「「「「「馬鹿じゃなかったんだ……」」」」」

 ただし、フィリップが聞いていた人物像と掛け離れていたからか、全員、鳩が豆鉄砲くらったような顔で見送ったのであった。
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