304 / 384
十三章 卒業前も後も夜遊び
304 夜の帝王を探る者
しおりを挟むフィリップから無茶振りされた生徒会は毎日忙しそうにしているけど、フィリップは暇。ダンスの練習も飽きていたので、仮病を使って夜遊びシフトに変更していた。
この日もいつもの夜遊び用の服を着てキャロリーナと遊ぼうと奴隷館に顔を出したら、店内をうろつく女性奴隷の雰囲気がおかしい。どこか上の空で、フィリップが目の前にいるのに気付かず通り過ぎて行く。
フィリップは自分の身長が低いから見えなかったのかと、少し涙ぐみながら最上階のオーナー室にノックして入った。
「いらっしゃあ~いぃ」
キャロリーナはいつも通り笑顔で手を広げていたので、フィリップはそこに飛び込んで抱きかかえられてベッドへ。
「なんか今日、みんな変じゃない?」
でも、マッサージの前に、忘れない内に聞くこと聞いておきたい。普段なら同じことをしてもキャロリーナはフィリップを貪り食うけど、今日はそれどころではないことがあったので食事は止まった。
「あぁ~……それねぇ~……」
「なんかあったの? 僕で解決できるなら、いくらでも手を貸すよ?」
「そういう問題じゃなくてぇ。今日、皇太子殿下が参られたのよぉ~」
どうやら奴隷館は、フレドリクショック。男でも惚れてしまい兼ねないキラキラ笑顔を見た女性奴隷は、漏れなくぶっ倒れたらしい。
「そのせいでみんなぁ、皇太子殿下に心を奪われちゃってぇ、今日は仕事にならなかったのよぉ~。綺麗な顔だとは知っていたけどぉ、近くで会っちゃダメねぇ。あの顔わぁ、女には毒よぉ」
「そのわりにはキャロちゃんは変わらないんだね」
「だってぇ。あたしは殿下一筋だもぉん。かわいいわぁ~」
「うん。重症だね……」
フレドリクスマイル、重度のショタコンには通じず。犯罪者を前にしては、フィリップも喜ぶに喜べないみたいだ。
「てか、なんでお兄様がこんなところに……もしかして、僕のことがバレたとか?」
「いいえぇ。殿下のことじゃないわよぉ。イロイロ聞かれたからわかりにくかったけどぉ、たぶんアレわぁ、夜の帝王を捜している感じだったわぁ」
「それも僕なんだけど……言ってないよね?」
「もちろんよぉ」
フレドリクの質問は夜の街の景気から始まり、性奴隷の買い手や値段、治安なんかを事細かく聞いていたらしいが、夜の帝王の質問が何回かあったのでキャロリーナは無難に返したらしい。
天才フレドリクに掛かれば表情から嘘を読み取れるが、キャロリーナは元貴族の上に皇帝が認める程のやり手。夜の帝王は背の低い中年男性と言う嘘を信じ込ませたそうだ。
「ありがと~う。下手したら、もう夜遊びできないところだったよ~」
「それはあたしも困るからぁ、守るに決まってるわぁ」
「しっかし、なんで急に夜の帝王なんか調べ出したんだろ?」
「あたしの予想だけどぉ……義賊についても聞いていたのよねぇ……」
「つまり、お兄様の考えでは、夜の帝王イコール義賊ってこと?」
「おそらくねぇ。義賊はもう死んでるんだからぁ、殿下が義賊のわけないのにねぇ」
「まだ捜してたんだ……」
フィリップの中ではもう終わった話だったので、フレドリクがまだ嗅ぎ回っていたのかと少し険しい顔になった。
「どうしたのぉ? まさか本当ってワケじゃないわよねぇ?」
「なワケないじゃん。お兄様のせいで夜遊びし辛くなりそうだから、どうしようかと思って」
「あぁ~……あの感じだとぉ、夜の帝王に会って話をしたそうだったからぁ、気を付けたほうがいいわねぇ」
「でしょ? あ~あ。なんでキャロちゃんのところに来るんだよ~」
「それは陛下から聞いたからだってぇ。まぁ今度ぉ、陛下に先触れを出すようにお願いしておくわぁ。うちも仕事にならないしぃ」
キャロリーナは、こう見えて皇帝の隠密。皇帝はフレドリクに相談された時に、夜の街なら適任者がいるとキャロリーナを引き合わせたのだ。
「しばらく大人しくしておいたほうがいいか……」
「そうねぇ。いま情報を集めさせてるけどぉ、他も回っていたみたいだからぁ、控えたほうがよさそうねぇ」
「チェッ。せっかく夜型にしたのに、お兄様のせいで萎えちゃった」
「大丈夫よぉ。あたしに任せてぇ~」
フレドリクのせいでやる気をなくしたフィリップであったが、キャロリーナのおかげで朝方まで頑張っちゃうのであったとさ。
次の日の夜、フィリップはフードを深く被って夜の街に出た。そして行き付けの酒場やクラブを短時間だけ顔を出したら、奴隷館に足を運んだ。
「昨日ぉ、大人しくするって言ってなかったぁ~?」
「まぁまぁ。なんか気になっちゃって」
オーナールームではキャロリーナが不思議そうに出迎えていたが、フィリップは押し込むように中に入った。
「僕なりにちょっと調べて来たんだけどね~。ここにお兄様が来たの、僕のせいというより夜の街のみんなのせいかも?」
「どういうことぉ~?」
「みんな僕に気を付かってんのか、人物像がバラバラだったの。夜の帝王はハゲとかデブとかジジイだとか、言いたい放題だったんだよ~」
「プッ。みんなに慕われてる証拠じゃなぁ~い」
「笑ってるじゃ~ん」
夜の街の住人、夜の帝王を守るために嘘ばかり。人物像が違い過ぎるから、どれが本当なのかキャロリーナに聞きに来たってのが真相みたいだ。
「まぁその情報でこちらも合点がいったわぁ」
「そっちも何か情報手に入れたの?」
「ええ。ここ数日ぅ、衛兵が横柄な態度になってたらしいのぉ。そんなバラバラの報告したらぁ、上から怒られるわよねぇ」
「それって……僕のせい? お兄様のせいだよね??」
「うんっと……4対6ぐらいかしらぁ?」
夜の街まで騒がしくなったのは、フィリップとしてはフレドリクのせいと言いたいみたいだが、キャロリーナの裁定はややフレドリク寄りなだけ。
「僕は楽しく夜遊びしてるだけだよ~~~」
「普通、皇族はこんな所に来ないわよ?」
なのでフィリップは言い逃れしようとしたけど、キャロリーナの裁定は逆に傾いただけであったとさ。
100%、フィリップのせいなんだけどね。
12
お気に入りに追加
175
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
47歳のおじさんが異世界に召喚されたら不動明王に化身して感謝力で無双しまくっちゃう件!
のんたろう
ファンタジー
異世界マーラに召喚された凝流(しこる)は、
ハサンと名を変えて異世界で
聖騎士として生きることを決める。
ここでの世界では
感謝の力が有効と知る。
魔王スマターを倒せ!
不動明王へと化身せよ!
聖騎士ハサン伝説の伝承!
略称は「しなおじ」!
年内書籍化予定!
猫王様の千年股旅
ma-no
ファンタジー
神様のミスで森に住む白猫に転生させられた老人。
紆余曲折の末、猫の国の王となったけど、そこからが長い。
魔法チートで戦ったり技術チートしたり世界中を旅したりしても、まだまだ時間は有り余っている。
千年の寿命を与えられた猫は、幾千の出会いと別れを繰り返すのであった……
☆注☆ この話は「アイムキャット!!? 異世界キャット漫遊記」の続編です。
できるだけ前情報なしで書いていますので、新しい読者様に出会えると幸いです。
初っ端からネタバレが含まれていますので、気になる人は元の話から読んでもらえたら有り難いですけど、超長いので覚悟が必要かも……
「アルファポリス」「小説家になろう」「カクヨミ」で同時掲載中です。
R指定は念の為です。
毎週日曜、夕方ぐらいに更新しております。

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。
秋田ノ介
ファンタジー
88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。
異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。
その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。
飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。
完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。
俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜
早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。
食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した!
しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……?
「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」
そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。
無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる