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十二章 最終学年になっても夜遊び
296 結婚式
しおりを挟む面倒くさい派閥のパーティーは、フィリップは貴族の誘いを適当にあしらって乗り切るから、特に評価は上がりもせず下がりもせず。やる気がないとコソコソ言われるだけだ。
そんなフィリップより大人気な者が皇族席にいる……ルイーゼだ。
誰が来ようとタメ口で喋り、食事をしたら最低なマナーを披露。たまにおっちょこちょいでこけてオッサンに抱き付くので、奥様方にも受けが悪い。
オッサンもルイーゼなんかに鼻の下を伸ばすのが悪い。フレドリクが怒りの顔を見せ「わかっているな?」と脅すから「お許しを~」ってことになるのだ。
こんなことばかり起こっているので、パーティーの話題はルイーゼの悪口ばかり。フィリップとしては自分から目を逸らせると喜びたいところであったが「国が荒れるって~。どうして連れて来るんだよ~」っと、超心配。
その傾向は、全てのパーティーが終わってから行われる結婚式にも出てるもん。神殿にある贅を凝らした結婚式場では、出席者のヒソヒソ話が止まることを知らないのだ。
「はぁ~……なんでネラさんがここにいるの?」
結婚式場、一際豪華な皇族席に拉致られたフィリップは、皇帝がまだいないことよりも、ドレスアップしたペトロネラが隣に座っていることが不思議でならない。
「陛下からパートナーを頼まれまして。要は両殿下のお母様役ですね」
「ウッソ……父上とそんな関係じゃないよね?」
「単純に家柄、年齢がちょうどいいってことで選ばれただけです。まぁそのまま陛下とゴールインってのもアリですが……うっ。長男の結婚式なんて、泣いちゃいそう……」
「もう結婚した世界線にいる!?」
選ばれた理由は納得いくが、ペトロネラが母親になった世界に異世界転移しているので、展開が早すぎる。なのでフィリップはペトロネラから聞いたモテない話を繰り返し、この世界線に引っ張り戻した。
「てか、ネラさんはこの結婚、どう見てる?」
「そうですね……私もこんな式場でウェディングドレスを着たいです」
「そういうのいいから」
「グスッ……殿下が厳しい……」
真面目な話をしているのだから、フィリップはオコ。ペトロネラはまだふざけて泣いたフリしてやがる。
「正直なところ、貴族は誰も望んでおりませんね。このあとの舵取りは、難しいことになるでしょう」
「だよね~。僕もいい未来が一向に見えないよ」
「ここはやはり、私が代わりになる他ありません。推しのフレドリク殿下なら、一生添い遂げられます」
「何が『やはり』なんだよ~。ただでさえ荒れそうなんだから、新郎を奪いに乱入しちゃダメだからね~」
「何その展開……めちゃくちゃ熱いじゃないですか!?」
「しまった!?」
物語でよくある展開、ペトロネラはお気に召した様子。注意したはずなのに策を与えたことになってしまったので、フィリップはペトロネラのドレスを掴んで離さないのであったとさ。
結婚式場はルイーゼのせいでざわめきが凄いが、皇帝が入場したらピタリと止まる。喋っているのはフィリップだけ。
「皇族だったら誰でもいいのか?」とペトロネラを説教していたら、皇帝が近付いて来たのが目に入ったので、フィリップは飛び跳ねて起立。ペトロネラと一緒に綺麗なお辞儀で皇帝を出迎えた。
役者が揃えば、結婚式の開始だ。荘厳なパイプオルガンが鳴り響き、フレドリクとルイーゼが入場すると……
「「「「「おお~……」」」」」
凛々しいフレドリクのタキシード姿、美しいルイーゼのウェディングドレス姿に、誰しもが目を奪われることに。
さすがは乙女ゲームの主人公。強制力も働いているのかもしれないが、その美貌で全員を黙らせた。
「こける? こけない? セーフ!」
フィリップ以外……ルイーゼがおっちょこちょいを発動しないか、ずっとブツブツ言ってるよ。
こうなればあとは主役のモノ。結婚式は滞りなく進み、あんなに悪口言われていたのに、祝福の声で溢れるのであった……
フレドリクとルイーゼの結婚が成立すると、場所を変えて披露宴の開始。主賓である皇太子夫妻の下へ貴族の長い列が作られ、祝福と賛辞が届けられる。
フィリップも安心して見ていたけど、途中から不穏な空気に。ルイーゼのマナーや素を見て、貴族の悪口復活だ。
さすがに聞こえないように声は小さいが、ずっと耳打ちしているから、「聖女ちゃんのことしかないよ~」とフィリップも頭を抱えてる。
「ちょっと行って来る」
いつフレドリクの耳に入ってもおかしくない事態に、フィリップが動く。
「では、私が付き添いを」
「いや、いらないんだけど……」
ペトロネラも動いて腕を組んだので、フィリップは突き飛ばしたい。でも、皇帝が何か目で訴えていたから、泣く泣く我慢だ。
身長差のせいで、2人はどう見ても母親と息子。それも息子が大人のマネをして腕を組んでるようなので、貴族たちは釘付け。微笑ましいというよりも、笑っちゃいそうだ。
そんな貴族たちをフィリップは睨みながら、順番抜かし。列の一番前に出たら、ちょうどフレドリクに喋り掛けようとした貴族を押し退けた。「第二皇子だからいいのだ~!」っと、フィリップ談。
「お兄様、ご結婚おめでとう。お姉様もおめでとう。すっごく綺麗だよ」
「ああ。ありがとう」
「フィリップ君、ありがとね」
フレドリクも注意する素振りもないので、順番抜かしは本当によかったみたいだ。
「プレゼントとかは用意してないから、お兄様宛に手紙を書いて来たの。読んでもいい?」
「おお……フィリップからの手紙か……是非とも聞かせてくれ」
「うんっ!」
この時点で、フレドリクは泣きそう。フィリップはこんなことしたことないもん。ルイーゼはもう涙が落ちた。
「改めまして、お兄様お姉様、ご結婚おめでとうございます……」
フィリップは目立つ場所に移動したら、手紙の朗読。この日のためというか、貴族の空気が悪くなった時のために、前世の知識をフル動員させて最高に泣ける文章を書き上げていたのだ。
前世の知識ということは、詰まるところパクリ。覚えている感動した文章をフィリップの生い立ちに当て嵌めて書いたのだから、フレドリクは涙。ルイーゼは大泣き。ペトロネラも酒が入ってないのに大泣き。皇帝まで目頭を押さえている。
貴族からもすすり泣く声がそこかしこから聞こえ、架橋に入るとその数も膨らむ。
「と、僕はお兄様に支えられて生きて来ました。お兄様なしには生きられません。だから、立派な皇帝になって、死ぬまで僕を養ってください。お願いします。おしま~い」
でも、最後の最後でフィリップがブッ込んだので、全員ポカン。みんな聞き間違えたのかと、耳を擦ってる。
その隙にフィリップは、フレドリクに手紙を握らせ「逃げろ~!」とペトロネラを置き去りにして撤退。皇帝は鬼のような顔になっていたので、みずから膝に乗って超言い訳だ。
「ほら? あまり感動させると僕の設定が崩れるじゃない? だから笑いを取ろうと、最後の文章はアドリブで足したの。笑いは失敗だったけど……てもでも、これで聖女ちゃんから目を逸らせたんじゃない? 怒らないで。ね??」
「そういうことか。何か狙っているとは思っていたが……感動だけで充分だ」
「それ、どっちの意味~~~!!」
皇帝がフィリップとペトロネラを送り込んだのは、フィリップの意図を読んで。
ただ、感動していたのに台無しにされたことは許せないのか、フィリップの頭を雑に撫で回すから、フィリップは褒められているのか怒られているのかサッパリわからないのであったとさ。
披露宴は、フィリップのおかげでルイーゼの悪口は半減。フィリップが悪口を半分受け持ったから、披露宴は半分は成功といえる。
自室にフラフラで帰ったら、ボエルとペトロネラから説教。2人はフィリップが珍しく真面目なことをしていたから、大泣きしていたんだって。それが台無しにされたから許せなかったみたいだ。
「だからね。ボエルはわかるけど、ネラさんはなんで普通に僕の部屋にいるの?」
「私の子供が結婚したんだから、飲まないワケにはいかないでしょ~」
「だからその世界線は存在しないの!!」
ここはペトロネラを説教して、2人の説教は回避。翌朝は早くにボエルが起こしに来たら、フィリップとペトロネラは裸で抱き合って眠っていたんだとか……
こんなに早く起きた理由は、まだお仕事が残っているから。フィリップは皇帝と一緒に屋根のないオープン馬車に乗って、皇太子夫妻のオープン馬車に続いている。
「「「「「キャーーー!」」」」」
「「「「「フレドリク殿下~~~!」」」」」
「「「「「聖女様~~~!」」」」」
いわゆるハネムーンパレードだ。帝都中の民が2人の結婚を祝うために、大通りを埋め尽くしている。中にはフレドリクのキラキラ笑顔を見て、失神している女性もいるけど……
「フィリップの言った通りになったな」
その光景を見た皇帝は、フィリップが言った「たまには平民に夢を見させてあげたら?」って言葉を思い出していた。
「まぁ……これだけ民が祝福しているなら、貴族も滅多なことはして来ないかな~?」
「おそらくな。しばらくは様子見となるだろう」
「その間に、お兄様が貴族のハートを鷲掴みしてくれたらいいんだけどね~」
「だな……フレドリクなら心配いらんだろう」
民あっての国。フィリップと皇帝は、前の馬車で民の声援に手を振って応えるフレドリクの背中を見ながら、帝国の未来に想いを馳せるのであった……
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