上 下
292 / 364
十二章 最終学年になっても夜遊び

292 やっちゃった案件

しおりを挟む

 レンネンカンプ侯爵を殺したフィリップは、翌日は仮病でグウスカ。たかぶった気持ちを抑えるために娼館に寄って帰ったからいつもより眠りが深い。いや、いつも通り。
 そんなフィリップが気持ち良く寝ていたら、昼過ぎにボエルに優しく起こされた。

「ふぁ~。気持ち良かった~。おはよ」
「これならすぐ起きるんだよな~……」

 どんな起こされ方かはわからないけど、フィリップはスッキリしたみたいなので、ランチの確認。食べるらしいのでボエルは口をゆすいでから、フィリップの目の前に料理を運んで来た。

「あ~ん」
「それぐらい食えるだろ」
「フ~フ~して~」
「もう適温だ」
「彼女にはやってもらってたクセに~」
「冷たくなってもいいならやるぞ?」
「チェッ……反応が面白くな~い」

 ボエル、フィリップのからかい耐性がついたので、つまらない返ししかしない。こうなってはフィリップも、ボエルが焦りそうなネタはないかと考えながらスープをすすってる。

「はぁ~。お腹いっぱい。もうひと眠りするね~」
「ちょっと待て」

 結局思い付かなかったので、フィリップは食事を終えるとふて寝。でも、ボエルに止められた。

「フレドリク殿下から手紙だ。必ず目を通すように言われている」
「読み聞かせして~」
「できるワケないだろ」
「別にたいしたこと書いてないと思うのにな~……どれどれ。昔々あるところにおじいさんとおばあさんが住んでいました。おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯に……」
「本当にそんなことが書かれているのか??」

 ボエルがやっとツッコンでくれたけど、フィリップは無視して手紙を持ちながらむかし話を朗読。手紙を最後まで読み終えると、フィリップは「めでたしめでたし」で締めた。

「なかなか面白い話だったな。でも、フレドリク殿下はなんでそんな話を書いて殿下に寄越したんだ?」
「書いてるワケないじゃない。レンネンカンプ侯爵って人が亡くなったから、僕にも葬儀に出席しろだって」
「そんな大事なこと書いてるのにふざけてやがったのか!?」
「それそれ~。そのツッコミ待ってたの~。ボエルはこうでなくっちゃね」

 フィリップはツッコミがほしくてむかし話をしただけ。人が亡くなっているのにふざけたからには、ボエルに頭を拳で挟まれてグリグリやられるフィリップであったとさ。


「レンネンカンプ侯爵様が亡くなったのか……」

 体罰が終わったら、ボエルはボソリと呟いた。

「なに? ボエルの知り合い??」
「いや、面識はない。オレが一方的に知っているだけだ」
「そんなに有名人なんだ……」
「なんで知らないんだよ。西のダンマーク辺境伯、東のレンネンカンプ侯爵って言われる、帝国最古参の大貴族だぞ。代々皇太子殿下の派閥を率いて、その信頼から財務を担当してんだ」
「マジで? 僕、やっちゃったかも……」
「なにをやったんだ? ……娘か? 孫娘か? 誰に手を出した!?」

 ボエル、やっちゃった違い。フィリップの素行の悪さから、レンネンカンプ侯爵家の女性をヤッちゃったと確信している。フィリップの「やっちゃった」は「っちゃった」なのにね。
 そのフィリップは、布団を被って心配事。第一皇子派閥の長で財務担当者を亡き者にしてしまったから、派閥が荒れたり財務状況が傾いたりするのではないかと心配になっているのだ。

「行くしかないか……」
「イッたのか!? ま、まさか、中だ……」
「ボエルさん。エロイことばっかり言わないでくれません?」

 寝室にはまだボエルが残っていたからフィリップの呟きを拾われてしまったので、珍しくエロイことを注意するフィリップであったとさ。


 レンネンカンプ侯爵の葬儀は、亡くなってから1週間後。親戚縁者、派閥や慕う者が多いので、多くの人が葬儀に参列できるように少し時間を空けられた。
 フィリップもその間に昼型に戻して、図書館で歴史の勉強。皇家とレンネンカンプ侯爵家の成り立ちと立ち振る舞いを調べていたら、ボエルが「殿下が自主勉してる……」って泣きそうになっていた。

「邪魔しないでくれない?」
「す、すまん。嬉しかったから……グスッ」
「泣くほどなんだ……」

 ボエルは無視してフィリップの調べていることは、レンネンカンプ侯爵家が過去に第二皇子を殺していないかどうか。
 真偽のほどはわからないが、何度か兄弟のどちらかが即位前に不審死していたから、レンネンカンプ侯爵家が関わっている可能性はありそうだ。

 そんなことをしていたらあっという間に1週間が経ち、フィリップはおめかしして葬儀に出席。皇族席で、集まった大量の弔問客を見ている。

「なんで聖女ちゃんまでいるんだよ……」

 あと、チラチラとルイーゼを。婚約者なのはわかるがまだ皇族になっていないから席が違うと聞いていたのに、普通にフレドリクとフィリップの間に座っているから不思議でならないのだ。イチャイチャしてるし……

「ねえねえ?」
「どうしたのフィリップ君?」
「あ、聖……お姉様じゃなくてお兄様に聞きたいことがあるの」
「私、邪魔だよね……ゴメンね……」
「そんなこと言ってないよ? お兄様も真に受けないで? ね??」

 ルイーゼが悲しそうな顔をするだけで、フレドリクが怖い顔。なんとかいつものフレドリクが戻って来たら、質問の続きをする。

「お兄様はあの人にお世話になってたの?」
「ああ。財務のことや派閥のこと、多くのことを教えてもらった。まさかこんなに早くお別れとなるとは……」
「それは悲しいね。見た感じまだ若いのに……病気かなんか?」
「おそらく……家の者が朝に、ベッドの上で冷たくなったレンネンカンプ侯爵を発見したと聞いている。ただ……いや、なんでもない」

 フィリップは探りを入れるために出席しているので、もうちょっと聞きたい。

「何か心配事?」
「少しな……ここだけの話だが、前に騎士の大量行方不明があっただろ? その者を従えていた人物が、レンネンカンプ侯爵なのだ。だから私は病死だとは思えない。何か事件に巻き込まれたとしか考えられないのだ」
「ふ~ん。そんな事件あったんだ」
「知らないのか? ボエルに手紙を出したはずだぞ??」
「あっ! 聞いた聞いた。いま思い出した。10人ぐらい消えたんだよね?」
「16人だ……」

 あまり踏み込みすぎると怪しまれそうなので馬鹿を演じたら、ボエルの不手際かと思われそうになったので、フィリップはさらに追い足し。そのせいでフレドリクに冷たい目で見られてしまった。

「もう、フィリップ君。ちゃんとフックンの話は聞かなきゃダメだよ。メッ」
「……」

 そこにルイーゼの助け船。その言い方もそうだが、おでこをツンッと指でつつかれたモノだからフィリップもキレそうだ。

「羨ましい……私もルイーゼに叱られたいぞ」

 でも、ルイーゼがフィリップとイチャイチャしたモノだから、フレドリクのほうがキレそうだ。

「僕、誰にも叱られたくないよ~~~」

 まだまだ物語の強制力は健在。このままではまた巻き込まれそうだと感じたフィリップは、耳を両手で塞いで残りの時間をやり過ごすのであったとさ。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

ウィリアム・アーガイルの憂心 ~脇役貴族は生き残りたい~

エノキスルメ
ファンタジー
国王が崩御した! 大国の崩壊が始まった! 王族たちは次の王位を巡って争い始め、王家に隙ありと見た各地の大貴族たちは独立に乗り出す。 彼ら歴史の主役たちが各々の思惑を抱えて蠢く一方で――脇役である中小の貴族たちも、時代に翻弄されざるを得ない。 アーガイル伯爵家も、そんな翻弄される貴族家のひとつ。 家格は中の上程度。日和見を許されるほどには弱くないが、情勢の主導権を握れるほどには強くない。ある意味では最も危うくて損な立場。 「死にたくないよぉ~。穏やかに幸せに暮らしたいだけなのにぃ~」 ちょっと臆病で悲観的な若き当主ウィリアム・アーガイルは、嘆き、狼狽え、たまに半泣きになりながら、それでも生き残るためにがんばる。 ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載させていただいてます。

猫王様の千年股旅

ma-no
ファンタジー
 神様のミスで森に住む白猫に転生させられた老人。  紆余曲折の末、猫の国の王となったけど、そこからが長い。  魔法チートで戦ったり技術チートしたり世界中を旅したりしても、まだまだ時間は有り余っている。  千年の寿命を与えられた猫は、幾千の出会いと別れを繰り返すのであった…… ☆注☆ この話は「アイムキャット!!? 異世界キャット漫遊記」の続編です。 できるだけ前情報なしで書いていますので、新しい読者様に出会えると幸いです。 初っ端からネタバレが含まれていますので、気になる人は元の話から読んでもらえたら有り難いですけど、超長いので覚悟が必要かも…… 「アルファポリス」「小説家になろう」「カクヨミ」で同時掲載中です。 R指定は念の為です。  毎週日曜、夕方ぐらいに更新しております。

異世界で幸せに

木の葉
ファンタジー
新たな生を受けたキャロルはマッド、リオと共に異性界で幸せを掴む物語。 多くの人達に支えられながら成長していきやがては国の中心人物として皆を幸せにしていきます。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

ブラック・スワン  ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~ 

ファンタジー
「詰んだ…」遠い眼をして呟いた4歳の夏、カイザーはここが乙女ゲーム『亡国のレガリアと王国の秘宝』の世界だと思い出す。ゲームの俺様攻略対象者と我儘悪役令嬢の兄として転生した『無能』なモブが、ブラコン&シスコンへと華麗なるジョブチェンジを遂げモブの壁を愛と努力でぶち破る!これは優雅な白鳥ならぬ黒鳥の皮を被った彼が、無自覚に周りを誑しこんだりしながら奮闘しつつ総愛され(慕われ)する物語。生まれ持った美貌と頭脳・身体能力に努力を重ね、財力・身分と全てを活かし悪役令嬢ルート阻止に励むカイザーだがある日謎の能力が覚醒して…?!更にはそのミステリアス超絶美形っぷりから隠しキャラ扱いされたり、様々な勘違いにも拍車がかかり…。鉄壁の微笑みの裏で心の中の独り言と突っ込みが炸裂する彼の日常。(一話は短め設定です)

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

惣菜パン無双 〜固いパンしかない異世界で美味しいパンを作りたい〜

甲殻類パエリア
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンだった深海玲司は仕事帰りに雷に打たれて命を落とし、異世界に転生してしまう。  秀でた能力もなく前世と同じ平凡な男、「レイ」としてのんびり生きるつもりが、彼には一つだけ我慢ならないことがあった。  ——パンである。  異世界のパンは固くて味気のない、スープに浸さなければ食べられないものばかりで、それを主食として食べなければならない生活にうんざりしていた。  というのも、レイの前世は平凡ながら無類のパン好きだったのである。パン好きと言っても高級なパンを買って食べるわけではなく、さまざまな「菓子パン」や「惣菜パン」を自ら作り上げ、一人ひっそりとそれを食べることが至上の喜びだったのである。  そんな前世を持つレイが固くて味気ないパンしかない世界に耐えられるはずもなく、美味しいパンを求めて生まれ育った村から旅立つことに——。

処理中です...