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十二章 最終学年になっても夜遊び

279 ペトロネラ・ローエンシュタイン

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 ローエンシュタイン公爵家のペトロネラの情報を手に入れたフィリップは、スキップで前メイド長のアガータに会いに行ってお願い。でも、「メガネお姉さんを紹介して」とか言うから通じず。
 なのでボエルが説明したら理解してくれた。それも「メイドたちの仲を取り持ってくれる」と深読みして、早く会えるように手配してくれたのだ。

 その2日後、フィリップはボエルと一緒に、待ち合わせしているちょっと遠い場所にある応接室に移動していた。

「どんなメガネなんだろうね~?」
「その言い方だと、メガネにしか興味ないみたいだぞ」
「ボエルも興味持とうよ~。彼女がメガネかけてたらどうよ?」
「わっかんねぇ……何がそんなにいいんだ?」
「ダグマーのメガネ、エロかったでしょ~?」
「いや、先輩はメガネの奥の目が鋭すぎて怖かったぞ。その目を和らげるためにかけてたんじゃねぇか?」
「そんなワケないでしょ。フェチも教えないとダメか~……あっ! あの人たち、メガネじゃない??」
「せめてメイドと言え」

 ボエルのツッコミは無視して、フィリップは前を歩くメイド服を着た3人組をスキップで追い越した。そしてボエルが追い付いたら、チラッと後ろを見てから喋る。

「見た? 全員メガネだよ??」
「ちょっとしか見てねぇからわかんなかった」
「しょうがないな~……」

 ここでフィリップは振り返って通せんぼ。

「わっ! よく見たらすっごい美人! ローエンシュタイン公爵家の人だよね!? 僕、第二皇子様だよ~?」

 すると、真ん中に立つ金髪の丸メガネ美女に釘付け。歳はいってそうだが、フィリップ好みの巨乳メガネだ。

「ウフフ。殿下はお元気ですわね。紹介が遅れて申し訳ありません。私がペトロネラ・ローエンシュタインです。遠くからですが、何度か殿下のお姿を拝見しておりましたよ」
「そうなの? 声掛けてよ~。こんなに美人だったら、いつでもウェルカムだったのに~」
「こんなオバサンをお褒めいただきありがとうございます」
「オバサンなんてとんでもない! あれ? 血筋でいうと叔母になるのかな??」
「少し離れていますが、そのように呼んでいただいて結構ですよ」

 積もる話はあとから。ペトロネラたちが先を歩き、フィリップとボエルは後ろから下世話な話をコソコソ。

「どうどう? よくなくな~い??」
「うん……言ってる意味、ようやくわかった……ペトロネラ様も美人だけど、残りの2人もヤバイ……」
「あっら~? ボエルは若い子狙いなんだ。ま、タイプが被らなくてよかったってところかな」
「ナンパしに来たワケじゃないよな?」

 フィリップはテンション上がって、ナンパ気分。メガネの良さを知ったボエルもお話したくなっていたけど、なんとか我慢するのであった。


 それから応接室に着いた一同は、テーブルセッティングだけ各々の付き人がしたら、フィリップとペトロネラだけを残して別室にて待機。
 お茶を一口飲んで、軽い挨拶をもう一度してからペトロネラが本題を切り出す。フィリップは舐めるように見てるんだもの。

「それにしても私に内密な話とは、どういったご用件なのですか?」

 フィリップの呼び出しの理由は秘密。会ってから話すとなっていたから、ペトロネラとしてはあまりいい話だとは思っていない。第二皇子じゃなかったら、絶対に断っていた案件だ。

「そうそう。それを言わなきゃだね。簡潔に言うと、僕の彼女になってほしいの」
「……はい??」
「だからね。僕の彼女のフリを……」
「ブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツ」
「聞いてる? なに言ってるの??」
「ブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツ」

 用件を言ったら、ペトロネラは狐に摘ままれたような顔。その後はフィリップの話を聞かず、ずっとブツブツ言っているので話もままならないのであった。


 このペトロネラ。生まれはローエンシュタイン公爵家の末っ子で、メイドになった経緯は父親に言われたから。ただ、メイドじたいは性に合っていたらしく、トップに立とうと努力を惜しまなかった。
 その努力もあるが、地位も高いのだから若くしてあっという間にメイド長候補に名が上がる。それと同時期に外交メイド部隊からも声が掛かり、より難しいほうを選んだ。
 その結果は、現在のこの地位。全ての国の文化とマナーを習得し、外交メイド部隊のトップに長年君臨しているのだ。

 ただし、問題はある。

「今まで男に言い寄られたことがない私が彼女? もうすぐ40歳よ? いいの? このチャンスを逃すと、一生女の幸せを知らないまま死ぬのでは……」

 こういうこと。メイド勉強に時間を費やしたがために、婚期を逃してしまったのだ。ちなみに言い寄る男はけっこういたよ。でも、いつも仕事と勉強で頭がいっぱいだったから、親からの助言も男からの口説き文句も一切頭に入らなかったのだ。

「ここは乗るべき? でも、推しのフレドリク殿下ならまだしも、相手は子供……こんなオバサンでいいの~~~!?」

 普通は断るべき。でも、こじらせまくったアラフォーには即断できず、30分も自分の世界に閉じこもってしまった。

「なるほどね~。そういうことだったのね」
「……殿下? いつの間にそこに!?」
「わりと最初の頃~。聞こえなかったから」

 フィリップがいる場所は、ペトロネラの膝の上。触ってもつついてもまったく反応がなかったから、膝に登ってペトロネラの呟きをずっと聞いていたのだ。

「あの……その……全部聞きました?」
「うん。苦労した処女なんだね」
「わわわわわ、忘れてください!!」
「忘れるのは構わないんだけど……」
「なんでもしますので、どうか、どうか誰にも喋らないでください。お願いします!!」
「いや、そういうことじゃなくてね……」

 フィリップはめちゃくちゃ言い出し辛そうに告げる。

「僕、彼女のフリをしてほしいって言ってたの」
「え……」
「本当に言ったよ? 2回目はフリをしてって……」
「じゃあ……ぬか喜び??」
「いや、ただの早とちり」
「そんな~~~」

 いいほうに捉えるペトロネラ。それをフィリップが訂正したら、ペトロネラの遠吠えが響き渡るのであったとさ。
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