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十二章 最終学年になっても夜遊び

276 不審者パーティの処罰

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 フィリップが刺されて倒れるなかボエルが抱きかかえ、教師陣が不審者パーティを取り押さえる。
 第二皇子暗殺事件を目撃した誰もが自分の立場の心配をしていたら、とぼけた声が聞こえた。

「あ~あ。高かった金のブレスレット、ヘコンじゃったよ」

 フィリップだ。刺されたことよりも金のブレスレットの心配をしているので、この場にいる全員はポカンとしてる。

「殿下!? どこも怪我はないのか!?」
「フッフッフッ。この成金ブレスレットが僕の命を救ってくれたんだ。お金はかけるもんだね~? アハハハハ」

 そう。フィリップが金のブレスレットをねだっていたのは、もしも時のため。元々モンスター相手にボエルがミスった時に、ギリギリで受けて驚かせてやろうとたくらんでいたのだ。

「よかった! 本当によかった! でも、普通の篭手のほうが守ってくれたはずだ!!」
「ぐるじぃ~。いや、痛い! 折れる折れる!!」

 そうとは知らずボエルはフィリップが生きていることに安堵したようだけど、よけいなことを言うし抱き締める手に力を入れすぎ。フィリップ的にはボエルのボケにツッコミたかったが、ちょっと痛いぐらいだけど超痛い演技だ。
 それでボエルも離してくれたので、フィリップは手を借りて立ち上がり、瀕死の重傷のエドガーの下へと近付いた。

「現行犯逮捕だね~……もう言い逃れできないよ」
「くっ……だからなんだ? 俺が1人で勝手にやっただけだ」
「カックイイ~。自分1人の罪で逃れるつもりね。そんなカックイイ~お前には、親兄弟、親戚縁者、赤子まで殺すように父上に進言しておくよ。お前は最後だから、楽しみにしててね」
「待て! 家族は関係ないだろ!?」
「皇族を殺そうとしたんだから、大アリだよ。どうせ第一皇子派閥のお偉いさんに報復して来いと頼まれたんだろうけど、お兄様はそんなこと望んでないのにね~……トカゲの尻尾切りされてかわいそ。プププ」

 フィリップがふざけたように笑うので、一同ドン引き。エドガーも家族の命乞いするしかない。

「そんなの、僕知らな~い。こいつら全員、父上に突き出して」
「待ってくださ~~~い!!」

 こうして不審者パーティは無情にも、城に連行されるのであった。


「ボエル、急ぐよ!」
「あん?」

 不審者パーティが連行されるなか、フィリップはボエルの手を引いてダッシュ。厩舎きゅうしゃに移動する。
 そこで馬に跨がり、負担が掛からない程度に飛ばして城に直行した。

「ボエルはお兄様に取り次いで。暗殺されかけたからすぐ会いたいと。僕は父上に会えるか試してみる」
「いいけどよ~……」
「あとで説明するから急いで!」
「おう……」

 フィリップが走って離れて行くので、ボエルも行くしかない。そのフィリップは執務室に着いたら皇帝付きの執事に理由を説明して会いたい旨を伝えたが、いまは他国からの来客のせいですぐには会えない。
 少し苛立ちながら待っていたら、ボエルが走って朗報を持って来たので「お兄様に先に会う」と執事に言伝を頼んでフィリップは走り去った。

「フィリップ! 大丈夫だったんだな!?」

 フレドリクは財務部の会議室に入って来たフィリップの顔を見た瞬間、駆け寄って両肩に手を置いた。

「うん。ぜんぜん大丈夫。それより、誰か信用できる人に暗殺者をいますぐ迎えに行かせて。口封じされたら困るし」
「それなら大丈夫だ。カイたちがたまたまいたから走らせた」
「さすがお兄様~。ボエルとは違うね~」
「またボエルに秘密にしていたのか……」

 急いでいた理由はこれ。ボエルがまた驚いた顔をしているので、フレドリクも心配する気持ちが吹っ飛んだ。
 それから一旦ブレイク。ソファー席に移動して、お茶をしながらフィリップが事の顛末を説明する。

「そうか……おそらく私をしたっている者が報復したのだろうな」

 第二皇子が暗殺者を第一皇子に送ったことになっているのだから、フレドリクの理解は早い。

「それでなんだけど……学生への罰はなしにしてあげてくれない?」

 ただ、被害者であるフィリップが擁護する発言をしたので、これは理解できないらしい。

「そうはいかない。皇族に弓を引いたのだ。殺すまではしないが、重い罰を下さねばならない」
「怪我ひとつないんだから、そんなの上層部だけでいいじゃん。子供には選択権がないんだからね。それにもう、めい一杯脅しておいたから、優しくしたらペラペラ喋ってくれると思うよ。喋らなかったら厳罰に処すってことでどうかな~?」
「……ボエル。フィリップはどんな脅し方をしたのだ?」
「なんでボエルに聞くの?」

 犯人ではなくボエルがフィリップの悪行をペラペラ喋ったので、フレドリクも引いてる。さすがに血縁者全てを消すつもりはなかったらしい。

「私がそこまですると思っていたのか? ちょっと悲しいぞ??」
「冗談だよ~。喋りやすくしただけだよ~」

 さらに弟に冷酷非道と思われていたのかと、ヘコむフレドリクであった。フィリップ的には「何十人も拷問しようとした前科あるじゃん」と思っているけど……


 それから少し喋っていたらノックの音が響き、皇帝付きの執事が呼びに来た。フィリップとしてはもう用件が終わっていたのでキャンセルしたかったけど、自分から会いに来たのだから行くしかない。
 フレドリクに別れの挨拶をしたらトボトボと執事の跡に続き、ボエルに「なんで嫌そうなんだ?」とツッコまれていた。

「どこも怪我はないか?」
「う、うん……運良く……」

 膝に乗せられて撫で回されるから嫌に決まってる。今日は特に酷い。それほど皇帝はフィリップのことを心配していたみたいだ。

「なるほど。もうフレドリクが動いているのか。ならば俺の手は必要ないだろう」

 もう一度、暗殺事件の概要をフィリップが説明したら、皇帝はフレドリクに絶大な信頼をしている。

「まぁお兄様なら、上手くやってくれるだろうね」
「うむ。しかし、学生に恩赦を与えろとは、どういった意図があるのだ?」
「単純にかわいそうだと思っただけだよ」
「それだけか……いや、フレドリクの口から恩赦をやれば、忠誠心が上がるか……そういうことだな?」

 メイド服の件から、フィリップの評価は爆上げ。これ以上深読みされると全てがバレてしまいそうなので、皇帝の話に合わせてうやむやにしてしまう。

「深読みしすぎだよ~。でも、僕の名前は出さないように助言してほしいかな~?」
「フッ……相変わらず面白いことを考える。よくやったな」

 それで皇帝はさらに喜び、フィリップの頭を激しく撫で回すのであった……
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