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十二章 最終学年になっても夜遊び

274 追跡者

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 ボッチと馬鹿にされたフィリップはスネていたけど、ボエルが献身的にマッサージしてくれたので翌日には機嫌は直った。
 そろそろ仮病を使おうかと思っていたフィリップだが、フレドリクが襲われたと聞いたので、学校の様子を見ようともうしばらく我慢する。

「ちょっと僕を見る目が変わったかな?」
「だな。噂も流れていたぞ。殿下が本当にやったのかと」
「半信半疑って感じか~」
「ああ。見る限り野心の欠片がないからな。あと……」

 帝都学院ではフレドリク暗殺未遂の話題で持ち切り。でも、フィリップの生活態度が悪すぎてあまり犯人に思われていない。どちらかというと、「あのボッチにはムリムリ~」という噂が大半だ。

「うんうん。気を遣ってくれてありがとうね。グスッ……」
「泣くぐらいなら友達作ろうぜ。な?」

 ボエルが全てを語らずとも、フィリップだってわかるってモノ。今日もボエルに励まされてマッサージを受けるフィリップであった。


 そんな話題で持ち切りでも、ダンジョン実習は続いている。フィリップはリネーアパーティに残って戦闘の助言をして暇を潰していたけどそれも飽きて来た。
 なので脱退しようと思って、今日はリネーアパーティ3人だけで行けるところまで進ませる。フィリップとボエルは後ろをついて歩き、試験官気分だ。

「なんだかんだでいいパーティになったね」
「ああ。ナータンも根性あるから、前衛1人でも充分だ。もしもモンスターが抜けても、デシレアの風の盾もあるしな。リネーアのウォータービーム? アレは連発してもあまり魔力が減らないみたいだから、穴もねぇ。これはいいところまで行けそうだ」
「でも、大物が出て来た場合がまだ不安なんだよね~。必殺技とか合体技なんかを開発したいところだね」
「殿下はリネーアたちをどうしたいんだ?」
「……新しいオモチャ??」
「だと思った……」

 ただし、フィリップは本当に暇潰しで遊んでいるだけ。それはボエルも薄々気付いていたらしい。
 しかしリネーアパーティの力にはなっているのだから、ボエルもそこまで非難することはない。2人でリネーアパーティの粗を探しながら跡に続く。

 そんなことをしていたら、地下3階に入ったところでフィリップは話題を変えた。

「ボエル……気付いてる?」
「ああ。つけられてるな」

 追跡者がいたからだ。どちらも地下1階から気付いていたらしく、確信を持ったのが地下3階に下りる間際だったから「うっそだ~」と、2人とも相手のことを疑ってた。

「それは置いておいて、狙いは僕だよね~」
「だろうな。目的が何かはわからねぇが」
「生徒の中に大人が2人まざっていたけど、ボエルならどうにかできる?」
「レベルによるけど……もしもの場合は死ぬ気で対応すればなんとかってところか……」
「リネーア嬢たちがいるんだよ? 人質に取られたらどうすんの」
「チッ……だな。帰還アイテムを使うのが妥当だ」

 ボエルは大人2人男子生徒3人の不審者パーティと戦闘したそうだったけど、フィリップに止められて舌打ち。でも諦めてくれた。

「ただ、何もされないのも面白くないよね~?」
「何もされないのが一番いいとは思うけど……」
「ボエルだってやりたいんでしょ~?」
「ちょっとはな。でも、殿下たちの安全が第一だ」
「そんなボエルに、こ~んなお得な策を用意しました~」

 せっかくボエルが折れてくれたのに、危険に飛び込もうとするフィリップ。しかし、その策はボエルにはあまり危険には感じなかった。

「先にオレたちが戻って、帰還アイテムで追いかけて来たところを押さえるのか……」
「そそ。僕は4階まで逃げてから帰還するから、人を集めておいてよ」
「殿下なら上手く逃げ切れると思うけど、1人で行動させるのもな~……」
「無理はしないって。それに、僕を追っているという証拠も欲しいし。誰の差し金なんだろうね~?」
「うわっ……その顔やめろ。そんなに人をハメて楽しいのか??」

 フィリップが悪い顔で笑うものだから、ボエルは怖いというより相手がかわいそうな感じ。この顔をしたあとはろくなことが起こらないのは承知しているので、ボエルは普通に地上に戻りたくなるのであった……


 リネーアパーティの試験は中止。ボエルが理由を説明して、フィリップが悪い顔で捕捉するからちょっと心配。絶対なにかしでかすと思ってる。
 そのおかげでリネーアたちは巻き込まれたくないと、帰還はすんなり受け入れてくれた。

 あとは作戦通り全員が行き止まりの道に入り、しばらくしたらフィリップがコソコソ戻って来て、別方向にタタタッと走って行った。

「第二皇子が1人で行動だと?」

 その様子を見ていた不審者パーティは、明らかにおかしな行動なので罠があるのではないかと疑っている。だが、ダンジョンに入るために連れて来た男子生徒、テュコ・ゴスリヒはそこまで考えていないと主張する。

「あのバカ、たまに1人で歩いているんです。あの執事が捜し回っている姿も何度も見ました。たぶん今回も、執事を困らせて遊んでいるんですよ」
「そこまでバカなのか??」
「はい。正真正銘のバカです」

 テュコが自信たっぷりにフィリップを説明すると、不審者パーティのリーダーのエドガー・ボーメは「ありえるかも?」と早くに納得。すぐにフィリップが走って行った方向に駆け出した。
 そしてフィリップを見付けたら、5体のモンスターとにらめっこしてる最中。よく見ると、フィリップは震えているように見える。

「これ、ひょっとして俺たち、手を汚さなくていいんじゃないか?」
「ですね。あそこまでバカとは……」

 単身ほぼ丸腰の馬鹿皇子が絶体絶命のピンチなら、助ける筋合いはない。なんならラッキーでしかない。見守るだけでいい。後ろからボエルたちが追って来ないか見張っているだけでいいのだ。

「ぎゃああぁぁ~!!」

 そんな中、フィリップは叫びながら逃走した。

「バッ……あのバカ! どっち逃げてんだ!?」
「錯乱してるな……」

 それは、モンスターに突撃する方向。そのありえない行動に不審者パーティも心配しちゃったよ。

「ま、まぁ……自分から死んでくれるからいいんじゃないですか?」
「確かにそうだな……はい?」

 そこで、フィリップはヘッドスライディング。モンスターの集団をすり抜けて逃げてった。

「マズイ! 見失うぞ!!」
「追うぞ!!」
「「「はいっ!!」」」

 くして、フィリップと不審者パーティの鬼ごっこが始まるのであった……
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