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十二章 最終学年になっても夜遊び
273 パーティ入り
しおりを挟む「なんで警護対象を忘れるかな~?」
「すんません……」
ダンジョン1階。帰還アイテムを使って地上に戻ったフィリップは、4回もモンスターに囲まれて助けが遅れたから珍しくボエルを説教しながら外に出た。
「殿下。遅かったですね。お怪我はありませんか?」
ダンジョンの入口では、リネーアが心配して待っていてくれたようだ。
「大丈夫大丈夫。てか、ボエルがぜんぜん守ってくれないんだよ? 酷くな~い??」
「確かに酷いですね。それにしても一度も会いませんでしたけど、どこにいたのですか??」
「地下4階。そこでレベル上げしたいとか言うの。このクマさん」
「初日でそこまで進んだのですか!?」
フィリップがモンスターを上手く惹き付けてくれるから、ボエルも調子に乗って進みすぎた。ただ、ダンジョン実習初日に出す成績ではなかったので、リネーアもビックリだ。
「リネーア嬢はどこまで行ったの?」
「地下2階です。お友達と協力したのですけど、最後尾だったのであまり進めませんでした」
「へ~。友達できてたんだ。よかったね~」
「何度か言ったと思うのですが……」
フィリップは嬉しくて褒めたけど、リネーアは微妙な顔。そりゃ何度も言ったのに聞いてないんじゃ、褒められた気にならないってものだ。
「殿下には友達が1人もいないから、聞きたくなかったんじゃないか?」
「ボエルさん? 反省が足りないんじゃないですか? 父上に今日のことチクリますよ??」
「ゴ、ゴメン……」
そんな中、ボエルが核心を突いたことを言うので、フィリップはマジギレして敬語になるのであったとさ。
それからフィリップは寮に戻ろうとしたら、全員に「どこに行くんだ?」と止められた。まだ授業中らしい。
仕方がないからリネーアたちにフィリップはついて行くと、校舎の玄関を入った所でドロップアイテム等の買い取りをしていた。回復アイテムや使えるアイテム以外は売り払って、生徒たちは小遣いにするそうだ。
リネーアが地下4階に行ったことを驚いていたので、売買はボエルにこっそりとやらせる。思った通り、教師陣はめちゃくちゃ驚いていたとのこと。
でも、単独で地下5階まで行ったボエルのことを覚えている教師がいたから、そこまで不思議に思われなかったそうだ。「伝説のクマ女」とか言われていたけど、これはフィリップに報告してない。
ちなみにドロップアイテムを売り払ったお金と、モンスターが落としたお金は全てボエルに「ボーナス~」と押し付けようとしたけど、貰えないと言われて失敗。
フィリップに取っては端金だから「銅貨とか邪魔なんだよね~」と言っても引かれただけ。その顔が怒っているように見えたから、折半せざるを得なかったらしい。
第二回ダンジョ実習は、1日開けて再開。フィリップはやる気がないので、今日はダンジョンにも入らず木陰で休んでる。
「なあ? 行かないのか??」
「行きたいなら1人で行って来なよ」
「護衛は学生と一緒じゃないと入れないんだよ~」
「じゃあ、リネーア嬢と行って来な。てか、あそこ前衛が足りなさそうだから、教えてあげたら?」
リネーアパーティは、騎士爵の男子ナータン・グラーツと男爵家の女子デシレア・ヘルバリ。そこにリネーアを加えた3人パーティ。フィリップがダンジョンに入ろうとしなかったから、先ほど挨拶に来たのだ。
その時フィリップは「どの子狙い~?」と、ナータンをからかってた。
「行きたいけど殿下から離れられねぇし……」
「僕なら大丈夫。部屋に帰ってるよ」
「おお~い。ここまで来てサボるなよ~」
サボる宣言したものだから、フィリップはボエルに首根っ子を掴まれてリネーアパーティ入り。リネーアパーティはフィリップがいるせいでやりにくそうだ。まったく戦闘に参加しないもん。
「殿下は戦わないのですか?」
「僕? 僕は指揮官」
「指揮もしてないのですが……」
「ボエルがいるから大丈夫っしょ」
休憩の時には、リネーアが代表してフィリップに苦言しているけど、ああ言えばこう言うだ。
「てか、リネーア嬢の水魔法、あまり役に立ってないね」
「はい……まだレベルが低いので……」
「水の玉じゃダメージが低いんだよ。他にはないの?」
「アクアランスという魔法はありますけど、魔力消費が多いのでここぞという所に取っているのです」
「ふ~ん……じゃあ、こうしてみたら??」
フィリップは暇潰しに、乙女ゲーム外の魔法を伝授。リネーアにはウォーターボールを作らせると、小さな穴をイメージさせてそこから一気に放出させたらゴブリンを貫通した。
「な、なんですかこの魔法……」
「さあ? 名付けるなら、ウォータービームかな~??」
「凄いです! これで私も役に立てます!!」
「そっちの男爵家の子も、こんな感じで風魔法使ってみなよ」
「は、はい!」
暇すぎて他にも助言。デシレアにはエアカッターを圧縮させ、その風を一方向に破裂させて近距離まで近付いたモンスターを押し返す。
「うん。いいんじゃない? これで攻守のバランスがよくなったね」
「「はい!」」
これでリネーアパーティは、前衛の騎士ナータン、後衛プラス盾役のデシレア、後衛アタッカーのリネーアとなったので、戦いやすくなった。
「あの、ボクには何かありませんか?」
「どんな魔法使えるの?」
「肉体強化だけです」
「クマさんに習え。そのほうが強くなる」
「クマさん厳しいんですよ~」
「誰がクマさんだ!!」
急に後衛がよくなったのでナータンもフィリップの助言を受けたかったけど、ボエルに任せるしかないのであった。クマさんで通じるなんてと、フィリップは笑ってるけど……
ダンジョン実習が始まって初めての週末。毎回付き合わされていたフィリップはベッドの上でダラケ切っていたら、ボエルが皇帝からの手紙を持って来た。
「あらら~……こりゃ大変だ。ボエルも読みなよ」
「それ、オレが知っていい内容か? またハメようとしてないか??」
フィリップに機密事項を漏らされたことのあるボエルは、超慎重になってる。
「ボエルにも教えるように書いてるから大丈夫だよ。お兄様が襲われたから、気を付けるようにだって」
「なんだと!?」
内容を少し聞いて、ボエルは手紙を奪い取る。さっきまでのフィリップの言い方では、危機感をまったく持てなかったっぽい。
「フレドリク殿下は……大丈夫そうだな」
「当たり前でしょ。ダンジョン攻略者のお兄様を襲うなんて、よっぽどのバカだよ。本気で殺せると思ったのかね~?」
「確かにそうだな。でも、狙われているのがフレドリク殿下なら、なんで殿下が注意するんだ?」
「それも書いてるよ」
「なになに……」
ボエルはフレドリクが襲われたことがショックで途中で止まっていたが、続きを読むともっと焦り出した。
「はあ!? 暗殺者が殿下の指示でやったと言っただと!?」
「最後まで読んでから驚こっか?」
「陛下は……フレドリク殿下は……セーフ!!」
まさか皇帝とフレドリクがフィリップを疑っているのかと心配したボエルだが、2人が心配している旨が書いていたのでホッとする。
「ちなみに殿下は、暗殺者なんか送ってないよな?」
「僕のこと疑うんだ……」
「ちがっ……殿下にはそんなツテも友達もいないのも知ってるけど、念の為の確認だ!」
「ひょっとしてトドメ刺そうとしてる? 友達いなくて悪かったね!!」
「ゴ、ゴメン。オレが悪かった。な? 機嫌直してくれよ。マッサージやるか??」
ボッチ仲間のロンリークマさんに何度もボッチとバカにされたフィリップは、スネてしばらく口を利かないのであった。
マッサージは受けてたけど……
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