上 下
273 / 330
十二章 最終学年になっても夜遊び

273 パーティ入り

しおりを挟む

「なんで警護対象を忘れるかな~?」
「すんません……」

 ダンジョン1階。帰還アイテムを使って地上に戻ったフィリップは、4回もモンスターに囲まれて助けが遅れたから珍しくボエルを説教しながら外に出た。

「殿下。遅かったですね。お怪我はありませんか?」

 ダンジョンの入口では、リネーアが心配して待っていてくれたようだ。

「大丈夫大丈夫。てか、ボエルがぜんぜん守ってくれないんだよ? 酷くな~い??」
「確かに酷いですね。それにしても一度も会いませんでしたけど、どこにいたのですか??」
「地下4階。そこでレベル上げしたいとか言うの。このクマさん」
「初日でそこまで進んだのですか!?」

 フィリップがモンスターを上手く惹き付けてくれるから、ボエルも調子に乗って進みすぎた。ただ、ダンジョン実習初日に出す成績ではなかったので、リネーアもビックリだ。

「リネーア嬢はどこまで行ったの?」
「地下2階です。お友達と協力したのですけど、最後尾だったのであまり進めませんでした」
「へ~。友達できてたんだ。よかったね~」
「何度か言ったと思うのですが……」

 フィリップは嬉しくて褒めたけど、リネーアは微妙な顔。そりゃ何度も言ったのに聞いてないんじゃ、褒められた気にならないってものだ。

「殿下には友達が1人もいないから、聞きたくなかったんじゃないか?」
「ボエルさん? 反省が足りないんじゃないですか? 父上に今日のことチクリますよ??」
「ゴ、ゴメン……」

 そんな中、ボエルが核心を突いたことを言うので、フィリップはマジギレして敬語になるのであったとさ。


 それからフィリップは寮に戻ろうとしたら、全員に「どこに行くんだ?」と止められた。まだ授業中らしい。
 仕方がないからリネーアたちにフィリップはついて行くと、校舎の玄関を入った所でドロップアイテム等の買い取りをしていた。回復アイテムや使えるアイテム以外は売り払って、生徒たちは小遣いにするそうだ。

 リネーアが地下4階に行ったことを驚いていたので、売買はボエルにこっそりとやらせる。思った通り、教師陣はめちゃくちゃ驚いていたとのこと。
 でも、単独で地下5階まで行ったボエルのことを覚えている教師がいたから、そこまで不思議に思われなかったそうだ。「伝説のクマ女」とか言われていたけど、これはフィリップに報告してない。

 ちなみにドロップアイテムを売り払ったお金と、モンスターが落としたお金は全てボエルに「ボーナス~」と押し付けようとしたけど、貰えないと言われて失敗。
 フィリップに取っては端金はしたがねだから「銅貨とか邪魔なんだよね~」と言っても引かれただけ。その顔が怒っているように見えたから、折半せざるを得なかったらしい。

 第二回ダンジョ実習は、1日開けて再開。フィリップはやる気がないので、今日はダンジョンにも入らず木陰で休んでる。

「なあ? 行かないのか??」
「行きたいなら1人で行って来なよ」
「護衛は学生と一緒じゃないと入れないんだよ~」
「じゃあ、リネーア嬢と行って来な。てか、あそこ前衛が足りなさそうだから、教えてあげたら?」

 リネーアパーティは、騎士爵の男子ナータン・グラーツと男爵家の女子デシレア・ヘルバリ。そこにリネーアを加えた3人パーティ。フィリップがダンジョンに入ろうとしなかったから、先ほど挨拶に来たのだ。
 その時フィリップは「どの子狙い~?」と、ナータンをからかってた。

「行きたいけど殿下から離れられねぇし……」
「僕なら大丈夫。部屋に帰ってるよ」
「おお~い。ここまで来てサボるなよ~」

 サボる宣言したものだから、フィリップはボエルに首根っ子を掴まれてリネーアパーティ入り。リネーアパーティはフィリップがいるせいでやりにくそうだ。まったく戦闘に参加しないもん。

「殿下は戦わないのですか?」
「僕? 僕は指揮官」
「指揮もしてないのですが……」
「ボエルがいるから大丈夫っしょ」

 休憩の時には、リネーアが代表してフィリップに苦言しているけど、ああ言えばこう言うだ。

「てか、リネーア嬢の水魔法、あまり役に立ってないね」
「はい……まだレベルが低いので……」
「水の玉じゃダメージが低いんだよ。他にはないの?」
「アクアランスという魔法はありますけど、魔力消費が多いのでここぞという所に取っているのです」
「ふ~ん……じゃあ、こうしてみたら??」

 フィリップは暇潰しに、乙女ゲーム外の魔法を伝授。リネーアにはウォーターボールを作らせると、小さな穴をイメージさせてそこから一気に放出させたらゴブリンを貫通した。

「な、なんですかこの魔法……」
「さあ? 名付けるなら、ウォータービームかな~??」
「凄いです! これで私も役に立てます!!」
「そっちの男爵家の子も、こんな感じで風魔法使ってみなよ」
「は、はい!」

 暇すぎて他にも助言。デシレアにはエアカッターを圧縮させ、その風を一方向に破裂させて近距離まで近付いたモンスターを押し返す。

「うん。いいんじゃない? これで攻守のバランスがよくなったね」
「「はい!」」

 これでリネーアパーティは、前衛の騎士ナータン、後衛プラス盾役のデシレア、後衛アタッカーのリネーアとなったので、戦いやすくなった。

「あの、ボクには何かありませんか?」
「どんな魔法使えるの?」
「肉体強化だけです」
「クマさんに習え。そのほうが強くなる」
「クマさん厳しいんですよ~」
「誰がクマさんだ!!」

 急に後衛がよくなったのでナータンもフィリップの助言を受けたかったけど、ボエルに任せるしかないのであった。クマさんで通じるなんてと、フィリップは笑ってるけど……


 ダンジョン実習が始まって初めての週末。毎回付き合わされていたフィリップはベッドの上でダラケ切っていたら、ボエルが皇帝からの手紙を持って来た。

「あらら~……こりゃ大変だ。ボエルも読みなよ」
「それ、オレが知っていい内容か? またハメようとしてないか??」

 フィリップに機密事項を漏らされたことのあるボエルは、超慎重になってる。

「ボエルにも教えるように書いてるから大丈夫だよ。お兄様が襲われたから、気を付けるようにだって」
「なんだと!?」

 内容を少し聞いて、ボエルは手紙を奪い取る。さっきまでのフィリップの言い方では、危機感をまったく持てなかったっぽい。

「フレドリク殿下は……大丈夫そうだな」
「当たり前でしょ。ダンジョン攻略者のお兄様を襲うなんて、よっぽどのバカだよ。本気で殺せると思ったのかね~?」
「確かにそうだな。でも、狙われているのがフレドリク殿下なら、なんで殿下が注意するんだ?」
「それも書いてるよ」
「なになに……」
 
 ボエルはフレドリクが襲われたことがショックで途中で止まっていたが、続きを読むともっと焦り出した。

「はあ!? 暗殺者が殿下の指示でやったと言っただと!?」
「最後まで読んでから驚こっか?」
「陛下は……フレドリク殿下は……セーフ!!」

 まさか皇帝とフレドリクがフィリップを疑っているのかと心配したボエルだが、2人が心配している旨が書いていたのでホッとする。

「ちなみに殿下は、暗殺者なんか送ってないよな?」
「僕のこと疑うんだ……」
「ちがっ……殿下にはそんなツテも友達もいないのも知ってるけど、念の為の確認だ!」
「ひょっとしてトドメ刺そうとしてる? 友達いなくて悪かったね!!」
「ゴ、ゴメン。オレが悪かった。な? 機嫌直してくれよ。マッサージやるか??」

 ボッチ仲間のロンリークマさんに何度もボッチとバカにされたフィリップは、スネてしばらく口を利かないのであった。

 マッサージは受けてたけど……
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

猫王様の千年股旅

ma-no
ファンタジー
 神様のミスで森に住む白猫に転生させられた老人。  紆余曲折の末、猫の国の王となったけど、そこからが長い。  魔法チートで戦ったり技術チートしたり世界中を旅したりしても、まだまだ時間は有り余っている。  千年の寿命を与えられた猫は、幾千の出会いと別れを繰り返すのであった…… ☆注☆ この話は「アイムキャット!!? 異世界キャット漫遊記」の続編です。 できるだけ前情報なしで書いていますので、新しい読者様に出会えると幸いです。 初っ端からネタバレが含まれていますので、気になる人は元の話から読んでもらえたら有り難いですけど、超長いので覚悟が必要かも…… 「アルファポリス」「小説家になろう」「カクヨミ」で同時掲載中です。 R指定は念の為です。  毎週日曜、夕方ぐらいに更新しております。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

死んだら男女比1:99の異世界に来ていた。SSスキル持ちの僕を冒険者や王女、騎士が奪い合おうとして困っているんですけど!?

わんた
ファンタジー
DVの父から母を守って死ぬと、異世界の住民であるイオディプスの体に乗り移って目覚めた。 ここは、男女比率が1対99に偏っている世界だ。 しかもスキルという特殊能力も存在し、イオディプスは最高ランクSSのスキルブースターをもっている。 他人が持っているスキルの効果を上昇させる効果があり、ブースト対象との仲が良ければ上昇率は高まるうえに、スキルが別物に進化することもある。 本来であれば上位貴族の夫(種馬)として過ごせるほどの能力を持っているのだが、当の本人は自らの価値に気づいていない。 贅沢な暮らしなんてどうでもよく、近くにいる女性を幸せにしたいと願っているのだ。 そんな隙だらけの男を、知り合った女性は見逃さない。 家で監禁しようとする危険な女性や子作りにしか興味のない女性などと、表面上は穏やかな生活をしつつ、一緒に冒険者として活躍する日々が始まった。

【完結】悪役令嬢と手を組みます! by引きこもり皇子

ma-no
ファンタジー
【クライマックス突入!】  ここは乙女ゲームが現実となった世界。悪役令嬢からの数々の嫌がらせを撥ね除けたヒロインは第一皇子と結ばれてハッピーエンドを迎えたのだが、物語はここで終わらない。  数年後、皇帝となった第一皇子とヒロインが善政改革をしまくるものだから、帝国はぐちゃぐちゃに。それを止めようと「やる気なし皇子」や「引きこもり皇子」と名高い第二皇子は悪役令嬢と手を組む。  この頼りなさそうな第二皇子には何やら秘密があるらしいが……  はてさて、2人の運命は如何に…… ☆アルファポリス、小説家になろう、カクヨムで連載中です。  1日おきに1話更新中です。

虹色の子~大魔境で見つけた少年~

an
ファンタジー
ここではない、どこかの世界の話。 この世界は、《砡》と呼ばれる、四つの美しい宝石の力で支えられている。人々はその砡の恩恵をその身に宿して産まれてくる。たとえば、すり傷を癒す力であったり、水を凍らせたり、釜戸に火をつけたり。生活に役立つ程度の恩恵が殆どであるが、中には、恩恵が強すぎて異端となる者も少なからずいた。 世界は、砡の恩恵を強く受けた人間を保護し、力を制御する訓練をする機関を立ち上げた。 機関は、世界中を飛び回り、砡の力を扱いきれず、暴走してしまう人々を保護し、制御訓練を施すことを仕事としている。そんな彼らに、情報が入る。 大魔境に、聖砡の反応あり。 聖砡。 恩恵以上に、脅威となるであろうその力。それはすなわち、世界を支える力の根元が「もう1つある」こと。見つければ、世紀の大発見だ。機関は情報を秘密裏に手に入れるべく、大魔境に職員を向かわせた。

アイムキャット❕❕~猫王様の異世界観光にゃ~

ma-no
ファンタジー
 尻尾は三本、体は丸みを帯びた二足方向の白猫。実はこの中身は地球で百歳まで生きたジジイ。  神様のミスで森に住む猫に異世界転生したジジイは、人里に下りたらあれよあれよと猫の国の王様に成り上がり。国を発展させたり旅をしたりして世界を満喫していた白猫は、またまた違う世界に飛ばされちゃった。  その世界は勇者と魔王が戦う世界。最強の猫王様の取った行動とは…… ☆注☆  このお話は「アイムキャット!!?」という作品の特別編ですが、前情報無しでも楽しめるように書いてあります。話自体も小説一冊分程度でまとめる予定ですので、是非とも暇潰しに読んでください。  そして行く行くは、本家のほうへ……(願望)  毎日一話、最終回までノンストップで更新する予定ですので、宜しくお願いします! 「小説家になろう」「カクヨム」で同時連載しております。

破滅する悪役五人兄弟の末っ子に転生した俺、無能と見下されるがゲームの知識で最強となり、悪役一家と幸せエンディングを目指します。

大田明
ファンタジー
『サークラルファンタズム』というゲームの、ダンカン・エルグレイヴというキャラクターに転生した主人公。 ダンカンは悪役で性格が悪く、さらに無能という人気が無いキャラクター。 主人公はそんなダンカンに転生するも、家族愛に溢れる兄弟たちのことが大好きであった。 マグヌス、アングス、ニール、イナ。破滅する運命にある兄弟たち。 しかし主人公はゲームの知識があるため、そんな彼らを救うことができると確信していた。 主人公は兄弟たちにゲーム中に辿り着けなかった最高の幸せを与えるため、奮闘することを決意する。 これは無能と呼ばれた悪役が最強となり、兄弟を幸せに導く物語だ。

処理中です...