259 / 329
十一章 昼が忙しくても夜遊び
259 変な空気
しおりを挟むフレドリクが婚約を発表した年末の式典は万歳で締めたら、貴族たちは一糸乱れぬ行進で退場。
皇帝はしばらくしたらどこかに行き、フレドリクとルイーゼはイチャイチャしてるので、フィリップは堂々とふて寝。未来のことを考えたらやってられなくなったらしい。
それから時間を置き、貴族のオッサンだらけのつまらないパーティーにフィリップも参加。フレドリクとルイーゼの挨拶回りを皇帝の間近で見ている。貴族たちが怪しい目でフィリップを見るから、皇帝の傍を離れられないのだ。
なんとかかんとかこのつまらないパーティーを一言も発さず乗り切ったフィリップは、自室に戻ったらベッドに飛び込んだ。
「お疲れ……プププ。めっちゃ疲れてんな」
「笑わないでよ~。あんなにつまらないパーティーなら、誰だって疲れるって~」
「それが仕事だろ。なに甘えたこと言ってん、だ……去年も同じやり取りしたよな?」
「覚えてな~い」
ボエル、その光景にテジャブュ。フィリップは一切記憶にないみたい。
「そういえば、フレドリク殿下の婚約発表があったんだろ? みんな驚いていたんじゃないか??」
「驚いたどころじゃないよ。無音、時が止まった。なんであの場で発表したんだか……」
「そんなことになっていたとは……あれ? 殿下は何も聞いてなかったのか??」
「そうなの~。父上には言ってたのに、お兄様、僕のこと忘れてたんだよ? 酷くな~い??」
「まぁ……殿下はオレに同じことしまくるけど……」
「謝るから愚痴に付き合ってよ~~~」
大事なことを言わないのはフィリップのほうが遙かに多いので、忘れていた問題はボエルにいまいち響かないのであったとさ。
翌日からは、皇族は各派閥のパーティーに出席。フレドリクはルイーゼと同じ馬車、フィリップは違う馬車で皇帝の膝の上だから些か納得がいかない。
もうひとつ納得できないことがある。一番手に行く派閥は皇帝が一番重要視していると発表するようなモノだけど、フィリップの記憶では去年と道が違うのだ。
「ねえ? 辺境伯の屋敷に行くんじゃなかったの??」
さすがのフィリップも、自分の結婚に関わることだから心配になって皇帝に質問している。
「今年は自粛するそうだ。ただ、これから行く屋敷は、辺境伯派閥のナンバー2だから、それで周りもわかってくれるはずだ」
「ふ~ん……あんなこともあったから、自粛は仕方ないんだ。辺境伯は来てるの? 会ったんだよね??」
「ああ。会うには会った」
「僕の結婚話は……」
「していない」
どうやら皇帝はホーコン・ダンマーク辺境伯を城に呼び出し、立場があるから君主としては謝ることはできないので、1人の父親として謝罪したらしい。
それはホーコンも受け入れてくれたから続きを喋ろうとしたら、エステルの現状を告げられた。いまだに立ち直っていないで、泣いて暮らしているそうだ。
その顔が悲しみに暮れていたから、フィリップの結婚話なんてできない。ただ、これからフレドリクが婚約発表があるのだから、知らせずに帰すワケにはいかない。
皇帝は悩んだ末、フレドリクの話だけをして、涙するホーコンを宥めることしかできなかったみたいだ。
「そりゃそんな時にできないよね……もしかして、来年も??」
「エステルの気分しだいだろう。まぁ可能性は高いな」
「そんな~~~」
フィリップは来年卒業。それと同時に大好きなキャラと結婚する未来を描いていたのでがっくしだ。しかしその項垂れようは、皇帝は不思議でならない。
「フィリップはエステルのことを好いていたのか?」
そう。そんなに接点がないのに、こんなに項垂れる理由が見付からないのだ。
「えっと……初恋の人みたいな?」
「フッ。兄の婚約者をか……てっきりエイラだと思っていたぞ。3番目はダグマーか?」
「もう! からかわないでよ~~~」
珍しくフィリップはグロッキー状態。皇帝には初めての人どころかダグマーとのこともバレていたので勝てるワケがない。このこともあって、いつもからかっているボエルに優しくしようと誓ったフィリップであったとさ。
すぐ忘れるだろうけど……
ダンマーク辺境伯派閥のパーティー会場に到着した皇族一同は、派閥の者と挨拶。フィリップはその様子を皇帝の後ろに隠れて見ている。
特に目を持って行ってるのは、ホーコン、フレドリク、ルイーゼの3人。ホーコンは婚約破棄された父親だから、皇帝に一声かけたら引っ込み、フレドリクには挨拶無し。壁を背にしてずっとフレドリクを睨んでいる。
フレドリクはその目に気付いているのかよくわからない。挨拶に来る者にルイーゼを紹介してからは、ほとんどルイーゼの顔を見て喋っているからだ。
そんなことをしているからか、挨拶を終えた者はすぐにホーコンの下へ行き、同じように睨んでいるように見える。フィリップは読唇術はできないが、予想では「ルイーゼは皇后の器ではない。皇太子はたぶらかされている」だ。
ただ、ホーコンも国に仕える身だからか、その言葉には乗っからずに嗜めているようにも見える。
フィリップ的には姑になるホーコンにちょっとはいいところを見せようと思っていたけど、パーティー会場はずっと変な空気が流れていたから、諦めるしかなかった。
去年はフレドリクと婚約者のダンスでパーティーを締めていたのだが、ルイーゼのダンスは進展していないのかそれはなし。ダンマーク辺境伯派閥のパーティーは時間が来たら皇族は退場する。
ちなみにフィリップがイーダのことを思い出したのは帰り際。顔を見なかったから「いたら挨拶来てるか」と、欠席と決め付けていた。相変わらず最低なヤツだ。
他の派閥のパーティーにもハシゴしたが、婚約のせいでやはり変な空気。フィリップは居たたまれない気持ちで城に帰ったのであった。
「うぅ……胃が痛い……」
「胃? 腹か? 熱しか出ない殿下が珍しいな……なんか悪い物でも食ったのか??」
「ストレス!」
「殿下にストレス……はっは~ん。陛下に怒られたんだな~? 何やらかしたんだ??」
「僕だって悩みぐらいあるんだよ??」
ボエルが皇帝に怒られたと決め付けるし、悩みなんてあるわけがないと笑うので、これまた珍しくヘコむフィリップであったとさ。
11
お気に入りに追加
166
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
死んだら男女比1:99の異世界に来ていた。SSスキル持ちの僕を冒険者や王女、騎士が奪い合おうとして困っているんですけど!?
わんた
ファンタジー
DVの父から母を守って死ぬと、異世界の住民であるイオディプスの体に乗り移って目覚めた。
ここは、男女比率が1対99に偏っている世界だ。
しかもスキルという特殊能力も存在し、イオディプスは最高ランクSSのスキルブースターをもっている。
他人が持っているスキルの効果を上昇させる効果があり、ブースト対象との仲が良ければ上昇率は高まるうえに、スキルが別物に進化することもある。
本来であれば上位貴族の夫(種馬)として過ごせるほどの能力を持っているのだが、当の本人は自らの価値に気づいていない。
贅沢な暮らしなんてどうでもよく、近くにいる女性を幸せにしたいと願っているのだ。
そんな隙だらけの男を、知り合った女性は見逃さない。
家で監禁しようとする危険な女性や子作りにしか興味のない女性などと、表面上は穏やかな生活をしつつ、一緒に冒険者として活躍する日々が始まった。
欠損奴隷を治して高値で売りつけよう!破滅フラグしかない悪役奴隷商人は、死にたくないので回復魔法を修行します
月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
主人公が転生したのは、ゲームに出てくる噛ませ犬の悪役奴隷商人だった!このままだと破滅フラグしかないから、奴隷に反乱されて八つ裂きにされてしまう!
そうだ!子供の今から回復魔法を練習して極めておけば、自分がやられたとき自分で治せるのでは?しかも奴隷にも媚びを売れるから一石二鳥だね!
なんか自分が助かるために奴隷治してるだけで感謝されるんだけどなんで!?
欠損奴隷を安く買って高値で売りつけてたらむしろ感謝されるんだけどどういうことなんだろうか!?
え!?主人公は光の勇者!?あ、俺が先に治癒魔法で回復しておきました!いや、スマン。
※この作品は現実の奴隷制を肯定する意図はありません
なろう日間週間月間1位
カクヨムブクマ14000
カクヨム週間3位
他サイトにも掲載
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
惣菜パン無双 〜固いパンしかない異世界で美味しいパンを作りたい〜
甲殻類パエリア
ファンタジー
どこにでもいる普通のサラリーマンだった深海玲司は仕事帰りに雷に打たれて命を落とし、異世界に転生してしまう。
秀でた能力もなく前世と同じ平凡な男、「レイ」としてのんびり生きるつもりが、彼には一つだけ我慢ならないことがあった。
——パンである。
異世界のパンは固くて味気のない、スープに浸さなければ食べられないものばかりで、それを主食として食べなければならない生活にうんざりしていた。
というのも、レイの前世は平凡ながら無類のパン好きだったのである。パン好きと言っても高級なパンを買って食べるわけではなく、さまざまな「菓子パン」や「惣菜パン」を自ら作り上げ、一人ひっそりとそれを食べることが至上の喜びだったのである。
そんな前世を持つレイが固くて味気ないパンしかない世界に耐えられるはずもなく、美味しいパンを求めて生まれ育った村から旅立つことに——。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる