258 / 374
十一章 昼が忙しくても夜遊び
258 二度目の式典
しおりを挟む近衛騎士のスカウトはまだ時間があるので一旦保留。寮に帰った翌日、フィリップの命令でボエルは新しいメイド服に身を包み、校舎へ向かう。
「その服……お城でも見ましたけど、下はスカートだったような……」
一緒に登校しているリネーアは、ボエルの服が気になるようだ。
「城のメイド服は新しくなったんだ。スカートとズボンが支給されて、自由に選べるようになってるんだよ」
「そういうことだったのですね。素敵なデザインだと思っていたのです」
「だろ? これ、殿下が作ったんだぞ」
「殿下がこれを??」
2人の話を眠気眼で聞いていたフィリップは不機嫌そうにボエルを見た。
「ボエル……父上が作ったの。もう二度と、そんなこと言うな」
「あ……申し訳ありません。失言でした」
ボエルがしゅんとして謝罪すると、リネーアは空気を読む。
「なるほどです。皇帝陛下が、ボエルさんのような人でも着たいと思えるような服を作ってくださったのですね。さすがは皇帝陛下ですね」
「まぁ……父上が苦労して作ったんだから、貴族もマネしてくれるといいかな? あ、別にズボンは必ずってワケじゃないけどね。冬はあったほうがいいとも思うけど」
「うちはマネしたいと思います。マーヤは皇帝陛下の作った服、どう思いますか?」
「冬にズボンがあると助かります。それにポケットも多いのですね。メイドとして働く者にも配慮してくれるなんて、さすがは皇帝陛下です」
「ですよね? きっと流行りますよ!」
リネーアが皇帝陛下と強調して言ったので、マーヤもそれに乗っかる。ただ、2人の尊敬の目はフィリップに向けられてだ。
「だよね~? ボエルはやっぱり騎士になったほうがいいんじゃない??」
「謝ってるだろ~。嬉しかったからちょっと口が滑ったんだよ~」
「そんなに気に入ってたんだ。明日はスカート穿いてね~。アハハハハ」
フィリップが笑えば、失言の話は終了。リネーアたちも釣られて笑い、笑顔で校舎に入って行く一同であった。
それから1週間、ボエルには新しいメイド服のズボンとスカートを交互に穿かせて登校。いちおう生徒やメイドの反応を見るためって建て前だったので、ボエルも渋々従っている。
「概ね好評ってところかな?」
「ああ。特にメイドからの問い合わせが多い。やっぱり冬場はズボンを穿きたいみたいだな」
「てことは、またモテモテ??」
「はい……彼女に嫉妬されました……」
「浮気? 浮気しちゃう? 浮気相手なら、僕も参加させてよ~」
「するか! 真面目な話してたんじゃねぇのかよ!?」
「真面目に浮気相手とのこと聞いてるんだけど?」
「そういうヤツだったな!?」
この会話は最初から言ってるように建て前。ボエルがニヤニヤしていたから、浮気していたほうが面白いとフィリップは思っていたのだ。
残念ながらボエルはいまのところ彼女一筋だったので、フィリップは「バレないって~」っと悪の道に引きずり込もうとするのであった。
ちなみに新メイド服の感想は、まとめた物を皇帝宛に送っていたよ。フィリップもたまには点数稼ぎしておいたほうがいいと思ったみたいだ……
そこからは面白い授業がなかったので、フィリップは夜遊びするために仮病。テスト期間とボエルたちとマッサージする時、街に遊びに行く時ぐらいしか体調はよろしくない。
フィリップが寝ているのだから、ボエルも暇なのか剣の訓練。将来どうなるかまだ決め兼ねているから訓練しているのだろうけど、たまに彼女のカロラにその姿を見せてデレデレしてる。
「ボエルかっこいいでしょ~?」
「はあ……」
「なんでいるんだよ!?」
フィリップも今日はカロラと一緒に見てる。ボエルがニヤニヤして出て行くのが気になって、隠れてついて行ったみたいだ。
そんなことをしていたら、あっという間に冬休みに突入。年末年始の皇族のお仕事はどうした物かとフィリップは悩み、やはりフレドリクたちが気になるので出席することにした。
「兄貴もデレデレだな……聖女ちゃんがここにいるの、嫌な予感しかしないよ~」
今回はフレドリクがルイーゼとしか喋っていないので、フィリップは超ヒマ。それに皇族席にルイーゼが何故かいるから、やっぱり来るんじゃなかったと後悔している。
それでも出席してしまったのだから、フィリップはボーッと貴族の長い長い行進を上から見ていると、全員揃って皇帝たちからの有り難いお言葉や「たるんどる!」的な長い長い長いお話。
なんとか睡魔に負けずその話を聞き終えたら、フレドリクがルイーゼと腕を組んで下から見やすい位置にまで移動したので、フィリップは「やめてくれ~!」と心の中で悲鳴をあげた。
「皆も知っての通り、こちらの女性は聖女ルイーゼだ! この度、私とルイーゼは婚約した! 祝福してくれると幸いだ!!」
フレドリクの自分よがりな言葉に、貴族たちは驚き過ぎて時が止まる。しかしながら、次期皇帝が「祝福しろ」と言っているのだから呆けている場合ではない。
2秒の沈黙の後、力強いが乱れた拍手と祝福の声で応えた。
「皆の祝福、しかと受け取った。次回の式典の後、盛大な結婚式を執り行う! これで帝国の未来は安泰だ!!」
「皇太子殿下のご結婚と帝国の益々の発展にぃ~! バンザ~イ! バンザ~イ!!」
「「「「「バンザ~イ! バンザ~イ!」」」」」
こうしてフレドリクを祝福したかどうかわからない貴族たちの万歳が、いつまでも続くのであった……
「全然めでたくないし……こんなこと言ったらまた城の中が荒れるって~~~」
せっかくメイドたちが仲良くしているのにフレドリクたちのせいで壊されるのだから、フィリップの嘆きは止まらない。だが、その声は貴族たちの大声に掻き消されたのであった……
11
お気に入りに追加
174
あなたにおすすめの小説
猫王様の千年股旅
ma-no
ファンタジー
神様のミスで森に住む白猫に転生させられた老人。
紆余曲折の末、猫の国の王となったけど、そこからが長い。
魔法チートで戦ったり技術チートしたり世界中を旅したりしても、まだまだ時間は有り余っている。
千年の寿命を与えられた猫は、幾千の出会いと別れを繰り返すのであった……
☆注☆ この話は「アイムキャット!!? 異世界キャット漫遊記」の続編です。
できるだけ前情報なしで書いていますので、新しい読者様に出会えると幸いです。
初っ端からネタバレが含まれていますので、気になる人は元の話から読んでもらえたら有り難いですけど、超長いので覚悟が必要かも……
「アルファポリス」「小説家になろう」「カクヨミ」で同時掲載中です。
R指定は念の為です。
毎週日曜、夕方ぐらいに更新しております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
最後に言い残した事は
白羽鳥(扇つくも)
ファンタジー
どうして、こんな事になったんだろう……
断頭台の上で、元王妃リテラシーは呆然と己を罵倒する民衆を見下ろしていた。世界中から尊敬を集めていた宰相である父の暗殺。全てが狂い出したのはそこから……いや、もっと前だったかもしれない。
本日、リテラシーは公開処刑される。家族ぐるみで悪魔崇拝を行っていたという謂れなき罪のために王妃の位を剥奪され、邪悪な魔女として。
「最後に、言い残した事はあるか?」
かつての夫だった若き国王の言葉に、リテラシーは父から教えられていた『呪文』を発する。
※ファンタジーです。ややグロ表現注意。
※「小説家になろう」にも掲載。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う
ひなクラゲ
ファンタジー
ここは乙女ゲームの世界
悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…
主人公と王子の幸せそうな笑顔で…
でも転生者であるモブは思う
きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる