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十一章 昼が忙しくても夜遊び
255 誘惑
しおりを挟む野外訓練から帰ったフィリップは、ボエルとカロラが怪しいことをしてなかったので残念がってる。しかしカロラは第二皇子を目の前にしているので、緊張でいまにも死にそうだ。
「楽にして。あと、スカートめくって」
「はい! ……はい??」
「流れるように人の彼女にセクハラするなよ。そんなことやらなくていいからな?」
「えぇ~。やっと会えたんだから、ちょっとぐらい、いいじゃな~い」
「よくねぇ! ゲホゲホッ」
「あらら。大声出すから~」
ボエルが咳き込んでるのに、フィリップはニヤニヤしてるのでめっちゃ睨まれた。
「ゴメンゴメン。彼女も失礼なこと言ってゴメンね」
「い、いえ。大丈夫ですので……」
「ゴホッ。殿下、こういう人なんだ。口からすぐエロイ言葉は出るけど、けっこう優しいから多少の無礼は許してくれる。心配するな」
「う、うん……」
彼女はやっと緊張が和らいだので、フィリップも普通に喋る。
「今までありがとね。主人は大丈夫だった?」
「はい。空き時間に来ていましたので」
「それでも君たちには何かしないといけないよね~……貴族にお礼って、何したらいいんだろ? 君はお金でいいよね?」
「め、滅相も御座いません。お嬢様からは、善意でした行為なので何も受け取るなと言われています」
「謙虚だね~……これは益々お礼したくなっちゃった。食事でも誘ってみよっかな~? 僕の部屋に……」
フィリップの発言でボエルとリネーアは同じことを思った。「絶対、手を出そうとしてるやん!」と……
それはカロラも同じ。ブンブンと首を横に振っている。
「そ、それだけはご勘弁してください。お嬢様には、心に決めた婚約者様がおられますので……」
「あ、そゆこと? 僕と関わると婚約が流れるんだ~……」
フィリップが悪い顔になってるので、カロラは絶望の表情になった。
「その顔、やめろ。カロラが勘違いするだろ」
「あ、また悪い顔になってた? 普通に考えるの難しい」
「いったいいつになったら治るんだか……」
でも、ボエルがツッコンだので、カロラの顔はちょっとマシになった。
「こないだ部屋、訪ねたじゃない? 何人か部屋の前にいたから、変な噂が出てないか心配してた顔だったんだけど、わからなかったよね」
「はい。まったく……」
「それは大丈夫だったの?」
「お嬢様のご親友が、殿下が一歩も入っていないことを見てましたので、大丈夫と聞いてます」
「それでも男が不安になるかもしれない。そっちに謝罪するってのを、お礼にしちゃダメかな?」
「お嬢様に聞いてみないことには……」
カロラに決定権はないのは明白なので、この話は返事待ちで終了。
「ま、ここまでしてもらって何もなしじゃ、僕も引き下がれないのは理解して。ひとまず白金貨渡すから、取り分はそっちで決めてね」
「白金貨!?」
「渡しすぎだ」
「渡しすぎです」
現物支給はボエルとリネーアに冷たく止められたので、フィリップも泣く泣く諦めるのであったとさ。
白金貨は渡しすぎと言われたフィリップは、ひとまず金貨を6枚カロラに手渡す。配分は主人が5でカロラは1。そう言ってカロラはアクセーン男爵令嬢の下に帰した。
「だから、いらないって言ってたのになんで渡すかな~?」
するとボエルから苦情。フィリップはまた悪い顔してるよ。
「だから僕の心情が許さないんだよ。あと、彼女の忠誠心を試したみたいな?」
「まさか……ネコババすると思ってるのか!?」
「いったいいくら渡すと思う~?」
「ふざけんな! ゴホッ! ゲホゲホッ」
「酷すぎます……」
フィリップの悪ふざけのせいでボエルはまた咳き込み、リネーアは冷たい目だ。
「あの子は必ず全額渡すよ。そう信じて渡したの。それならいいでしょ?」
「嘘くせぇ……」
「信じられません……」
なので言い訳したけど通じず。こうなってはフィリップも話題を変えて冷たい目をかわす。
「てか、これからカレー食べに行こうと思ってたけど、ボエルはどうする?」
「まだ食欲は戻ってねぇから、やめとく」
「ふ~ん……彼女が病人食作ってくれるのか~」
「だからな。なんでわかんだ?」
「顔に出てるもん。ね?」
「はい。デレデレです」
「マジか……」
フィリップだけでは信じられないボエルでも、リネーアまでわかっているなら嘘ではない。顔を揉んでるよ。
そうしていたらマーヤがフィリップの部屋にやって来たので、食事の前にお風呂。フィリップ、リネーア、マーヤで汗を流すのを、羨ましい顔で待つボエルであった。あとでマーヤに体を拭いてもらって鼻を伸ばしていたけど……
体が綺麗になったら、ボエルは自室に戻る。今日はそこで彼女と甘い一時を過ごすそうだ。ただ、足元がおぼつかないので、マーヤの肩を借りて。
フィリップは「どうか彼女とバッティングして修羅場になりすまように!」と祈ってる。ボエルが鼻の下を伸ばしてるんだもん。もちろんリネーアに冷たくツッコまれてた。
残念ながらそんなことは起こらずマーヤが戻って来たので、3人で3階食堂に向かった。
「おお~。味が上がってる。美味しいね~?」
「はいっ! 何杯でもいけそうです!!」
「私にもこんなに美味しい物を食べさせていただき、ありがとうございます」
この短期間に料理長の頑張りでカレーが美味しくなっていたので、フィリップも満足。リネーアとマーヤはおかわりまでしてる。
フィリップはおかわりをせずにカレーを頬張る周りの生徒を見ていると、おかわりが届いたので美味しそうに食べるリネーアたちに目を移す。
「よく食べるね~」
「だって美味しいんですもの」
「そりゃ仕方ないか。でも、気を付けてね」
「「気を付ける??」」
「カレーって、カロリー高いから太りやすいの」
フィリップの何気ない一言で、ガラスが割れたような音が聞こえたような気がする。
「ななな、なんでいまさらそんなこと言うのですか!?」
「忘れてたから? まぁこの分ならみんな同じように太るから、太ったことに気付かないんじゃない??」
「それでも太った事実は消えないんですよ~~~」
女子に言うことじゃないもん。それにフィリップの解決策は解決にならないので、リネーアたちは明日から控えると心に誓ったのであった。
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