上 下
255 / 330
十一章 昼が忙しくても夜遊び

255 誘惑

しおりを挟む

 野外訓練から帰ったフィリップは、ボエルとカロラが怪しいことをしてなかったので残念がってる。しかしカロラは第二皇子を目の前にしているので、緊張でいまにも死にそうだ。

「楽にして。あと、スカートめくって」
「はい! ……はい??」
「流れるように人の彼女にセクハラするなよ。そんなことやらなくていいからな?」
「えぇ~。やっと会えたんだから、ちょっとぐらい、いいじゃな~い」
「よくねぇ! ゲホゲホッ」
「あらら。大声出すから~」

 ボエルが咳き込んでるのに、フィリップはニヤニヤしてるのでめっちゃ睨まれた。

「ゴメンゴメン。彼女も失礼なこと言ってゴメンね」
「い、いえ。大丈夫ですので……」
「ゴホッ。殿下、こういう人なんだ。口からすぐエロイ言葉は出るけど、けっこう優しいから多少の無礼は許してくれる。心配するな」
「う、うん……」

 彼女はやっと緊張がやわらいだので、フィリップも普通に喋る。

「今までありがとね。主人は大丈夫だった?」
「はい。空き時間に来ていましたので」
「それでも君たちには何かしないといけないよね~……貴族にお礼って、何したらいいんだろ? 君はお金でいいよね?」
「め、滅相も御座いません。お嬢様からは、善意でした行為なので何も受け取るなと言われています」
「謙虚だね~……これは益々お礼したくなっちゃった。食事でも誘ってみよっかな~? 僕の部屋に……」

 フィリップの発言でボエルとリネーアは同じことを思った。「絶対、手を出そうとしてるやん!」と……
 それはカロラも同じ。ブンブンと首を横に振っている。

「そ、それだけはご勘弁してください。お嬢様には、心に決めた婚約者様がおられますので……」
「あ、そゆこと? 僕と関わると婚約が流れるんだ~……」

 フィリップが悪い顔になってるので、カロラは絶望の表情になった。

「その顔、やめろ。カロラが勘違いするだろ」
「あ、また悪い顔になってた? 普通に考えるの難しい」
「いったいいつになったら治るんだか……」

 でも、ボエルがツッコンだので、カロラの顔はちょっとマシになった。

「こないだ部屋、訪ねたじゃない? 何人か部屋の前にいたから、変な噂が出てないか心配してた顔だったんだけど、わからなかったよね」
「はい。まったく……」
「それは大丈夫だったの?」
「お嬢様のご親友が、殿下が一歩も入っていないことを見てましたので、大丈夫と聞いてます」
「それでも男が不安になるかもしれない。そっちに謝罪するってのを、お礼にしちゃダメかな?」
「お嬢様に聞いてみないことには……」

 カロラに決定権はないのは明白なので、この話は返事待ちで終了。

「ま、ここまでしてもらって何もなしじゃ、僕も引き下がれないのは理解して。ひとまず白金貨渡すから、取り分はそっちで決めてね」
「白金貨!?」
「渡しすぎだ」
「渡しすぎです」

 現物支給はボエルとリネーアに冷たく止められたので、フィリップも泣く泣く諦めるのであったとさ。


 白金貨は渡しすぎと言われたフィリップは、ひとまず金貨を6枚カロラに手渡す。配分は主人が5でカロラは1。そう言ってカロラはアクセーン男爵令嬢の下に帰した。

「だから、いらないって言ってたのになんで渡すかな~?」

 するとボエルから苦情。フィリップはまた悪い顔してるよ。

「だから僕の心情が許さないんだよ。あと、彼女の忠誠心を試したみたいな?」
「まさか……ネコババすると思ってるのか!?」
「いったいいくら渡すと思う~?」
「ふざけんな! ゴホッ! ゲホゲホッ」
「酷すぎます……」

 フィリップの悪ふざけのせいでボエルはまた咳き込み、リネーアは冷たい目だ。

「あの子は必ず全額渡すよ。そう信じて渡したの。それならいいでしょ?」
「嘘くせぇ……」
「信じられません……」

 なので言い訳したけど通じず。こうなってはフィリップも話題を変えて冷たい目をかわす。

「てか、これからカレー食べに行こうと思ってたけど、ボエルはどうする?」
「まだ食欲は戻ってねぇから、やめとく」
「ふ~ん……彼女が病人食作ってくれるのか~」
「だからな。なんでわかんだ?」
「顔に出てるもん。ね?」
「はい。デレデレです」
「マジか……」

 フィリップだけでは信じられないボエルでも、リネーアまでわかっているなら嘘ではない。顔を揉んでるよ。
 そうしていたらマーヤがフィリップの部屋にやって来たので、食事の前にお風呂。フィリップ、リネーア、マーヤで汗を流すのを、羨ましい顔で待つボエルであった。あとでマーヤに体を拭いてもらって鼻を伸ばしていたけど……


 体が綺麗になったら、ボエルは自室に戻る。今日はそこで彼女と甘い一時を過ごすそうだ。ただ、足元がおぼつかないので、マーヤの肩を借りて。
 フィリップは「どうか彼女とバッティングして修羅場になりすまように!」と祈ってる。ボエルが鼻の下を伸ばしてるんだもん。もちろんリネーアに冷たくツッコまれてた。

 残念ながらそんなことは起こらずマーヤが戻って来たので、3人で3階食堂に向かった。

「おお~。味が上がってる。美味しいね~?」
「はいっ! 何杯でもいけそうです!!」
「私にもこんなに美味しい物を食べさせていただき、ありがとうございます」

 この短期間に料理長の頑張りでカレーが美味しくなっていたので、フィリップも満足。リネーアとマーヤはおかわりまでしてる。
 フィリップはおかわりをせずにカレーを頬張る周りの生徒を見ていると、おかわりが届いたので美味しそうに食べるリネーアたちに目を移す。

「よく食べるね~」
「だって美味しいんですもの」
「そりゃ仕方ないか。でも、気を付けてね」
「「気を付ける??」」
「カレーって、カロリー高いから太りやすいの」

 フィリップの何気なにげない一言で、ガラスが割れたような音が聞こえたような気がする。

「ななな、なんでいまさらそんなこと言うのですか!?」
「忘れてたから? まぁこの分ならみんな同じように太るから、太ったことに気付かないんじゃない??」
「それでも太った事実は消えないんですよ~~~」

 女子に言うことじゃないもん。それにフィリップの解決策は解決にならないので、リネーアたちは明日から控えると心に誓ったのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

猫王様の千年股旅

ma-no
ファンタジー
 神様のミスで森に住む白猫に転生させられた老人。  紆余曲折の末、猫の国の王となったけど、そこからが長い。  魔法チートで戦ったり技術チートしたり世界中を旅したりしても、まだまだ時間は有り余っている。  千年の寿命を与えられた猫は、幾千の出会いと別れを繰り返すのであった…… ☆注☆ この話は「アイムキャット!!? 異世界キャット漫遊記」の続編です。 できるだけ前情報なしで書いていますので、新しい読者様に出会えると幸いです。 初っ端からネタバレが含まれていますので、気になる人は元の話から読んでもらえたら有り難いですけど、超長いので覚悟が必要かも…… 「アルファポリス」「小説家になろう」「カクヨミ」で同時掲載中です。 R指定は念の為です。  毎週日曜、夕方ぐらいに更新しております。

【完結】悪役令嬢と手を組みます! by引きこもり皇子

ma-no
ファンタジー
【クライマックス突入!】  ここは乙女ゲームが現実となった世界。悪役令嬢からの数々の嫌がらせを撥ね除けたヒロインは第一皇子と結ばれてハッピーエンドを迎えたのだが、物語はここで終わらない。  数年後、皇帝となった第一皇子とヒロインが善政改革をしまくるものだから、帝国はぐちゃぐちゃに。それを止めようと「やる気なし皇子」や「引きこもり皇子」と名高い第二皇子は悪役令嬢と手を組む。  この頼りなさそうな第二皇子には何やら秘密があるらしいが……  はてさて、2人の運命は如何に…… ☆アルファポリス、小説家になろう、カクヨムで連載中です。  1日おきに1話更新中です。

虹色の子~大魔境で見つけた少年~

an
ファンタジー
ここではない、どこかの世界の話。 この世界は、《砡》と呼ばれる、四つの美しい宝石の力で支えられている。人々はその砡の恩恵をその身に宿して産まれてくる。たとえば、すり傷を癒す力であったり、水を凍らせたり、釜戸に火をつけたり。生活に役立つ程度の恩恵が殆どであるが、中には、恩恵が強すぎて異端となる者も少なからずいた。 世界は、砡の恩恵を強く受けた人間を保護し、力を制御する訓練をする機関を立ち上げた。 機関は、世界中を飛び回り、砡の力を扱いきれず、暴走してしまう人々を保護し、制御訓練を施すことを仕事としている。そんな彼らに、情報が入る。 大魔境に、聖砡の反応あり。 聖砡。 恩恵以上に、脅威となるであろうその力。それはすなわち、世界を支える力の根元が「もう1つある」こと。見つければ、世紀の大発見だ。機関は情報を秘密裏に手に入れるべく、大魔境に職員を向かわせた。

アイムキャット❕❕~猫王様の異世界観光にゃ~

ma-no
ファンタジー
 尻尾は三本、体は丸みを帯びた二足方向の白猫。実はこの中身は地球で百歳まで生きたジジイ。  神様のミスで森に住む猫に異世界転生したジジイは、人里に下りたらあれよあれよと猫の国の王様に成り上がり。国を発展させたり旅をしたりして世界を満喫していた白猫は、またまた違う世界に飛ばされちゃった。  その世界は勇者と魔王が戦う世界。最強の猫王様の取った行動とは…… ☆注☆  このお話は「アイムキャット!!?」という作品の特別編ですが、前情報無しでも楽しめるように書いてあります。話自体も小説一冊分程度でまとめる予定ですので、是非とも暇潰しに読んでください。  そして行く行くは、本家のほうへ……(願望)  毎日一話、最終回までノンストップで更新する予定ですので、宜しくお願いします! 「小説家になろう」「カクヨム」で同時連載しております。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

死んだら男女比1:99の異世界に来ていた。SSスキル持ちの僕を冒険者や王女、騎士が奪い合おうとして困っているんですけど!?

わんた
ファンタジー
DVの父から母を守って死ぬと、異世界の住民であるイオディプスの体に乗り移って目覚めた。 ここは、男女比率が1対99に偏っている世界だ。 しかもスキルという特殊能力も存在し、イオディプスは最高ランクSSのスキルブースターをもっている。 他人が持っているスキルの効果を上昇させる効果があり、ブースト対象との仲が良ければ上昇率は高まるうえに、スキルが別物に進化することもある。 本来であれば上位貴族の夫(種馬)として過ごせるほどの能力を持っているのだが、当の本人は自らの価値に気づいていない。 贅沢な暮らしなんてどうでもよく、近くにいる女性を幸せにしたいと願っているのだ。 そんな隙だらけの男を、知り合った女性は見逃さない。 家で監禁しようとする危険な女性や子作りにしか興味のない女性などと、表面上は穏やかな生活をしつつ、一緒に冒険者として活躍する日々が始まった。

処理中です...