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十章 物語が終わっても夜遊び
245 悪い顔だった理由
しおりを挟む皇帝に新メイド服をお披露目して3日。フィリップはこの間毎日夜の街に繰り出し、今日はキャロリーナと遊んでいた。
「最近荒れてるらしいわねぇ」
「荒れてる? 暴力事件は起こした覚えないけど……」
「そっちじゃないわぁ。娼館よぉ。毎日10人も買ってぇ、ヒーヒー言わせてるらしいじゃなぁい?」
フィリップはたまに素行の悪い野郎をボコっているけど、キャロリーナは婦女暴行のことを言っていたみたい。まぁ10人も相手していたら、そう見えるよね~?
「そっちか~……ちょっとストレス発散にね」
「殿下にもぉストレスなんてあるのねぇ……」
「あるよ? 何その顔? 僕、パッパラパーじゃないよ??」
キャロリーナの顔は、信じられない物を見た顔。この顔にはフィリップもストレスになって、キャロリーナを超絶技巧のマッサージで倒していた。
「ところでぇ、なんでストレス溜まったのぉ? あたしでよかったら聞くわよぉ? もちろん誰にも言わないわぁ」
「キャロちゃんでも言えない……内容を言わなきゃいいだけかな?」
「う、うん。そうね。機密事項だけは、絶対に口にしないで」
「また早口になってるよ? 大丈夫??」
フィリップは口を滑らせて機密事項を漏らしたことがあるので、いまさら聞くのが怖くなったキャロリーナ。しかし聞くと言ってしまった手前、覚悟して聞く。
「父上に仕事を押し付けられたんだけどね~……これが絶対失敗する案件だったの。そんな仕事を僕にやれって言うんだよ? 酷くない??」
「あ、その程度ねぇ。よかったわぁ。酷いとは思うけどぉ、陛下もお考えがあったんじゃなぁい?」
「考えって……あ、仕事の難しさを教えるってこと?」
フィリップはふたつの答えがすぐに頭に浮かんだので、機密事項に引っ掛からない無難なほうを提示したけど、キャロリーナは首を横に振った。
「違うわぁ。殿下ってぇ、城ではいつもぐうたらしてるんでしょぉ? だからお灸を据えるためなんじゃなぁい?」
「な、なんで僕の生活態度知ってるの?」
「貴族のお客がぁ、たまに笑い話で女の子に喋って行くのよぉ」
「情報漏洩、甚だしいな!?」
「そもそもぉ。夜中に遊んでばっかりじゃぁ、昼間は寝てると想像できるけどねぇ」
名探偵キャロリーナに全て言い当てられたからにはフィリップもぐうの音も出ない。しかし自分の噂は気になるらしく、他の噂も聞いてみたらとんでもない物が出て来た。
「メイドに裸同然で仕事させようとしたでしょぉ? 頭にはウサギの耳まで付けさせるってぇ、殿下はマニアックねぇ」
「そんなことまで……アレ? 僕、あの絵ってどうしたっけ??」
「うわっ。事実だったんだぁ」
「確か……回収し忘れてる!? 誰だよ捨てずに回してるヤツ~~~!!」
「あららぁ」
そう。フィリップの書いた適当メイド服は、城で回し読みされていたのだ。
「ところでぇ、どんな絵だったのぉ? 書いて書いてぇ」
「こんなのだけど……」
「あら? ちゃんと服着てるじゃなぁい。若い子に着せたらかわいいと思うわぁ」
「あ、それいいね。庶民向けのクラブの子に着せたら人気出そう」
「うん。いいわねぇ……この案、貰ってもいい? ちゃんと報酬払うからぁ」
「報酬はその店、タダにしてくれるだけでいいよ~」
商談成立。この日以降、帝都にバニーガールと飲めるお店が開店して人気を博したのであった。
でも、いつも満員だからフィリップは入れなくて怒っていたから、それを見かねたキャロリーナは娼館の女性にも着せて、満足していただいたそうな……
「なんだかな~……」
新しいメイド服のお披露目が終わって数日後、夜遊びで疲れたフィリップがベッドの上でダラダラしていたら、首を傾げたボエルが入って来た。
「どったの?」
「なんかな。メイド服の発表があったんだけど、何故か殿下がやったことじゃなくて、陛下がやったみたいな噂がそこかしこに流れてたんだ」
「ふ~ん」
「ふ~ん……じゃなくて、ちゃんと訂正したほうがよくないか? 数少ない殿下の功績だろ?」
「いいよ。面倒くさい」
フィリップはゴロンと背中を向けたけど、ボエルに転がされて元に戻された。
「まさかだけど、陛下に功績取られたのか?」
「ちょ~っと、それは口が過ぎるな~」
「いや……その……でも……」
「わかったわかった。ボエルにだけは真実を教えておくよ。そのかわり、絶対に誰にも言っちゃダメだからね?」
「お、おう……」
ボエルがフィリップのことを心配してくれているのは明白というか、クマ女を放置していると何かやらかしそうなので、先日の皇帝との会話の内容を教えてあげた。
「後継者争いに発展しそうだったから、殿下は身を引いたのか……」
「そそ。まさかメイド服を新調することが、そんなに大変なことだとは知らなかったよ。先代も失敗したんだって。それなのに、僕がラッキーパンチしちゃったから、父上も焦っちゃったみたい」
「うん。そんなに難しい問題、殿下ができるとは思ってもいなかったかも?」
「そうなの。達成確立、限りなくゼロに近い仕事を僕にやらせないでよね~」
フィリップは頬を膨らませて不機嫌アピールだ。
「でも、陛下はなんで、そんなできないことを殿下にやらせようとしたんだ?」
「それは聞いてなかったな~。ま、僕に仕事の難しさを教えようとしたか、僕の生活態度が悪いからか、観測気球に使ったか……この三択ってとこでしょ」
「ニ番目だと思う。けど、観測気球ってなんだ?」
「ちょっとは迷ってよ~」
キャロリーナとの経験を踏まえてフィリップは三択を提示したのに、ボエルの答えは一択。しかし「観測気球」は知らない言葉だったので、フィリップのツッコミは無視だ。
「簡単に言うと、僕を使って様子見したってこと。その失敗を精査して、次に活かそうとしたのかもね。僕の失敗なら痛くも痒くもないと思って」
「殿下なら、失敗しても当然と思うか……」
「そこにお兄様が登場して、全て掻っ攫うってのが父上の筋書きだったのかもね」
「ということは、今回の仕事って……」
「だね。失敗することが成功だったの。それならそうと言っておいてよね~~~」
「プッ! 殿下は何するかわっかんねぇから、陛下も読み切れなかったんだな! アハハハハ」
フィリップ、ガックシ。それとは逆で、全てを教えてもらったボエルは、いつもより心地よい眠りに就けたのであった。
「あ~あ……なんで僕が天才フレドリクの尻拭いしなくちゃいけないんだよ~」
ただし、フィリップは言っていないことは多々ある。そもそもこの仕事のやり方を考えた時には、派閥間の軋轢は必ず出て来ると気付いたから「こんなのできるか!」ってキレかけていた。
ただ、親が介入できないように短期決戦に持ち込み、メイドたちを混乱させ続け、不正の無い多数決で決めさせたら、ルイーゼのせいで起こったメイドたちの不仲は解消できるとも気付いた。
けど、「これ、兄貴の尻拭いだな」とめちゃくちゃやりたくなくなっていた。
そのふたつの顔が合わさって、ボエルには悪い顔で笑っているように見えたのだ。
「なんか寝付けないし、娼館行って来よっと」
ボエルとは逆で、フィリップは朝方になってからようやく眠ったけど、本当に悩んでいたかは定かではない……
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