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十章 物語が終わっても夜遊び
244 フィリップの大手柄
しおりを挟むフレドリクの部屋でボエルに頭を殴られたフィリップは、痛そうな演技中。レベル差のおかげで痛みはないし、下手したらボエルの拳が割れるから、動きに合わせて頭を引いたフィリップ渾身の演技だ。
「そういえば、カイは騎士団に入ったってことは、ヨーセフとモンスも騎士団に入ったの?」
フレドリクに軽く説教されていたフィリップは、良き頃合いで話題を変えた。
「いや、ヨーセフは文官見習い。モンスは神官見習いをやっている」
「あ、そうなんだ。ダンジョン制覇者だから、てっきり全員、騎士団の寮にいるもんだと思ってたよ」
「確かにゆくゆくは近衛騎士になって守ってもらえたら、私も安心なのだがな。2人は成績も優秀だから、そちらから支えてもらえるのも助かる。まぁ城に部屋を用意してそこから通っているから、私はいつも支えてもらえているぞ」
フィリップは「そうなんだ~」と相槌を打っていたが、聞き捨てならない言葉が耳に残っていたので数分後に固まった。
「いま、なんて言ったの?」
「だからな。近衛騎士は父上を守る第一部隊以外は、コネで入っている者が多いから改革が必要だと……」
「ゴメン。もっと前。城から通ってるって、誰が??」
「そんなに前か……カイ、ヨーセフ、モンスの3人だ」
「ふ、ふ~ん……仲良しだね~」
「ああ。親友だからな」
そう。逆ハーレムメンバーが城に集まっていたから、フィリップは気が気でないのだ。
「おっと。そろそろ皆が戻って来る頃だ。そうだ。フィリップも夕食、一緒にどうだ? カイが話をしたそうだったのだ」
「いま行ったら、カイが説教しそうだからパスで。それにもう夕食頼んじゃったしね」
「そうか。それでは仕方がない。でも、カイもそれほど怒ってなかったから、今度、会ってやってくれ」
「うん。考えておくよ」
フィリップの答えは遠回しに「絶対にイヤ!!」って答え。それでもこの世界ではこんな言い回しはしないので、フレドリクも気付かずにフィリップを送り出す。
ただ、話し忘れがあったのか、ボエルが外に出たところでフィリップは呼び止められた。
「小耳に挟んだ話なのだが、フィリップは侍女の制服を作っているのか?」
「小耳にって……噂ってこと?」
「ああ。父上から何も聞いてないから、ないとは思うのだが……」
「あぁ~……アレだ。新しいデザインを考えてるって聞いたから、僕もデザイン案を出したのが尾ヒレ付いたんだな~」
「侍女が破廉恥な服を着せられるところだったと話をしていたのは、そういうことか」
「エロイ服案は出しました……」
「半分は本当だったのだな……」
フレドリクにそこまで知られていたので、フィリップは罪を認めてから自室に戻るのであった。
「なあ? メイド服のこと、なんで噓ついたんだ??」
その帰り道、ボエルは不思議そうにしていた。
「あ、聞こえてたんだ」
「ちょっとな……んで、どうしてだ?」
「なんとなくってところかな~……父上からお兄様に話が行ってないのはおかしいでしょ?」
「確かに……隠す必要ないな」
「てことは、言っちゃダメなのかと思って。完成してから驚かせるパターンかな~?」
「そりゃ驚くだろうな。殿下があんな立派な服を差配してたと聞いたら、フレドリク殿下もお褒めになってくれるぞ」
サプライズはボエルも好きみたい。でも、フィリップはまだ何かあるのではないかと考えている。
「ま、なんにせよ、ボエルが先に出ててくれてよかったよ。すぐ顔に出るもんね~」
「アレは殿下が悪いんだろ。リネーアとコニーのためなら、先に言っとけよ」
「もう殴ったんだから、蒸し返さないでよ~。死んだらボエルのせいね。目撃者もいるし」
「怖ぇこと言うな! 大丈夫だよな? まだ痛むか? ゴメンな??」
フレドリクから許可を得たとはいえ、フィリップが死んだとならば間違いなくボエルの首が飛ぶ。その可能性がゼロではないと感じたボエルは、この日はオカンかってぐらいフィリップの心配をするのであったとさ。
その次の日、ついに新しいメイド服の試作品が完成したので、皇帝に報告&お披露目。応接室にフィリップたちが先に入って報告をし、あとからボエルが2人のメイドを呼び込んだ。
その2人は、スカートバージョンのユーセフソン伯爵家のベアトリスと、スラックスバージョンの作画担当。
応接室の扉が開いた時は緊張マックスで吐きそうな顔をしていたのに、皇帝の膝に乗せられて頭を撫でられているフィリップを見て、ホッコリした顔になってた。
ベアトリスたちが中央に立つと、皇帝は回転させたり歩かせたりして服をよく見る。そして着心地や動きやすさなどの質問をしたら、フィリップ以外の全員を外に追いやった。
「はぁ~……」
2人だけになったところで皇帝は大きなため息を吐いたので、フィリップに「失敗した?」と緊張が走った。
「見事だ……」
しかし、テンションとは裏腹に褒められたので、また混乱だ。
「なんか褒められてるようには聞こえないんだけど?」
「正直言うと、失敗すると思っていた。だが、誰もが不満なく、この短期間でやってのけたことには驚きを隠せないのだ」
どうやらメイド服の新調は、各派閥が動き回るので、簡単に決まるモノではないらしい。先代が挑戦した時も派閥間の争いが過激になり、邪魔やケンカが絶えず、怪我人も出たんだとか。
その時は怪我人が出た時点で、メイド服新調の話は破棄して事を収めたのだが、数年に渡りメイドたちの不仲が続いたそうだ。
その話を聞いたフィリップは「地雷案件押し付けられてたの!?」と、めっちゃ驚いてるよ。
「それがどうだ? 仲が拗れないどころか、派閥間のいざこざも忘れて仲良くやっている。あのアガータが、フィリップには頭が上がらないと言うほどだ」
「えっと……褒められているってことでいいんだよね?」
「うむ。だが、少々上手くいきすぎている。フレドリクでも、こうも上手くいくとは思えない」
「あぁ~……そゆこと」
皇帝のため息の理由は、フィリップの功績が大きすぎたからフレドリクの邪魔にならないかと心配して。だからこそ、フレドリクにはフィリップの仕事について何も言っていなかったのだ。そもそも100%失敗すると思ってたし……
「だったら何も問題ないよ。新しい制服を考えたの、僕じゃないもん。侍女が案を出し合って、多数決で決まったんだからね。僕は、父上の命令を伝えただけ。そんなヤツは、何もやっていないのと変わらないでしょ?」
フィリップが問うと、皇帝はフィリップを床に下ろして目を見て喋る。
「それでいいのか?」
「うん。実際、何もしてないし。頑張ったのは、さっきの伯爵家の人だよ。あ、そうそう。あの人、たぶんかなりやり手だよ? 僕が言ってどうこうなるとは思えないけど、次期メイド長に推薦する。考えてあげてほしいな~?」
「なるほど。そういうことか……どこからどこまでが、考えてやったことなのだ?」
皇帝の質問は、フィリップはこの仕事を自分の功績にしないように動いていたとの深読み。メイド長候補を出したことで、スケープゴートまで用意しているように見えたのだろう。
「なんのこと? 僕、わっかんな~い」
フィリップは馬鹿皇子。元よりこの功績を誰かに押し付けられるように策略を練って動いていたのだから、すっとぼけだ。
「フッ……そういうことにしておこう。しかし、これだけは言っておく。フィリップ……大儀であった」
「なんか褒められた。わ~い」
こうしてこの功績は、フィリップがふざけて喜ぶんだことまで歴史の闇に葬り去られたのであった……
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