238 / 336
十章 物語が終わっても夜遊び
238 本審査も大荒れ
しおりを挟む予備審査を終えた次の日は、メイド全員で審査する本審査。会議室の壁に全てのデザイン画を貼り付け、フィリップたちが賞を与えた物は前後左右の中央に飾ってある。
ちなみにこの展示は信用できる者にしかやらせられないので、全てボエルの手作業だ。
いちおうフィリップも手伝おうとしたけど、背伸びして頑張って貼ろうとしていたら、ボエルに「いいよ。ありがとう」と優しく戦力外通告されたから泣きそうになったんだとか。
会議室が解放されたのは、前回メイドを集めた時間。多くのメイドは楽しそうに批評していたら、遅れてフィリップたちが入って来た。
「ボエル、ルール説明」
「はっ!」
投票の仕方は1人1票は当たり前だけど、自分の組の物には投票NG。必ずデザイン画のナンバーと自分の名前を書いて投票しなくてはならないし、もしも不正があった場合は無効票となる。
投票の期日は翌日の夜まで。見張りの兵士を2人借りているから、会議室はある程度は長く解放できる。これだけ時間があれば、全員一度は見て回れるはずだ。
投票用紙は、基本的にボエルが回収。決まった時間にメイド詰め所か会議室にいるから、本人の手渡しを有効票とする。もしも間に合わない場合は、最終日にメイド長のアガータが受け取ってフィリップの下へ届けることになった。
「以上! 殿下からは……な」
「あるよ~」
「あるらしい!」
「その言い方、なんかおかしくない??」
ボエルは「ない」と思い込んでいたので、紹介が雑になっちゃった。
「え~。いちおう言っておくけど、これを着るの君たちだから、よく考えて選びなよ。ちなみに、お城には他国の者とかも現れるんだから、その人に酷評されたら父上はどう思うかな? おおこわっ。じゃ、僕は帰るね~」
「「「「「ええぇぇ~……」」」」」
フィリップのラストのセリフは、自分のせいにされたくないって言ってるようなもの。いまさらフィリップに超特大の重荷を背負わされたと知ってしまったこの場にいる者は、全員開いた口が塞がらないのであったとさ。
「ひでぇ! ひでぇひでぇひでぇ!!」
フィリップが悪い顔で笑っていた理由を完全に理解したと思っているボエルは、部屋に入るなり非難轟々だ。
「うるさいな~。何が酷いんだよ~」
「自分が責任取りたくないからって、メイドに全てを押し付けたことだ!」
「プププ。上手くいったよね~? 仕事も責任も全て引き受けてくれるなんて……アハハハハ」
「最低だ……こんなヤツにオレは加担して体を許していたのか……」
悪びれることもなくフィリップが笑うものだから、ボエルは膝を突いた。少しは信用していたんだな。かわいそうに。
「ま、これで忖度なしで投票してくれるでしょ」
「へ??」
「だから、メイドたちの顔、見てなかったの?」
「言ってる意味が……」
「ボエルが自分の作品に投票したらダメって言った時を思い出して」
ボエルは混乱していたから復活には10分ぐらい掛かったので、フィリップがお茶を入れてソファー席に移動した。
「なんか……仲間と顔を見合わせてたような気がする……」
「アレ、たぶんだけど、裏で票を掻き集めてたんじゃないかな~?」
「裏で票を??」
「要するに、政治だよ。別にデザインなんてなんでもいいの。多数決で勝てばいいだけだからね」
「あっ!? ああ!! やる! アイツらなら絶対やる!!」
ボエルは身に覚えがあるのか今度は大興奮だ。
「これもたぶんだけど、自分たちの票を入れて計算していたけど、それが無くなったから足りなくなったんじゃないかな~?」
「だからあのタイミングで投票のルール説明をしたのか?」
「ううん。ルール説明忘れてただけ。いつも思い付きで足してたでしょ?」
「嘘くせぇ。でも、本当くせぇ……どっちだ!?」
「本当くせぇって、なに? 嘘は汚いからにおうと思うけど、真実は綺麗だからくさくはないんじゃない? どんな匂いなの?」
「フ、フルーツ……」
ボエルが変なことを言ったので、そこを広げるフィリップ。長々と匂いの話をして、フィリップの賢さはうやむやにした。ちなみに真実の匂いはリンゴに決まっていたよ。
「さってと。あとは開票だけだね~。どれが選ばれるんだろ~?」
フィリップはわかってるクセにワクワク。ボエルはまだわかっていないのでドキドキだ。
「個人的にはメイド長が好んでたヤツがいいんだけどな~……」
「アレならボエルも着たい感じ?」
「まぁな」
「じゃあ、それにけって~い」
「決定って、まだ開票もしてな…い……」
フィリップが決定を告げるとボエルの心臓は止まりそうだ。
「その通り。開票するの僕たちなんだから、好きなの選べるよ?」
「はあ!? なんのためにコンペにしたんだよ!?」
「……様々な人間模様を見るためかな??」
「もう嫌だぁぁ~! こいつ、なに考えてるかわからねぇ~~~!!」
ボエル、ついにギブアップ。エロかったり馬鹿だったり。賢かったりあくどかったり。フィリップの考えていることが意味不明すぎて、第二皇子専属メイドになったことを、この日死ぬほど後悔したのであった。
「マッサージしよっか? 気持ちいいことだけ考えてたら、他のこと考えなくてよくなるよ??」
「このエロ皇子が~~~!!」
なのでフィリップは一本に絞ってあげるのであったとさ。
11
お気に入りに追加
167
あなたにおすすめの小説
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
スキルポイントが無限で全振りしても余るため、他に使ってみます
銀狐
ファンタジー
病気で17歳という若さで亡くなってしまった橘 勇輝。
死んだ際に3つの能力を手に入れ、別の世界に行けることになった。
そこで手に入れた能力でスキルポイントを無限にできる。
そのため、いろいろなスキルをカンストさせてみようと思いました。
※10万文字が超えそうなので、長編にしました。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
破滅する悪役五人兄弟の末っ子に転生した俺、無能と見下されるがゲームの知識で最強となり、悪役一家と幸せエンディングを目指します。
大田明
ファンタジー
『サークラルファンタズム』というゲームの、ダンカン・エルグレイヴというキャラクターに転生した主人公。
ダンカンは悪役で性格が悪く、さらに無能という人気が無いキャラクター。
主人公はそんなダンカンに転生するも、家族愛に溢れる兄弟たちのことが大好きであった。
マグヌス、アングス、ニール、イナ。破滅する運命にある兄弟たち。
しかし主人公はゲームの知識があるため、そんな彼らを救うことができると確信していた。
主人公は兄弟たちにゲーム中に辿り着けなかった最高の幸せを与えるため、奮闘することを決意する。
これは無能と呼ばれた悪役が最強となり、兄弟を幸せに導く物語だ。
お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……
karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。
他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!
七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる