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十章 物語が終わっても夜遊び

224 皇后教育

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 ルイーゼの居場所を確認した次の日は……

「ふぁ~……」
「ほら? 出て来たぞ??」
「ムニャムニャ……」
「寝るな。殿下がつけると言ったんだろ」

 朝早くからルイーゼの部屋を見張っていたけど、フィリップは立ったまま居眠り。なのでボエルは首根っこを掴んで、引きずりながらルイーゼを追いかける。

「おい。ここに入ってったぞ?」
「ふぁ~……あれ? ここどこ??」
「たぶん来客用の食堂だ」
「えっと……僕、なんでこんな所にいるのって意味だったんだけど……」
「どこから記憶がないんだ?」
「ベッドで寝たところ??」
「夜から!?」

 まさか起きた記憶すらないとはボエルも驚きすぎて声が大きくなったので、自分で口を押さえる。そして昨夜の話から思い出させたら、フィリップも誠心誠意謝罪してた。悪いとは思ったらしい。

「部屋だと覗くのは厳しいか~……」
「だな。殿下も朝食にするか?」
「う~ん……テーブルマナーを習ってるとしたら、けっこう掛かるか。急いで食べよう!」
「殿下も一緒に習ったらどうだ?」

 皇族がバクバク食べるのだから、ボエルもはしたないと思っての嫌味。

「あ、それいいね。お昼に突撃してやろっと」
「いまの嫌味だぞ? そんなことしたらフレドリク殿下に怒られるんじゃないか? 聞いてるか? 聞けよ!」

 それは面白い作戦を与えただけ。フィリップはニヤニヤしながらスキップで皇族食堂に向かうのであったとさ。


 お腹いっぱいになったフィリップは自室で仮眠を取ったら、予定通りボエルに食事を運ばせて、来客用の食堂に突撃取材。

「突撃、隣のランチ~。ニヒヒ」
「わっ! ……フィリップ君?」

 フィリップがドアを勢いよく開けて変なことを言いながら入って来たから、ルイーゼはビックリして振り返った。

「そそ。ボクボク~。一緒にランチしよ~?」
「えっと……いまお勉強中だから……」
「僕も勉強したいの~。先生もいいよね? 僕、第二皇子様だよ~? 僕の言うこと聞けないの~??」
「それは脅してるだけでは??」

 ルイーゼの言う通り、脅し。フィリップは無理矢理ルイーゼの前に陣取り、「脅すな!」って顔に書いているボエルにテーブルセッティングをさせた。

「おっ。ちょうどスープからだね。ボエルお願い」

 タイミングはバッチリ。一番目のメニューからだったので、ボエルにワゴンから運ばせた。

「ちょちょちょ。スプーン間違ってるよ?」
「え? あっ! まただ!!」
「また? まぁまだ使ってないからセーフね。スープはそっちのスプーンね」
「うん。ありがと~」

 フィリップは指差して教えてあげたら、さっそくスープをいただく。

「ズズズズ~……」

 でも、ルイーゼが酷い音を出すので、フィリップは固まって飲めなかった。

「美味し~い。アレ? フィリップ君は飲まないの? 冷めちゃうよ??」
「えっと……その前にちょっといい?」
「どうしたの?」
「音……スープを飲むとき音を出すなと言われなかった?」
「あっ! まただ……」

 フィリップはここまで酷いのかとマナー講師を見たら、首を横にブンブン振っていた。自分には非がないと言いたいみたいだ。

「よし! ここから僕は何も言わない。習ったようにやってみて」
「うん。任せて。ズズズ~……」
「「「……」」」

 言ったそばから失敗するルイーゼ。この部屋にいる全員は呆れたようにルイーゼのテーブルマナーを見守るのであった。


「美味しかったね~」
「う、うん。自分の食べ方が一番美味しいよね」

 デザートまで食べ終えたら、ルイーゼはお腹をポンポン叩いているので、フィリップもこの言葉が限界。ナプキンで口を拭いてルイーゼにヒントを与えたけど、口の周りが汚れまくっていることにも気付いてくれないので頭を抱えた。

「ボエル、ちょっと身嗜み整えてあげて。先生はこっちに……」

 フィリップは立ち上がると、マナー講師を連れて隣の部屋に入った。

「アレって、何日ぐらいの成果なの?」
「1週間です……申し訳ありません!」
「いや、僕に謝られても……てか、お兄様は大丈夫? 先生が怒られたりしてない??」
「それは何故かありません……できることなら解任していただきたいのですが……」
「自信喪失しちゃってるか~……ちなみに他のマナーなんかはどうなってるの? 聞かせてくれたら、離れられるようにお兄様に掛け合ってあげるよ」
「是非! ありがとうございます!!」
 
 マナー講師、万歳。どうやらルイーゼは、皇后教育の全てで0点どころかマイナス点を叩き出しているから、出来損ないの第二皇子相手でもペラペラ喋ってくれるのであったとさ。


 マナー講師から情報を仕入れたフィリップは、ボエルを連れてすたこら退散。歩くスピードが速いので、ボエルは不思議がっている。

「どうしたんだ? フレドリク殿下から逃げてるのか??」
「いや……失敗しただけ」
「失敗?? わっ」

 フィリップが急に止まったので、ボエルは押していたワゴンをぶつけそうになった。

「ボエルは絶対に聖女ちゃんと関わらないで」
「なんだよ急に……殿下が関わらそうとしたんだろ」
「うん。ゴメン。僕が浅はかだった」
「謝ってないで何が言いたいか説明しろよ。わっかんねぇよ」

 ボエルがまだわかっていないので、フィリップは緊張した顔で振り返った。

「お兄様が聖女ちゃんをどう扱って来たか、嫌というほど見てたでしょ? エステル嬢がどうなった? ここでも同じことが起こるかも……」
「なんだと……」

 そう。乙女ゲームの設定がまだ生きていたから、フィリップもこんなに険しい顔をしているのだ。その設定は言えないが、帝都学院での出来事を見て来たボエルなら、ルイーゼの危険性に気付いた。

「いい? メイドの悪口に絶対に乗っちゃダメ。顔を見たらすぐ逃げて。そうでもしないとボエルも巻き込まれる。わかった?」
「お、おう……でも、それで城は大丈夫なのか? 一斉粛正なんてなったら……」
「父上が手を打ってくれると思うけど……念の為、注意喚起だけはしとくか……行くよ」
「おう!」

 これよりフィリップはメイド長のアガータに会いに行き、「ルイーゼの悪口は禁止」ということを徹底させるようにお願いする。
 ただ、貴族の子女は噂好きなので止められるかどうかは、フィリップも祈るしかないのであった……
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