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十章 物語が終わっても夜遊び
221 新ルート
しおりを挟む帝都学院の卒業式が終わり、フレドリクたちがルイーゼに愛の告白をしたのをコソコソ見ていたフィリップは自室に戻る。
ボエルからは「どこ行ってたんだ!」と説教されたり「城にいつ戻るんだ?」とか言われていたけど、フィリップは一旦保留にしていた。
夜になりボエルが出て行ったら、フィリップはイーダの寝室に窓から忍び込んだ。
「卒業おめでと~う……アレ?」
暗闇の中フィリップは拍手をしながらベッドを見たが、そこにはイーダはいない。ドアの隙間から光が漏れていたので、リビングにいるのかとフィリップは寝室から出た。
「卒業おめでと~う……どうしたの?」
再び拍手をしたけど、イーダはソファーに座ったまま下を向いていたので祝える雰囲気ではない。
「殿下……」
寝室でも声を出しているのに、イーダはここで初めてフィリップの存在に気付き、暗い顔を向けた。
「なんかあった? エステル嬢と一緒じゃないから寂しかったとか??」
「それはそうですけど……」
質問してもイーダはいい返事をくれないので、フィリップも心配して抱き締めようとしたら両手で押し返された。
「どうしたの?」
「もう、この関係は終わりにしたい所存です……」
「終わり? あ、エステル嬢に気を遣ってる? 見送りはできないけど、帝都学院最後の夜までは一緒にいるよ??」
「もういいのです。今日でお別れさせてください」
「なになに? 急にどうしたの??」
いきなり別れを告げられたフィリップは理由を何度も聞いたけど、イーダは口を開いてくれない。
数分は質問し続けたが、これでもフィリップは何度も別れ話を経験して来たのだから、イーダの覚悟を本物だと察して距離を取った。
「本気みたいだね……まぁこれだけは言わせて。今までありがとう。楽しかったよ。イーダが幸せになる姿を祈ってるよ」
「うっ……うう……」
「さよなら……」
「ううぅぅ……」
別れの言葉を告げたフィリップは、振り返りもせずに寝室の窓から暗闇に消えるのであった……
「なんでいきなりフラれたんだろ? 絶対、未練タラタラで引き留められると思ってたんだけどな~……ま、後腐れなく別れられたから結果オーライか。てか、やる気満々だったのにな~……娼館でも行こっと」
別れの理由は特に気にせず、娼館に駆け込むフィリップであったとさ。
フィリップが背を向けた直後、イーダは涙を流しながら手を伸ばしたが届かず。そのまま床に倒れ込んで泣き崩れていた。
「うぅ……殿下~。お慕い申しておりました~。私が不甲斐ないばかりに~~~。うわ~~~ん」
この涙は、最初の約束。イーダは1年間フィリップに尽くしていたのだから、子供ができると思っていた。しかし本日女の子の日となり、自分は子供ができない体だと思って身を引いたのだ。
フィリップはその約束を忘れた上に、今ごろ娼館に向かっているとは露知らず、涙に明け暮れるイーダであった。
クリスティーネと同じく、フィリップは最後の最後までしてなかっただけなのに……最低だな!
最低なフィリップは、娼館ではイーダのような背の低い女性とマッサージしてスッキリし、それから2日は寮に残ってバルコニーから旅立つ卒業生を見ていた。
「なあ? いつになったら城に帰るんだ??」
それをボエルは不思議そうにしている。
「今日帰ろっかな~?」
「なんだよ急に……」
「ほとんど荷物置いて行くからいけるでしょ?」
「まぁすぐそこだし……じゃあ、お昼は城で食べれるように帰るってことでいいんだな?」
「はいは~い」
「はいは1回だ!」
オカンみたいなことを言うボエルは帰宅の準備を始めるが、フィリップは頬杖を突いたままその場を動かない。
「イーダはマルタと一緒の馬車で帰るみたいだね。元気でね。バイバ~イ」
あんな別れだったので、フィリップはいちおうイーダを見送ろうと残っていた模様。それでも最低なのは変わらないけどな!
城に帰ったフィリップは、翌日には仮病を使おうと思ったけど、夕方に皇帝からの予約があったので仮病は延期。朝起きてボエルとダラダラ喋っていたら時間になったので、ビクビクしながら向かう。
仮病を決意した瞬間に使いの者が来たから、フィリップは仮病がバレてるのかとビビっているらしい。
そして皇帝の膝の上に乗せられて撫で回されるので、今日も混乱だ。
「例の件、聞かせてもらおうか」
「例の件って??」
「聖女の調査結果だ」
「あぁ~……」
この件もすっかり忘れていたフィリップ。例の件なんて遠回しな言い方も悪いと責任転嫁したフィリップは、思ったままを語る。
「聖女としては優秀かな? ただ、皇后としては、正直向かないと思う。エステル嬢が100点だとしたら、聖女ちゃんはいいとこ10点じゃないかな~?」
「ふむ。そうか……はぁ~」
皇帝が珍しくため息をつくので、フィリップは見上げるように顔を見た。
「僕、変なこと言った?」
「いや、フィリップは悪くない。俺も正直、同じ意見だ。ただな……」
「どうしたの?」
「フレドリクは絶対に結婚すると聞かないのだ」
「そうなんだ……」
フィリップ的には、ルイーゼがフレドリクを選んだのだから収まるべき場所に収まったと思ったけど、皇帝が悩んでいるように見えるので探り探り喋る。
「父上は反対なの?」
「どちらかというとな。しかし、フレドリクはこれから皇帝の重荷を背負うことになるのだから、せめて伴侶ぐらいは好きにさせてやりたいとも思う」
「なるほどね~」
君主と父親の葛藤と戦っていると察したフィリップは、少しぐらい自分の意見を言ってみる。
「元平民が皇后なんて、これほど平民が喜ぶことはないだろうね。一回ぐらいそういう夢を見させてあげたほうが、平民は皇家のために働いてくれるかも?」
「ふむ……面白い考え方だな。しかし、貴族の反発はどうする?」
「そんなのお兄様にやらせたら? 茨の道を選んだのはお兄様だし。まぁお兄様なら、なんだかんだで上手くやるんじゃない?」
「確かに……」
フィリップの奇を衒った案に感心した皇帝。さらに最高傑作のフレドリクなら信頼に値すると頷いたが、まだ心配事はある。
「問題は辺境伯だな……」
「それは僕も心配だけど、わっかんないや」
ダンマーク辺境伯の娘と婚約破棄したのだから、怒りは確実。フレドリクをぶつけると火に油になるのは見えているので、フィリップは皇帝に頑張ってもらうしかないと答えが出ているが、皇帝もわかっているだろうから口にはしない。
「致し方ない……フィリップ。貰ってくれるか?」
「貰う??」
「エステルをだ。あの土地は帝国の要所だから、辺境伯に離れられると困るのだ」
「え? 僕がエステル嬢と結婚するの??」
「まぁいまは怒りで出来損ないに嫁ぐとか思われるだろうから、時期を見てからになるがな。性格が悪いと聞いてはいるが、帝国のため、頼まれてくれ」
突然の結婚話にフィリップは目を丸くしたが、皇帝の頼みだから断る選択肢はない。
「そ、そうだよね。お兄様が不手際したんだから、それなりの謝罪は必要だよね……うん。わかった。その任、謹んでお受けします」
「うむ」
その答えに、皇帝は「よくやったと」フィリップの頭を撫で続けるのであった……
その帰り道、フィリップがニヤニヤしていたのでボエルが何かあったのかと質問していたけど答えず。夜になってボエルが部屋から出て行ったところでフィリップは飛び跳ねる。
「いよっしゃ~! 悪役令嬢ルート、いきなり到来!! 命を助けたら、こんな夢みたいなことが起こるとは……どっかの王女様か貴族と結婚させられると思ってたから、卒業後は諸国漫遊の旅にでも勝手に出ようと思ってたのに……神様ありがと~~~う!!」
大好きなキャラと結婚できると知ったのだから、笑いが我慢できるわけがない。この日のフィリップは夜遊びせずに、エステルのことを想いながら1人で長い夜を過ごすのであった……
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