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九章 物語が終わるまで夜遊び

214 知る者と知らざる者

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 クレーメンス伯爵、謀反未遂事件の概要は、1日後に世間に発表されてもボエルは興奮冷めやらず。

「しっかしすげぇな。100人だぞ100人。それも訓練を積んだ元騎士。どうやったら倒せるんだ。世界最高の暗殺者ってのは、伊達じゃないな。な?」
「なん回言うんだよ~」

 ボエルとは逆で、フィリップは辟易。昨日は守秘義務で喋る相手がフィリップしかいなかったから、耳にタコだ。

「てか、ボエルだったら何人ぐらい倒せそう?」
「オレ? 騎士が相手だろ~……レベルによっては、10人も無理だな」
「そのレベルが全員20だったら?」
「同レベルか~……運が良くて、3人。最後の1人を道連れにできたらだけどな」
「あ、そんなにレベル高いんだ」
「オレなんてまだまだだ。最近は剣も振ってないし、鈍ってるだろうな~……殿下って剣を使えるのか??」

 世間話程度にフィリップは相手していただけなのに、ボエルの目が妖しい。目が剣になってるもん。久し振りに心行くまで振りたいみたいだ。

「剣術授業で見た通りだよ」
「あ……ヘロヘロだったな……なのに、ずっと寝てるし……皇族としてこれでいいのか?」
「いいのいいの。僕、頭脳派だから」
「あの点数で頭脳派~~~? 剣だ! いまから剣士になれ! それしか殿下の生き残る道はない!!」
「僕は誰とも死闘なんてしないよ~~~」

 付き合わされそうと思ったフィリップは、実力を思い出させて拒否しようとしたけど、賢さを前に出したので失敗。騎士モードに入ったボエルの肩に担がれて、訓練場に拉致られるのであったとさ。


 訓練場に拉致られたフィリップは、ちょっとだけ付き合っていたけど、ボエルが目を離した隙に書き置きを残して逃走。こうなってはフィリップは見付からないので、ボエルはすぐ諦めて自分の訓練に戻る。
 夕食の時間前にボエルが戻ったら、フィリップは普通に寝ていたので、デコピンしてた。幸せそうにヨダレを垂らして寝てたから、怒る気が失せたんだとか。

 外が暗くなり、フィリップの普通のマッサージと普通じゃないマッサージを受けたボエルが満足して出て行くと、フィリップも外出。イーダの部屋にやって来た。

「いったいぜんたい、何が起こっているのですか!?」

 イーダでも知ってる世界最高の暗殺者が何故か義賊になっているので、あたふたしながら出迎えた。

「なんのこと?」
「だから! ……エステル様は、世界最高の暗殺者を雇ったと言っていましたから……」

 フィリップがとぼけると、イーダも声が小さくなった。こんなこと大声で言えないもん。

「あぁ~……イーダって、どこまで知ってるの?」
「暗殺者を雇ったまでです。エステル様は私たちに類が及ばないように、詳しいことは教えてくれませんでした」
「そんなもんだよね。僕も似たようなモノ。いきなり暗殺者が義賊になってるから驚いた口だよ」
「殿下もですか……それって本当ですか?」
「ホントホント」

 いつも通りフィリップが軽い返しをするので、イーダは嘘か本当かわからない。けど、ムカついて睨んでる。

「では、どうしてこんなことに……」
「僕の予想だけどね~……」

 フィリップの嘘っぱちな予想は、元暗部のメイドがアン=ブリットを捕まえた時に、クレーメンス伯爵のくわだてを知ったとか。さすがに誰かが報告して、一芝居打ったのではないかと語った。

「そんなの、普通に皇帝陛下に報告すればよかっただけでは?」
「事件が事件だからね。暗部も謀反がここまで進んでいたのを見過ごしていたから焦ったんじゃない? トップが保身に走って、仲間割れに見せたとか? それが失敗してお兄様に勘付かれたとか??」
「これ、フレドリク殿下が考えたのですか?」
「僕は聞かされてないけど、たぶんね。アードルフ侯爵の時とやり方似てるもん」

 フレドリクの名前が出て来ると、イーダの顔色が変わった。

「どったの?」
「エステル様! エステル様は大丈夫でしょうか!?」
「んん~?」
「今日、エステル様はこの事件を聞いてから体調を崩されたのです! フレドリク殿下にバレたのでは……」
「そゆことね」

 フィリップは事件のことは上手く逸らせたと、一瞬悪い顔してから元に戻した。

「大丈夫じゃない?」
「どこが……暗殺者が吐いたのかも……」
「だからね。そんなネタ、お兄様が知ってたら今ごろ婚約破棄してるよ。まだでしょ?」
「まだですけど……もっと証拠を集めているのでは……」
「わかったわかった。それとなく探ってあげる。エステル嬢にも教えてあげて。あ、僕の名前出さないでね?」
「殿下……ありがとうございます~~~」

 イーダ、嘘しか言われていないのに、涙ながらの抱擁。フィリップはエステルに繋がる証拠は完全に消したから念の為に確認するだけなのにね。


 その翌日は、イーダとの約束を無視して、フィリップは奴隷館のキャロリーナとマッサージしていた。

「まさか世界最高の暗殺者の正体が義賊だったとはねぇ」
「あ、今回は信じてるんだ」
「なぁにぃ? お兄様がまたでっち上げたってことぉ??」
「可能性はある気がするな~」
「その予想はどういうことぉ? 殿下は何も聞かされてないように聞こえるけどぉ~??」
「そういえば……今回はみんなが知ってる情報しか聞かされてない……」

 キャロリーナと喋っていて、フィリップも仲間外れにされてると初めて気付いた。

「だ、大丈夫よぉ~。きっと忘れてるだけだから、そんな顔しないでぇ~」
「それが一番悲しいんだけど……」
「あたしは忘れないわよぉ~。ほら? 続きしましょ~??」

 家族から忘れられていたことは、フィリップもショック。キャロリーナは献身的にマッサージして機嫌を取るのであった。
 ちなみにフィリップは翌日慌ててフレドリクの自室を訪ねたら、忙しかったから報告が遅くなっただけだったので、ホッとしたらしい……
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