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九章 物語が終わるまで夜遊び

204 世界最高の暗殺者の登場シーン

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 黒幕かどうかわからない人物を発見したフィリップは、次の日から調査に取り掛かる。手に入れた手紙から名前を書き出し、イーダとキャロリーナに知っている人物を尋ねる。
 それと同時平行で城にも忍び込んで、貴族街の住所が書かれている物を探していたが、キャロリーナが有力情報を得たと言うから、フィリップは腕枕をされながら聞いてる。

「クレーメンス伯爵の関係者が多いんだ~……てか、まだ調べてくれてたんだ」
「なんだか気になっちゃってぇ。いったい何をしようとしてるのぉ?」
「特に何も。とある生徒がピンチになりそうだから、関係者を洗ってただけだよ」
「ふ~ん……」

 キャロリーナはフィリップの耳に唇を寄せた。

「これは噂でしかないんだけどぉ、クレーメンス伯爵には気を付けてぇ。気に食わないヤツをぉ何人も消してるらしいのぉ」
「マジで? 父上の目を掻い潜ってそんなことしてんの??」
「だから噂よぉ。昔、法王が皇家に処分された事件があったでしょぉう?」
「お兄様が悪事を暴いたヤツだね!」

 この法王は、フィリップが魔法適正検査の時に「金持ちすぎない?」みたいなことを言ってから、フレドリクに目を付けられたかわいそうな人。
 フレドリクが皇帝に直訴したら「経験にやってみろ」と調査の許可を得て、容赦ないぐらい徹底的に調べられて多大な着服があったのだが、銅貨1枚まで調べていたのでフィリップも引いていた。

 これで法王は失脚。それだけでなく、金銭を取りあげた上に神殿から追放された。ここまではフィリップも聞いていたのだが、その後はキャロリーナの口から語られる。
 帝都にいる息子夫婦の家で暮らしていた法王は、夜道で殺されたとのこと。すぐに犯人は捕まったから大きく報道はされなかったのだが、不自然な点が多いそうだ。

「物盗りがヨボヨボのじいさんね~……」
「それもナイフでひと突きよぉ。法王はアレでも攻撃魔法を使えるんだから、自衛ぐらいできるわよぉ」
「んで、そこにクレーメンス伯爵がどう関係してるの?」
「クレーメンス伯爵は昔ぃ、法王に汚い手段で神殿を追い出された上にぃ、濡れ衣で侯爵から伯爵に降格したんだってぇ。その恨みでぇ、殺したんじゃないかという噂ねぇ」
「積年の恨みね~……キャロちゃんはこれ以上、この件を調べないで。そんな昔のことに根を持ってるヤツなら危ないからね」
「わかったわぁ」

 キャロリーナは両手を上げて降参のポーズをして、フィリップから少し離れる。

「なんで笑ってるのぉ?」

 その時、フィリップの表情が何かを物語っていた。

「笑ってた?」
「ええ。いまも笑ってるわよぉ。あたしには手を引けと言っておいてぇ、自分は危険なことするつもりでしょぉ?」
「しないよ~。父上とお兄様にチクったら、伯爵がどうなるか想像してただけだよ~」
「怪しい……でも、陛下たちに言ったらいいだけだもんねぇ。くれぐれも危ないマネしないでねぇ」
「わかったわかった。しないしない」
「それ、する言い方よぉ?」

 フィリップの言い方が悪すぎたので、キャロリーナは物凄く心配するのであった……


 情報を手に入れたフィリップは、特に何もしないで学校に行ったり夜の町ではっちゃけたりしていたので、キャロリーナも一安心。いつも通りフィリップはエロイ顔してるもん。
 ちなみにフィリップが本当に何もしていないってワケはなく、夜遊びする時は決まってクレーメンス伯爵の家を軽く眺めてから。怪しい人物がいたら、ちょっとつけるだけ。
 あとはイーダから話を聞き、昼間はエステルをストーキングしている。ルイーゼに嫌味を言ったりフレドリクとケンカしたりしてるエステルをニヤニヤ見ているだけなので、イーダも「いい加減やめてくれ」と懇願していたんだとか。

 そんな日々を過ごしていたら、最上級生の卒業式まで残り1ヶ月となった。

 その夜、帝都学院の体育館の屋根には、ストールをたなびかせる人陰があった……

「ちょっといい?」
「……ッ!?」

 その人陰にフィリップが声を掛けると、人陰は驚きと同時に飛び退き、クナイを両手に構えた。

「待って。落ち着こう。僕はスカウトに来ただけだから。ね?」

 フィリップは両手を上げて危害を与えないアピール。それと、舐めるように見てる。

(キタ~~~! 世界最高の暗殺者! アン=ブリット!! なんてエロイ格好なんだ~~~!!)

 アン=ブリットとは、乙女ゲームでの主要キャラ。黒髪の美女だが左目に傷があるので歴戦の猛者感をかもし出している。
 服装はくノ一がレオタードを穿いているみたい。それだけでもエロく見えるのに巨乳だから着物からはみ出しているので、フィリップは興奮しっぱなしだ。

「だ、第二皇子……??」

 フィリップが気持ち悪い顔で見てるからアン=ブリットも反応が遅れたが、超有名人の第二皇子の顔ぐらいは頭に入っている。

「そそ。僕の下で働かな~い?」
「な、なんで第二皇子がこんな場所に……」
「いや~。アン=ブリットの登場シーンって、体育館の屋根でかっこつけてる所を遠目からアップの絵になるんだよね~。だから、出て来るの隠れて待ってたの~」
「登場シーン? かっこつける??」

 乙女ゲームではお馴染みの登場シーンをフィリップが興奮して喋っても、伝わるワケがない。アン=ブリットも混乱してるな。

「いやいや! 邪魔をするなら排除する……」

 でも、頭を振って気を取り直し、構えを低くした。

「まぁ暗殺は邪魔することになるけど、そのかわり僕に永久就職できるよ~? お得な話じゃな~い??」
「関係ない。仕事は完璧にこなすだけ」
「交渉決裂か~……いや、その仕事を失敗したら、交渉の余地アリかな?」
「ないっ!!」

 アン=ブリットは問答を終えてフィリップに襲い掛かる。こうしてニヤケ顔のフィリップと、世界最高の暗殺者との戦いが人知れず始まるのであった……
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