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九章 物語が終わるまで夜遊び
201 毒殺事件の阻止
しおりを挟む「うお~。こえ~。チビリそ~」
ルイーゼの毒殺に失敗したウェイター姿の暗殺者を叱責するエステルを、ニヤニヤしながら見ているフィリップ。
ちなみにフィリップがどこから見ているかというと、高い天井に氷魔法で張り付いて。いちおう天井の色と合わせたマントを羽織ってカモフラージュしてるけど、チビルとバレてしまう。
「プププ。暗殺者もどうして毒が効かないかわからないって、入ってないんだから効くわけないじゃん」
どうやらフィリップがクソつまらないパーティーに文句を言いながらも出席していたのは、この毒殺イベントのため。この日だけピンピンしているとおかしいから我慢して出席していたのだ。
乙女ゲームでは、ルイーゼは毒を飲んで倒れるのだが、聖魔法の使い手だから毒にも耐性があるって取って付けたような設定のおかげで即死には至らない。
近くにいるモンスが魔法で手当てをしたらルイーゼは持ち直し、自分の聖魔法で治療して助かるのだ。
フィリップはその場面をプレイした時は、毎回「自分で治すんか~い」とツッコンでいたらしい。
ただし、会場には皇族が揃っているものだから、護衛が皇族を囲む大パニックに。そのせいで暗殺者を逃がすことになってしまう。これはどのルートでも共通だ。
その後のルイーゼは何故か完全回復まではしないので、病院に入院してワッキャウフフな展開になるんだって。
「おっ……続けてやるのか……ジュース探しに行かなくちゃ」
フィリップの毒殺阻止方法は、グラスを交換しただけ。暗殺者の目の前にあるグラスを、フィリップの最高速で交換し、毒ジュースはアイテムボックスに保管。
手の動きどころか姿すら見せない、ジュースに波すら起こさない超神業。フィリップはこの日のために、ダンジョンに籠ってジュースの入れ替えをめっちゃ練習してたんだとか……
それからフィリップはジュースを手に入れたらルイーゼの近くで交換し、エステルが地団駄踏む姿をニヤニヤしながら見たら、また人気のない場所に3人は集合した。
「本当に毒ですの! 本物かどうか舐めてみてはどうですの!?」
「そ、それだけはご勘弁を……」
二度も失敗したのだから、毒が悪いとおっしゃるエステル。言いたいことはわかるが、暗殺者も即死する可能性のある物を舐める勇気はないみたいだ。
「そりゃ無理だよね~。でも、動物実験してから、後日またやるのか……猫にでも使いかねないから、いま処理したほうがいいかな~? でも、こいつが世界最高の暗殺者と繋がりがあるんだよね~……どうしたもんか」
物語のキーマンを処理することに躊躇っていたら、エステルも「猫や犬には使うな」と命令していたのでフィリップも一安心。どっちもペットには愛情があるらしい。
結局のところネズミで実験するようなことを言っていたので、フィリップは暗殺者が建物から出て行くのを確認してからパーティー会場に戻るのであった。
念の為ルイーゼとエステルを監視しに行ったフィリップは、しばらくそこでニヤニヤしていたらボエルが走って来て「勝手にウロチョロするな」と怒られていた。トイレにしては長すぎたもん。
ボエルはフィリップが何を見ているのかと視線の先に目をやると、怒れるエステルの顔。
「うわっ。いつにも増して怖い顔だな」
「そりゃ婚約者が蔑ろにされてるもんね~」
「いい加減、仲を取り持ってやれよ。このままじゃ、フレドリク殿下が婚約破棄するとか言い出しかねないぞ」
「おっ。ボエルも男女の機微がわかって来たじゃ~ん」
「殿下としょっちゅう見てるからな」
「ま、それなら彼女とも仲直りできるね」
「な、仲直り……なんで知ってんだ……」
フィリップの唐突な発言に、ボエルは額から汗を垂らした。
「僕が気付いてないと思ったの? 最近ため息多いし、僕とすること多いんだも~ん。やっぱり、リネーア嬢のことであまり会えなかったのが原因??」
「なんでわかんだよ~」
「仕事と私、どっちが大事って言われたんだ~」
「だからなんでわかんだよ~~~」
フィリップが全てを言い当てるので、ボエルも半泣き。なので相談に乗ってあげたけど、もう修復は無理かもしれない。
「仕事が大事は、ないわ~」
「なんでだよ? 金がないといい店にも連れて行けないだろ」
「それがわからないから怒るんだよ。さってと、父上のお仕事は終わったみたいだね。やっと帰れる~」
「オレはなんて答えたら正解だったんだ? なあなあ??」
このあとフィリップはなかなか正解を言わず、リネーアたちに一言掛けてから皇帝の膝の上に乗ってお城に帰るのであった……
「で……なんて言えばよかったんだ?」
「彼女に決まってるでしょ! そのあと、仕事の言い訳するんだよ!!」
「ああ~……言い訳はなんて言うんだ??」
「それぐらい自分で考えなよ~~~」
あまりにもボエルがしつこいので正解を教えてあげるフィリップであったけど、この正解は本当に正解になるかは彼女しだいと付け足したので、ますます正解がわからなくなるボエルであったとさ。
「殿下? 城に帰ったんじゃなかったのですか??」
「まぁまぁ。入れて入れて~」
夜遅くにフィリップがやって来た場所は、寮にあるイーダの部屋。窓をノックしたら、イーダが不思議そうに招き入れてくれた。
「こないだ失礼なことしてしまったから、謝りに来たの。こっちにいてくれてよかったよ」
「あ……名前の件ですか……そうですよね。忘れるワケないですよね」
「そそ。僕たちの関係は秘密だもん。ゴメンね」
「はい。私も怒ってしまってすみませんでした」
「いいのいいの。久し振りにしよっか?」
「はい……」
これがフィリップとボエルとの違い。謝る時は理由をちゃんと説明して謝罪するので、イーダも許してくれるのだ。
ただし、フィリップはエステルの次の手を聞き出してから、悪い顔で帰って行ったけど……
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