上 下
201 / 329
九章 物語が終わるまで夜遊び

201 毒殺事件の阻止

しおりを挟む

「うお~。こえ~。チビリそ~」

 ルイーゼの毒殺に失敗したウェイター姿の暗殺者を叱責するエステルを、ニヤニヤしながら見ているフィリップ。
 ちなみにフィリップがどこから見ているかというと、高い天井に氷魔法で張り付いて。いちおう天井の色と合わせたマントを羽織ってカモフラージュしてるけど、チビルとバレてしまう。

「プププ。暗殺者もどうして毒が効かないかわからないって、入ってないんだから効くわけないじゃん」

 どうやらフィリップがクソつまらないパーティーに文句を言いながらも出席していたのは、この毒殺イベントのため。この日だけピンピンしているとおかしいから我慢して出席していたのだ。

 乙女ゲームでは、ルイーゼは毒を飲んで倒れるのだが、聖魔法の使い手だから毒にも耐性があるって取って付けたような設定のおかげで即死には至らない。
 近くにいるモンスが魔法で手当てをしたらルイーゼは持ち直し、自分の聖魔法で治療して助かるのだ。

 フィリップはその場面をプレイした時は、毎回「自分で治すんか~い」とツッコンでいたらしい。
 ただし、会場には皇族が揃っているものだから、護衛が皇族を囲む大パニックに。そのせいで暗殺者を逃がすことになってしまう。これはどのルートでも共通だ。

 その後のルイーゼは何故か完全回復まではしないので、病院に入院してワッキャウフフな展開になるんだって。

「おっ……続けてやるのか……ジュース探しに行かなくちゃ」

 フィリップの毒殺阻止方法は、グラスを交換しただけ。暗殺者の目の前にあるグラスを、フィリップの最高速で交換し、毒ジュースはアイテムボックスに保管。
 手の動きどころか姿すら見せない、ジュースに波すら起こさない超神業。フィリップはこの日のために、ダンジョンにこもってジュースの入れ替えをめっちゃ練習してたんだとか……

 それからフィリップはジュースを手に入れたらルイーゼの近くで交換し、エステルが地団駄踏む姿をニヤニヤしながら見たら、また人気ひとけのない場所に3人は集合した。

「本当に毒ですの! 本物かどうか舐めてみてはどうですの!?」
「そ、それだけはご勘弁を……」

 二度も失敗したのだから、毒が悪いとおっしゃるエステル。言いたいことはわかるが、暗殺者も即死する可能性のある物を舐める勇気はないみたいだ。

「そりゃ無理だよね~。でも、動物実験してから、後日またやるのか……猫にでも使いかねないから、いま処理したほうがいいかな~? でも、こいつが世界最高の暗殺者と繋がりがあるんだよね~……どうしたもんか」

 物語のキーマンを処理することに躊躇ためらっていたら、エステルも「猫や犬には使うな」と命令していたのでフィリップも一安心。どっちもペットには愛情があるらしい。
 結局のところネズミで実験するようなことを言っていたので、フィリップは暗殺者が建物から出て行くのを確認してからパーティー会場に戻るのであった。


 念の為ルイーゼとエステルを監視しに行ったフィリップは、しばらくそこでニヤニヤしていたらボエルが走って来て「勝手にウロチョロするな」と怒られていた。トイレにしては長すぎたもん。
 ボエルはフィリップが何を見ているのかと視線の先に目をやると、怒れるエステルの顔。

「うわっ。いつにも増して怖い顔だな」
「そりゃ婚約者がないがしろにされてるもんね~」
「いい加減、仲を取り持ってやれよ。このままじゃ、フレドリク殿下が婚約破棄するとか言い出しかねないぞ」
「おっ。ボエルも男女の機微がわかって来たじゃ~ん」
「殿下としょっちゅう見てるからな」
「ま、それなら彼女とも仲直りできるね」
「な、仲直り……なんで知ってんだ……」

 フィリップの唐突な発言に、ボエルは額から汗を垂らした。

「僕が気付いてないと思ったの? 最近ため息多いし、僕とすること多いんだも~ん。やっぱり、リネーア嬢のことであまり会えなかったのが原因??」
「なんでわかんだよ~」
「仕事と私、どっちが大事って言われたんだ~」
「だからなんでわかんだよ~~~」

 フィリップが全てを言い当てるので、ボエルも半泣き。なので相談に乗ってあげたけど、もう修復は無理かもしれない。

「仕事が大事は、ないわ~」
「なんでだよ? 金がないといい店にも連れて行けないだろ」
「それがわからないから怒るんだよ。さってと、父上のお仕事は終わったみたいだね。やっと帰れる~」
「オレはなんて答えたら正解だったんだ? なあなあ??」

 このあとフィリップはなかなか正解を言わず、リネーアたちに一言掛けてから皇帝の膝の上に乗ってお城に帰るのであった……

「で……なんて言えばよかったんだ?」
「彼女に決まってるでしょ! そのあと、仕事の言い訳するんだよ!!」
「ああ~……言い訳はなんて言うんだ??」
「それぐらい自分で考えなよ~~~」

 あまりにもボエルがしつこいので正解を教えてあげるフィリップであったけど、この正解は本当に正解になるかは彼女しだいと付け足したので、ますます正解がわからなくなるボエルであったとさ。


「殿下? 城に帰ったんじゃなかったのですか??」
「まぁまぁ。入れて入れて~」

 夜遅くにフィリップがやって来た場所は、寮にあるイーダの部屋。窓をノックしたら、イーダが不思議そうに招き入れてくれた。

「こないだ失礼なことしてしまったから、謝りに来たの。こっちにいてくれてよかったよ」
「あ……名前の件ですか……そうですよね。忘れるワケないですよね」
「そそ。僕たちの関係は秘密だもん。ゴメンね」
「はい。私も怒ってしまってすみませんでした」
「いいのいいの。久し振りにしよっか?」
「はい……」

 これがフィリップとボエルとの違い。謝る時は理由をちゃんと説明して謝罪するので、イーダも許してくれるのだ。

 ただし、フィリップはエステルの次の手を聞き出してから、悪い顔で帰って行ったけど……
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

死んだら男女比1:99の異世界に来ていた。SSスキル持ちの僕を冒険者や王女、騎士が奪い合おうとして困っているんですけど!?

わんた
ファンタジー
DVの父から母を守って死ぬと、異世界の住民であるイオディプスの体に乗り移って目覚めた。 ここは、男女比率が1対99に偏っている世界だ。 しかもスキルという特殊能力も存在し、イオディプスは最高ランクSSのスキルブースターをもっている。 他人が持っているスキルの効果を上昇させる効果があり、ブースト対象との仲が良ければ上昇率は高まるうえに、スキルが別物に進化することもある。 本来であれば上位貴族の夫(種馬)として過ごせるほどの能力を持っているのだが、当の本人は自らの価値に気づいていない。 贅沢な暮らしなんてどうでもよく、近くにいる女性を幸せにしたいと願っているのだ。 そんな隙だらけの男を、知り合った女性は見逃さない。 家で監禁しようとする危険な女性や子作りにしか興味のない女性などと、表面上は穏やかな生活をしつつ、一緒に冒険者として活躍する日々が始まった。

欠損奴隷を治して高値で売りつけよう!破滅フラグしかない悪役奴隷商人は、死にたくないので回復魔法を修行します

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
主人公が転生したのは、ゲームに出てくる噛ませ犬の悪役奴隷商人だった!このままだと破滅フラグしかないから、奴隷に反乱されて八つ裂きにされてしまう! そうだ!子供の今から回復魔法を練習して極めておけば、自分がやられたとき自分で治せるのでは?しかも奴隷にも媚びを売れるから一石二鳥だね! なんか自分が助かるために奴隷治してるだけで感謝されるんだけどなんで!? 欠損奴隷を安く買って高値で売りつけてたらむしろ感謝されるんだけどどういうことなんだろうか!? え!?主人公は光の勇者!?あ、俺が先に治癒魔法で回復しておきました!いや、スマン。 ※この作品は現実の奴隷制を肯定する意図はありません なろう日間週間月間1位 カクヨムブクマ14000 カクヨム週間3位 他サイトにも掲載

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

18禁NTR鬱ゲーの裏ボス最強悪役貴族に転生したのでスローライフを楽しんでいたら、ヒロイン達が奴隷としてやって来たので幸せにすることにした

田中又雄
ファンタジー
『異世界少女を歪ませたい』はエロゲー+MMORPGの要素も入った神ゲーであった。 しかし、NTR鬱ゲーであるためENDはいつも目を覆いたくなるものばかりであった。 そんなある日、裏ボスの悪役貴族として転生したわけだが...俺は悪役貴族として動く気はない。 そう思っていたのに、そこに奴隷として現れたのは今作のヒロイン達。 なので、酷い目にあってきた彼女達を精一杯愛し、幸せなトゥルーエンドに導くことに決めた。 あらすじを読んでいただきありがとうございます。 併せて、本作品についてはYouTubeで動画を投稿しております。 より、作品に没入できるようつくっているものですので、よければ見ていただければ幸いです!

処理中です...