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九章 物語が終わるまで夜遊び

200 帝都学院のパーティー

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 各派閥のパーティーを3日間ハシゴした皇族一同は、今日は帝都学院のパーティー会場にやって来た。

「よく学び、お前たちの手で帝国を繁栄させるのだ」

 理由は、子供の内に洗脳……は言い過ぎた。皇帝みずから声を掛け、生徒たちのやる気アップをはかるためにパーティーに出席しているのだ。
 スピーチが終わった皇帝は専用の席に座って、生徒たち1人1人に対応。握手をしたり、将来の話を厳しい顔で聞いてあげている。この顔は「子供、かわいいな~」って顔らしいけど、生徒からは怖がられている。

 ここは勝手知ったる学び舎なので、フレドリクとフィリップは別行動。フレドリクはエステルそっちのけでルイーゼや幼馴染みとワイワイやって、たまに他の生徒とも喋っている。
 フィリップは、ボエルと一緒にハミゴ。ボエルは「みんな楽しそうにしてるだろ? 誰かと喋れ。連れて来てやろうか?」って、公園デビューしたお母さんみたいになってる。

 そのことを断っていたら、同じボッチ仲間を発見したので、フィリップとボエルは近付いて行った。

「リネーア嬢、メイドさんも。来てたんなら声掛けてくれたらいいのに」
「も、申し訳ありません。緊張して、立ってるのもやっとだったモノで……」

 リネーアだ。対人恐怖症のリハビリのために無理して出て来たけど、人の多さに怖くなって動けなくなっていたみたいだ。

「友達とかと一緒に来なかったの?」
「まだそこまで仲がいい人は……」
「あらら~。それは寂しいね~」
「殿下が言うな。どのパーティーに行っても1人だっただろ」

 フィリップがリネーアを心配してあげているのに、ボエルが横からグサリ。千人以上の貴族と絡んでいたのに、ちゃんと喋ったのは2人とバラされてケンカになってた。
 いつも寮の一室でやっていたやり取りを見たリネーアは、緊張が少しやわらいだみたいだ。フィリップはそのノリを見せようと失礼なことを言ったみたいだけど、ボエルは容赦ないからけっこう怒っているな。

「もういいでしょ~。てか、紹介したい人がいたんだった。ついて来て」
「「「紹介したい人??」」」

 ボッチのフィリップにそんな人がいるのかと、ボエル、リネーア、マーヤはずっとヒソヒソしながらフィリップに続く。
 その声が聞こえていたフィリップは少し落ち込みながら、会場の端っこにいたモブっぽい生徒の前に立った。

「ねえ? ダンジョン攻略者の1人が、なんでまたボッチなの??」
「あの……その……」

 このモブっぽい生徒は、コニー・ハネス子爵令息。どうやらフレドリクパーティと一緒に城の祝勝会に出席してから、生徒の嫉妬が再発して「調子に乗ってる」と無視されているらしい。

「プププ……かわいそ」
「うっ……笑っていても、声を掛けてくれるのはフィリップ殿下ぐらいです」
「お兄様は助けてくれないの? てか、あの輪に入ったらいいじゃん??」
「あの中は、よけい孤独感がありますので……」
「アハハハ。そりゃそうだ。アハハハハ」

 ルイーゼ1人を4人の男で乳繰り合う中に入っていける男なんて、勇者しかいない。フィリップはそれが面白くて大笑いしていたら、ボエルがつついて来たので話を戻す。

「喋り相手のいない君には、リネーア嬢を貸してあげる。お兄様の武勇伝を聞かせてあげて。初耳だから、きっと楽しんでくれるよ」
「はあ……」
「リネーア嬢も聞きたいよね?」
「は、はい! 先輩は、ダンジョンの中で何をしていたのですか??」
「荷物持ちって、どうでもいいポジションだよ」
「はいはい。自分を卑下しないの。荷物持ちも、立派な貢献だよ」

 リネーアはフレドリクパーティーの話を聞きたいのに、コニーはまた昔みたいに自信を失っていたのでフィリップがフォロー。
 コニーの口数が増え、リネーアも目をキラキラさせた頃に、フィリップは一歩下がった。

「殿下にしては、いい人紹介したな」

 するとボエルも同じように下がって、リネーアたちの会話を微笑ましく見ている。

「殿下にしては、ってなんだよ~」
「わりぃわりぃ」
「本当は同じ学年の子がいいんだけどね~」
「あ、もう春には卒業か……」
「いっそのこと、皇族の権力をフルに使って留年させてやろうか……」
「やめろ。2年は死活問題だぞ」

 フィリップがマジな顔でコニーを留年させようと考えているので、ボエルもマジな顔で止めるのであった。


「ちょっとオシッコしたくなっちゃった。リネーア嬢のこと頼んだね」
「オレも行くぞ……どこ行った!?」

 しばしご歓談のなか、フィリップはボエルに頼み事をしたら、ダバダバ~っと走って行って人混みに突っ込んだ。
 そのせいで確実に見失ったボエルは、皇帝の前で見失ったことがバレるのはマズイと、リネーアそっちのけでフィリップを捜すのであった。


 悪役令嬢サイド。

「フッ……今日であの泥棒猫の顔は見納めですわ」

 エステルは邪悪な顔で、フレドリクと楽しそうに喋っているルイーゼの横顔を睨んでいた。その顔はこれから起こることを知っているイーダやマルタ、何も知らないその他の取り巻きも恐怖する顔。

「さあ……飲みなさい。飲むのですわ……」

 ウェイターからルイーゼに手渡されたグラス。その色は、いまから起こることを連想させるような赤色だった……

「飲みましたわね。プッ……我慢ですわ」

 ここで大声で笑ってしまうと、窮地におちいる。エステルは必死に我慢してその時を待つ。

「どうして……どうして死……席を外しますわ!!」

 しかし待てど暮らせど何も起きず。エステルは怒りの表情でパーティー会場を出て、人の目のない場所で目配せして呼び出しておいたウェイターと合流した。

「どうしてルイーゼは死なないのですの! 一口で死に至るとおっしゃっていましたですわよね? お前はこのわたくしにウソをついたのですの!!」

 ウェイターの正体は暗殺者。ルイーゼの毒殺が失敗に終わったからには、エステルは怒り狂うのであった……
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