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九章 物語が終わるまで夜遊び

198 派閥のパーティー

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 初めてのパーティーは、第二皇子に取り入ろうと貴族の娘のメイドが群がり出したので、フィリップは安全地帯に退避。
 皇帝とフレドリクの間なので、つまらない話ばかりを延々と聞かされて、やっとこさ城の自室に帰って来たら、ボエルがニヤニヤしながら声を掛ける。

「お疲れ……プププ。めっちゃ疲れてんな」
「笑わないでよ~。あんなにつまらないパーティーなら、誰だって疲れるって~」
「それが仕事だろ。なに甘えたこと言ってんだ」
「僕、13歳になったばかりだよ? まだまだ子供なのに働かせるって、どんだけブラックなんだよ~」
「皇子だからだ。フレドリク殿下なんて、5歳から立派にパーティーに出てたらしいぞ」
「お兄様は頭がおかしいんだよ~」
「殿下のほうが恐ろしくおかしいぞ?」

 フィリップが何を言おうとも、ボエルには通じず。しかしフィリップが「明日から出ない!」とか言い出したので、ボエルも機嫌を取ってマッサージするのであった。


 翌日のフィリップはブーブー言いながらも着替えてくれたので、ボエルも一安心。フィリップを皇族用の馬車に乗せたら、ボエルは従者用の馬車にスカートの中ほどを掴んで走る。
 皇族用の馬車に乗った皇帝の膝に乗ったフィリップがやって来た場所は、大きなお屋敷。今日のお仕事は、ここの当主がパーティーを開いて招待状を送ったから、顔を出すだけの簡単なお仕事だ。

 正確にいうと、このパーティーは派閥以外の貴族を呼び込むパーティーで、接待して派閥の規模を大きくすることが目的。
 そこに皇帝が出席すると重要視しているとわかるから、次の日から主催者がモテモテになって、派閥が自然と大きくなるのだ。

 皇族がパーティー会場に到着すると、パーティーはそっちのけで注目を集める。もちろん主催者は、従者から報告を受けているので会場の入口にてお辞儀をして待っていた。

「ようこそ。皇帝陛下。存分に楽しんで行ってください」
「うむ。楽しませてもらおう」
「フレドリク殿下。こちらへどうぞ」
「……ああ」

 顔を上げたのは、ダンマーク辺境伯一家。当主のホーコンは皇帝と喋りながら奥に向かい、エステルはフレドリクと腕を組んで跡に続く。

「え? 僕は??」

 でも、フィリップは誰も参加するとは思われていなかったのか忘れ去られていたので、キョロキョロするしかできないのであったとさ。


 あとから入って来たニヤケ面のボエルに肩をポンッと叩かれたフィリップはグチグチ。ボエルは忘れられていることに大笑いしたかったけど、皇族が揃っているのでこれが限界の笑い方らしい。
 そんなことをしていたら、ダンマーク辺境伯のメイドが焦りながら走って来たのでフィリップは文句。ここのメイドは城とは違い平民なので、第二皇子が怒っているから切腹する勢いで謝罪していた。

「冗談冗談。怒ってないから、パンツ見せて~」
「はいっ! 寛大な処置……パンツ??」
「無視してくれ。殿下は本当に怒ってないから、無視して大丈夫だ」
「はあ……」

 怖がらせてしまったとフィリップが反省したまではよかったが、セクハラするモノだからボエルが対応。メイドは首を捻りながらフィリップたちを皇帝たちのテーブルに案内するのであった。


 ここでしばしご歓談。ホーコンは皇帝と喋っていたが、途中から「独り占めはよくないな」と言って、派閥の者を紹介する。
 その者は1人だったり家族だったりと皇帝に挨拶だけして、お隣のフレドリクやフィリップに当たりさわりのない言葉を掛ける。その時、エステルが「誰それ」と紹介することが婚約者の仕事のひとつだ。

 フィリップはやっぱり面白くないと、聞いてるフリして品定め。女性ばかり見ていたら、知り合いが目の前にいることに気付くのが遅れた。

「フィリップ殿下……どこ見てるのですか?」
「大人の女性~。てか、イー……なんだっけ? 先輩だよね??」
「イーダです! 挨拶しましたよね!?」

 エステルの取り巻きだ。イーダも親に挨拶して来いと言われたから、マルタと一緒に来たけど、あんなことをしているのにフィリップが名前を呼んでくれないから怒ってしまった。
 フィリップは名前を言い掛けたから、皆に知り合いと思われないようにごまかしただけなのに。

「そっちの子も見たことある……デ、デ、デ……」
「マルタです……かすりもしてません……」
「ゴメ~ン。顔と名前覚えるの苦手なの~」

 マルタは一文字目から出て来なかったので、イーダは少し勝利した気分。ちなみにフィリップが言おうとした名前は、マルタのふくよかな体型を表した言葉。マルタが止めてくれたから「セーフ」とか思っているけど、完全にアウトだ。
 そんなこととは露知らず、挨拶の終わったイーダたちはそのまま近くに残って、他の生徒はどうするのかと見てる。

「フィリップ殿下、終業式以来ですね」
「……誰だっけ?」
「クラスメートです!」
「……マジで??」
「もういいです!!」

 クラスメートすら覚えていなかったので、イーダは勝ち誇った顔。フィリップは上級生や下級生にも挨拶されていたが、全員名前を言えず怒らせていた。

「まだ顔を覚えていたからマシですね」
「ええ。クラスメートがかわいそう……」

 なので、イーダもマルタも呆れて自分の席に戻るのであった。


 それから社交ダンスになったら、フレドリクとエステルはキレッキレのダンス。一曲だけで時間いっぱいとなったので、皇族は退場となる。
 フィリップは馬車に乗り込むと皇帝の膝に乗ったけど、フレドリクが来ないまま扉は閉められた。

「お兄様は?」
「エステルと違う馬車だ」
「あ、婚約者だからか。次は僕もそっち乗ろうかな~?」
「俺と2人きりは嫌ってことだな……」
「イ、イヤなら膝に乗ってないよ~」

 本当は皇帝と2人きりも膝の上も嫌なフィリップだが、皇帝が怒ったような顔をするので、どちらも嫌と言えないのであった。

 皇帝のこの顔は、悲しんでいる顔らしいけど……
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