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八章 夜遊びの自主規制
175 フィリップの土下座
しおりを挟む「酷いモノだった……」
ニコライ・アードルフ侯爵令息たちから暴力を受けていた女子生徒の体を隅々まで調べたボエルは、暗い顔で寝室から出て来た。
「報告の前に、これ持って行って」
「お茶? 殿下が入れたのか??」
「早く~」
「わかったけど、なんで入れられるんだ??」
首を傾げるボエルはフィリップに押されて再び寝室に。単純にフィリップは、待ち時間が暇だし喉が渇いたから入れただけだ。
そうして戻って来たボエルにも紅茶を入れたフィリップは報告を聞く。
「けっこう旨い……」
「お茶の感想じゃなくて~」
「あ、ああ……」
フィリップの入れた紅茶はボエルに好評。ただ、女子生徒の体の報告する時には一気に暗い顔になっていた。
「全身アザだらけどころか、切られた痕もあったんだ……」
「ああ。何ヵ所か痕が残るだろうな。かわいそうに……」
「わかった。ボエルはあの子のこと見ていて。ちょっと出掛けて来る」
「いや、オレも行くぞ。仕事だ」
フィリップが立ち上がるとボエルが同時に立ち上がるので制止する。
「いまはあの子の傍にいてあげて。安心するからね」
「でも……」
「これも仕事だよ。絶対に目を離さないで。あんなことされてたんだから、何しでかすかわからないよ」
「あ、ああ……わかった。任せておけ」
ボエルは納得したら寝室に向かい、フィリップは部屋から出て行くのであった。
「聖女ちゃ~ん、か~してっ」
フィリップがやって来た場所は、お隣なのに入口が遠くにあるフレドリクの部屋。かわいく言ってみたけど、フレドリクの機嫌は悪そうだ。
「何が目的だ?」
「さっきはふざけて言ってゴメン。聖女ちゃんに治してほしい患者がいるんだ」
「それならば、私も立ち合おう」
「ゴメン。それは勘弁して」
「何故だ? 怪我か病気を治すだけだろ?」
フレドリクはどうしてもルイーゼを単独で貸し出したくないように見えるので、フィリップも最終手段。
「何も聞かず、貸してください。お願いします!」
ジャパニーズ土下座だ。さすがにここまでやられては、フレドリクも不機嫌な顔が元に戻った。
「そこまでするということは、私を巻き込みたくないということか……」
「深く考えないで。お兄様が考えたら、すぐに正解に辿り着きそうだから」
「……わかった。ただし、ルイーゼは私が連れて来る。部屋の前でも待たせてもらうからな」
「うん。ありがとうございます」
「いい加減、土下座をやめろ。私たちは家族だろ」
フレドリクは優しい兄の顔に戻り、フィリップの手を取って立たせる。そうして一緒に部屋を出て、フィリップが自室の前で待っていたら、フレドリクと共にルイーゼがやって来たのであった。
「こっちこっち。寝室に患者がいるの。聖女ちゃんには手を出さないから信じてね」
「はあ……」
フィリップから酷い口説かれ方をされたことのあるルイーゼは警戒中。そんなヤツの言葉は、ますます信じられないって顔をしてる。
その顔をフィリップはニヤニヤ見ながら、寝室のドアを開けて入室するように促す仕草をした。
「患者はベッドにいる子。隣は執事に見えてお姉さんだからね。見たことあるでしょ?」
「はあ……あの子も特に何もないように見えるんだけど……」
「あまり言いたくないけど、服で隠れているところが酷いの。僕は外にいるから確認して綺麗にしてあげて。頼んだね?」
「うん……」
まだ警戒しているルイーゼを寝室に入れたら、フィリップはドアを閉めて待ち惚け。また暇潰しに紅茶を入れていたら、寝室のドアの隙間から光が漏れてボエルの興奮する声が聞こえて来た。
それからおよそ1分後に、顔をグシャグシャにしたルイーゼが寝室から出て来たので、フィリップはギョッとしてる。
「ど、どうしたの? 凄い顔になってるよ?」
「だってぇ~。あんなに怪我だらけだったんだも~ん。え~~~ん」
「いや、どうしてああなったかなんて知らないでしょ?」
「知らないけど、かわいそうなんだも~~~ん。うわ~~~ん」
ルイーゼ、感情移入して泣きすぎ。こうなってはフィリップも、フレドリクに返すのは怖そうだ。冤罪を掛けられそうだと……
「泣きやんで? ね?」
「泣いでまぜ~ん。え~~~ん」
「え~んって言ってるし……あの、このことはお兄様に言わないでほしいんだけど、大丈夫?」
「どうじで~~~?」
「あの子の尊厳を守るため。お兄様にも迷惑かかるかもしれないんだ。お願い!」
「わがっだ~。え~~~ん」
「本当にわかってるのかな~?」
こんなに泣かれてはフィリップも自信は持てないが、このままにもしておけないので、寝室のドアだけ閉めて部屋の外に待たせていたフレドリクを呼びに行った。
「あのね。聖女ちゃん、患者さんに感情移入しまくってめっちゃ泣いてるの……僕、本当に何もしてないからね? 引き取ってください!」
「ああ。たまに泣くことがあるからわかっている。もういいんだな」
冤罪事件は起こらず。フィリップは心の中で「セーフ!」と両手を広げてフレドリクを招き入れ、まだ泣いていたルイーゼを押し付けるのであったとさ。
フレドリクたちを追い出したフィリップは、寝室をノックしたら、しばらくして興奮したボエルが出て来た。
「すげぇすげぇ! 聖女様、マジですげぇ!」
「声が大きいって。あの子が怖がるでしょ」
「あ、ああ。すまん。でも、あんなにアザや傷痕だらけだった体が、何もなかったように治ったんだぞ?」
「それぐらいやってくれなきゃ、聖女じゃないでしょ」
「そうだけどよ~」
ボエルがまだ食って掛かりそうだったので、フィリップは話題を変える。
「てか、侯爵家のニコライに『テメェ』とか言ってたでしょ? 下手したら、不敬罪とかになってたんだからね」
「あ……そういえば、助けられて……いや、殿下は公衆の面前でオレの胸を揉んだよな?」
「アレは~……手を出したところにたまたま胸があったみたいな?」
「い~や。5回は揉んでたね。絶対にわざとだろ?」
セクハラしたのは事実なので、結局は食って掛かられるフィリップであったとさ。
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