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八章 夜遊びの自主規制

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「あの~? 本当にエステル様を助けるために動いてます??」

 2学期に入って10日。今日もフィリップがイーダの部屋に忍び込んで来たので、開口一番問い詰めた。

「なんのこと? あ、今日は服を着たままやりたいんだね。いいね~」
「まったくよくありません!」
「ちょちょちょ、ちょっとだけだから~」

 どう考えても質問と答えが違っていたが、フィリップは強引に服を着たままマッサージ。イーダも途中からメロメロだ。

「それで~……なんだっけ?」
「きゅうぅぅ~……ハッ!?」

 フィリップが満足した頃に質問してあげたら、イーダは忘れかけていたけどなんとか思い出した。

「ですから、ニヤニヤ見てるのは、どこが助けることに繋がるのですか!」

 そう。フィリップはイジメが起こりそうな日時を聞いたら、必ずそこに現れてニヤニヤ見ているだけだからイーダも我慢の限界なのだ。

「僕がその場にいることが証拠だよ。エステル嬢は手を出してなかったじゃない? あとから嫌味言っただけでしょ?」
「そ、そうですけど……今日はフレドリク殿下と言い争いになったじゃないですか~。その時、助けてくれてもよかったじゃないですか~」
「エステル嬢が正しいこと言ってたから、お兄様ならわかってくれると思って見てたんだけどね~……2人の剣幕が怖かったから。てへ」

 フィリップが舌を出して笑うので、イーダもイラッと来た。

「役立たず……」
「いま、なんつった??」
「あ……」

 聞こえないように小声で言ったつもりでも、フィリップに聞かれてしまったのでイーダもやってしまったと青ざめる。

「申し訳ありせん! どうか、お許しを!!」
「だから、なんつったの?」
「あの……その……」
「早く言えよ」
「や、役立たず、と……申し訳ありませ~~~ん!!」

 フィリップが珍しく怒っているので、イーダも謝罪しかできない。

「あ、役立たずか~。僕のアレが立たないって言われたのかと思ったよ~」
「……へ??」
「役立たずなんて、いつも言われてるから怒るわけないじゃん」
「はあ……」
「ま、そんな僕に過度な期待はしないでね。僕が得意なの、マッサージだけだも~ん。もう一回しよ?」
「はい……」

 フィリップが怒っていた理由は、男のシンボルのことだったのでイーダもポカン顔。
 さらに悪口で怒らないどころか役立たずを認めた上に、エロイ顔で求めて来るので、イーダも「こいつを頼った私がバカだった」とか思いながらフィリップを受け入れるのであった。


「あ~。ヤバかった~……手助けするなんて言ってしまったから、強く拒否したらおかしいもんね~。これでもう助けてくれなんて言って来ないかな?」

 自室に戻ったフィリップは、ベッドに飛び込んで独り言。どうやら怒っていたのは演技で、自分の無能っぷりを刷り込ませていたみたい。

「でも、それもアリかもな~……フィリップルートに戻せなかったから、兄貴との決闘はもうできないと思うし……見てるだけってのも、物足りないか。よしっ!」

 考えがまとまったフィリップは体を起こした。

「悪役令嬢の死亡フラグを片っ端から折ってやろう。んで、兄貴と婚約破棄するだけのラストにしたら、僕にもワンチャンあるかも? あの大きな胸を、ムフフフ」

 こうしてフィリップは、乙女ゲームを違う角度から楽しむことを、エロイ顔で誓うのであった……


 エステルを助けるといっても、フィリップのやることはいつも一緒。情報を仕入れて、ルイーゼがイジメられる現場に出向いてニヤニヤ見るだけ。
 やりすぎの場合は、いつもより近くでガン見。第二皇子が何を言うワケもなくニヤニヤ見ているので、加害者もどうしていいかわからなくなって「今日はこのへんにしといたらぁ~」と去って行く。
 ボエルもそれに付き合わされることが多いので、「こいつ、いつも何してんだ?」と呆れ顔。もうフィリップを止めることもとがめることも諦めたみたいだ。

 たまにフレドリクとバッティングすることもあるけど、その場合はフィリップは即逃走。隠れて覗き見て、あとからフレドリクの事情聴取に応じる。ボエルが見付かっているらしい。
 事情聴取は真実と噓をまじえて語るので、いまのところフレドリクは信じている。でも、何度も見ているのにルイーゼをぜんぜん助けないことは注意されていた。

 そんな日々を過ごしていたら、夜にイーダから悪い知らせ。これは授業中にあるので、翌日フィリップはクラスメートの目を盗んで素早くベランダに出ると、屋上に登った。
 そして逆側に走り、授業中だからと確認をおこたって校舎の裏手に飛び下りた。

「あ……」
「「「……フィリップ殿下??」」」

 そこには、身分の高そうなオーラを放つ体操服姿の男子生徒たちが1人の生徒を囲んでいたから、フィリップがそのド真ん中に降って来たので見付かっちゃった。

「えっと……なるほど。そういうことか」

 全員が固まっているのでフィリップは現状を確認したら、フレドリクパーティの荷物持ち、コニー・ハネス子爵家令息のモブっぽい顔に殴られたあとがあったので、リーダー格の生徒に喋り掛ける。

「男でも嫉妬するんだね~。格好悪いから、やめときな」
「嫉妬? そんなものではございません。その者が、私の役目を横から奪い取ったのです」
「どうせ荷物持ちなんてやりたくないから、こいつに押し付けたんでしょ?」
「い……いえ!!」

 フィリップがイジメの理由を当てたので、男子生徒は少し間が開いてしまった。

「その浅知恵がほまれを逃したんだよ。お前は戦の時にも同じことしそうだな~……名前、なんて言うの? お兄様と父上に報告しとくよ」
「名前!? いや、その……」

 第二皇子のその上を出したら、男子生徒たちは蒼白でシドロモドロだ。

「言いたくないんだ~……ま、僕も授業サボってるの知られたくないから、今回はお互い見なかったことにしよっか? もう行っていいよ」
「「「はっ! 寛大な処置、痛み入ります!!」」」

 あとは折中案を出しただけで、男子生徒たちは脱兎の如く逃走。脅して口を塞いだともいう。あとは口を塞いでいないのは、コニーだけだ。

「助けてあげたんだから、今日のことは秘密にしてくれるよね?」
「は、はい! ありがとうございました! で、でも、なんでボクなんかを……」
「うちの執事に面白い話を聞かせてくれたじゃない。その借りを返しただけだよ。んじゃ、僕は行くね~」
「ありがとうございました~~~」

 フィリップは振り返りもせずに去って行くので、「第二皇子は噂で聞いていたより、いい人でカッコイイ人だ」とコニーに記憶されるのであった……

「あの……何してるんですか?」
「シーッ! シーッ!!」

 でも、コニーが授業をやっている場所に向っていたら、植え込みに隠れて運動場にいる女子を覗いているフィリップを発見して慌てた顔を見たので、「カッコイイ人」は記憶から消されたのであったとさ。
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