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七章 珍しく昼遊び
169 祝勝会
しおりを挟むフィリップがボエルに抱えられてやって来た場所は、寮の1階にある大食堂。祝勝会は身分は忘れて分け隔てなくやろうと、ここを選んだらしい。
そこに放り込まれたフィリップの服をボエルが直そうとしたけど、体服服だったので「しまった!?」とか言っていた。着替えに戻るのは面倒くさいフィリップは「これでいい」とか言いながらスタスタと歩いて行った。
フレドリクパーティの周りは生徒でギュウギュウであったが、フィリップが一番後ろにいた生徒の背中をポンポンと叩いて自分を指差し「ボクボク」と言うだけで道が開く。
ここぞとばかりに第二皇子の権力を使ってこじ開け、その道をボエルを伴って通ったフィリップは、フレドリクの前に立った。
「お兄様。おめでと~う」
「ああ。フィリップ。ありがとう」
「聞きたいことはいっぱいあるけど、今日はみんなに譲るね。お疲れ様~」
「それは兄として寂しいぞ~」
最低限の言葉だけしか掛けずに撤退するのだから、フレドリクは本当に寂しそうな顔をしていたが、フィリップは元来た道を戻る。ボエルはめっちゃ聞きたいのかフィリップの服を摘まんでいたけど。
「アハハ。大人気だね~。モグモグ」
「食ってないで、もう一度フレドリク殿下のところ行かないか?」
会場は立食パーティのようになっているので、後方に移動したフィリップは適当にモグモグ。ボエルはまだ諦め切れないみたいだ。
「ボエルは意外とミーハーなんだね~」
「ドラゴンだぞ? そんなの物語の中にしか出て来ないんだから、聞きたいに決まってるだろ」
「今度、お兄様に時間取ってもらって落ち着いて聞こうよ。同席させてあげるから。ね?」
「やった!」
ボエルが女子っぽくないガッツポーズをしたその時、フィリップはある生徒に目が行った。
「あ……あそこで1人で食べてるヤツ、お兄様の荷物持ちじゃね?」
「荷物持ち??」
「知らないの? お兄様たちがダンジョンに行く時に、必ず連れて行っていた生徒だよ」
「知らねぇ……てか、なんで殿下はそのこと知ってんだ?」
「たまにダンジョン見に行ってたの~」
「え? オレの目を盗んで、そんなところ行ってたのか? 入ってないだろうな??」
ちょっと失言してしまったフィリップは、やれやれって仕草でごまかす。
「なんでわざわざ危険な場所に入らなくちゃいけないの。それより彼なら、お兄様のこと聞き放題だよ?」
「マジか!? でも、身分はどれぐらいだろ。オレが喋り掛けてもいいもんか……」
「んじゃ、僕がついてってあげるよ」
「やった!」
フィリップはモブ生徒の下へ行くと、ボエルにゴニョゴニョと伝えて今日の出来事を喋らせる。モブ生徒には声を聞かれたから、念の為バレないように処置したみたいだ。
ちなみにモブ生徒の名前は、コニー・ハネス。名前までモブっぽいとフィリップは笑っていたけど、子爵家の次男と聞いて怒っていた。もっと身分は低いことを期待していたみたいだ。
コニーから熱心に話を聞くボエルとは違い、フィリップは全部知ってるから料理を食べながら周りを見ている。
そうしていたら、第二皇子がいると近付いて来た他の生徒や従者もコニーの話に聞き入っていたので、フィリップは居心地が悪くて抜け出した。
生徒はフレドリクパーティとコニーを囲んでいるから人の輪はふたつできたので、フィリップはちょうど大きな空間になっている場所に陣取ったら、対面に同じことをしている悪役令嬢を発見したのであった。
ところ変わって悪役令嬢サイド。
「キィィー! ルイーゼのヤツ、殿下とあんなに親しげにして……」
悪役令嬢エステルは、ハンカチを噛んでフレドリクの傍にいるルイーゼを睨んでいた。
「まったく……平民上がりのクセに生意気ですよね。フレドリク殿下のお隣は、エステル様が一番お似合いですのに」
取り巻きの太っちょマルタは、エステルを宥めるのではなく焚き付けながら料理をバクバク。2人で悪口を言い合っている。
「イーダもそう思いますよね?」
「え? あっ! はい!!」
それなのにもう1人の取り巻きのちびっこイーダが話に入らずに明後日の方向を見ていたので、マルタがつついたら戻って来た。
「最近、たまにボーッとしてますわよね? 何かありまして??」
エステルは睨んでいるような怖い顔で質問しているけど、これは通常の顔なのでイーダはそこまで怖く感じないらしい。
「いえ、なにも……」
「あちらを見てましたわよね? あ……フィリップ殿下……」
そう。フィリップがニヤニヤしながらエステルを見ていたから、イーダは気になって話を聞いていなかったのだ。
「あの方、いつもわたくしを気持ち悪い顔で見てますけど、どうしてなのですかね」
「え? 気付いていたのですか??」
「気付くに決まっていますわ。どこでもあの顔をしていて気持ち悪いのですもの」
「で、ですよね~。私も気になって気になって仕方がなかったのです。やめてほしいですよね~」
「ええ。皇族ですから気やすく言えませんし……でも、よかったですわ」
イーダが話を逸らすとエステルは乗っかってくれたので、助かったと思ったのは束の間。
「あなたがフィリップ殿下のことを好いているのかと思っていましたわ」
「すっ……ゲホッ! ゲホゲホ!!」
好きどころか体を許し、あわよくば結婚も夢ではないイーダがそんなことを言われたら咳き込むのも当たり前だ。
「大丈夫ですの? ま、まさか本当に……」
「ち、違います! あんな女癖の悪い人、こちらから願い下げです!!」
「そこまで言わなくても……本気ならば取り持ってあげようと思いましたが、嫌がっている親友をそんな男の下に嫁がせるのも悪いですわね」
「は、はい。イヤです……」
イーダ、焦りすぎてチャンスを棒に振る。エステルが交際を認めてくれたら脅しのネタが1個減ったのに、もう言い出せなくなってしまうのであった。
フィリップサイド。
「あぁ~。悪役令嬢の嫉妬した顔とか怒った顔、かわいいな~。なんかこっち嫌そうな顔で見てるな~。その顔もかわいいな~」
フィリップがニヤニヤしているのは物語を楽しめるのもそうだが、一番は推しキャラが見れて嬉しいから頬が緩みっぱなしだから。
しかし、どれだけ想っていても、エステルからは気持ち悪がられているんだけどね。
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