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六章 夜遊び少なめ

131 帝都学院

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 帝都学院に到着する予定であった馬車が正門を通り過ぎると、フィリップは後ろ向きに窓に張り付いて外を見ていた。

「な、なんで馬車を止めないんだ!? まさか登校しないつもりか!?」

 なので、今度はボエルが焦ってフィリップの制服を掴んだ。

「行くよ。行くけど、僕は裏口から入る。ボエルは正門から入って。馬車を止めろ!」
「はい? そんなのできるわけないだろ!」
「お願い! 校舎の入口で合流ね!!」
「殿下!? なんで開かないんだよ!!」

 脅されている御者が馬車を止めた瞬間にフィリップは飛び降り、氷魔法で扉のカギを閉めてから、ダバダバ~と走って行ったのであった……


 それからフィリップは、角を曲がった死角に入ったところで柵を跳び越えて校庭に侵入。木や花壇に身を隠しながら、正門の近くまで戻って来ていた。

「やっぱりだ……兄貴とイケメン4が揃ってる……これってアレだよな?」

 乙女ゲームでのフィリップの登場シーンは、みっつある。ひとつめはヒロインが会うのをすっかり忘れた、フィリップがモブになってしまうもったいないルート。
 ふたつめはいじめっ子に追われるヒロインが、馬車から降りたフィリップとぶつかる単独ルート。ここからヒロインが選択を間違わなければゴールインとなる。
 もうひとつは単独ルートではなく、ヒロインのラストが複数の男性に囲まれる逆ハーレムルート。その出会いは、フレドリクがヒロインたちを連れてフィリップを紹介するのだ。

「なんで一番難しいルート進んでんの!? 逆ハーレムなんかに加わりたくないよ~~~」

 そう。フィリップは、こう見えて純粋。1人の女性を複数の男性で共有したくないから、登場シーンを逃げ出したのだ。

「てか、聖女ちゃん、ずっとこっち見てないか? こっちには特に何もないはずなんだけど……念のため逃げとくか」

 フィリップはヒロインの視線が気になるので、時々止まって後ろを見つつ校舎の裏に回り込む。

「ずっとついて来てるんだけど……フィリップに会わないと、何かイベントが発生するのかな? とう!」

 誰にも見られない場所まで移動したフィリップは、風魔法に乗って大ジャンプ。校舎の屋上に登ったら、ワクワクしながら下を覗き込む。

「聖女ちゃん、ずっとキョロキョロしてるな……あ、帰って行った。なんだったんだ?」

 ようやくヒロインたちが動き出すとフィリップは上から跡を付け、校舎に入って行く姿を確認したら登った場所まで戻った。
 すると予鈴が鳴り出したので、フィリップは慌ててヒモなしバンジー。一般人が走る速度で入口に急いだ。

「何してたんだ!?」
「ゴメ~ン。道に迷ってた~」

 そこではボエルが怒っていたからフィリップは手を合わせて謝罪。大ウソだけど……

「初日から遅刻はマズイ! 急ぐぞ!!」
「はいは~い」
「走れよ!!」

 今度はボエルが焦り、フィリップの手を引いて職員室に放り込むのであったとさ。


 結局のところ、教室に入るのはちょいと遅刻したフィリップだが、皇族なので誰も責めはしない。フィリップもヘラヘラ笑いながら先生に自己紹介させ、席に着いた瞬間に寝た。

 そんなやる気のないフィリップは置いておいて、帝都学院の説明をしよう。

 ここ帝都学院は、カールスタード学院と同じく5年制。10歳から15歳まで勉学に励み、卒業後は国の要職に就いたり領地で働くことになる。
 生徒のほとんどは貴族。いちおう平民も募集しているとなっているが、高い寄付金を払える豪商の子供ぐらいしか通えないし、その者でも差別されることが多いので敬遠しているらしい。位の高い貴族が贔屓ひいきにしていれば別だが。

 校舎は立派な石造りの3階建て。かなり広いので5年生まで全員収めた上に、各フロアに大食堂があり、豪華なラウンジや談話室が何個もある。さらに従者の控え室も各フロアに完備されている。
 1階は職員室と1年生の教室。2階は2、3年生が学び、3階では4、5年生が授業を受けている。フィリップは3年生からの編入なので、2階で寝てる。
 授業内容は、カールスタード学院より高度な内容。もしもカールスタード学院の生徒がテストを受けたら、10点代を連発するだろう。

 その他の施設は、運動場、室内運動場、剣や魔法の訓練場、その室内訓練場、大図書館、旧館、ダンジョン等々。
 校舎だけでも巨大なのに、その他の施設も大きい物が多いから敷地面積も広くなるので、一部の生徒は移動に馬車を使っているらしい。


 校舎の対面、フィリップが通った広い道を挟んで越えた場所に寮がある。こちらも豪華な石造りの3階建てなので、フィリップは胸を撫で下ろしていた。
 その理由は、上に行くほど位が高くなるから。カールスタード学院の6階はしんどいとかじゃなくて長い階段が面倒だったんだって。

 寮の3階は皇族が一番広い部屋。公爵家がその半分、侯爵家はさらに半分の広さになっていて、全てキッチン、トイレ、お風呂完備だ。
 2階からは位が高い生徒や、上階の者に優遇されている生徒から広い部屋が与えられて、トイレ、キッチン、お風呂は広い部屋だけ用意されている。部屋が狭くなるに連れて1個ずつ減るそうだ。

 1階はほとんど同じ位なのでこじんまりした個室しかない。キッチン、お風呂、トイレは全て共用。ただし、お風呂は広くて解放感があるので、フレドリクも使うことがある。解放感が目的ではなく、プレイヤーを喜ばせる仕様だ。
 従者用の個室も各フロアに配置され、狭いながらも居心地のいい作りになっているから、帝都学院に行くことは喜ばれるそうだ。従者には従者用の食堂、トイレ、お風呂が全て共用であり、ここしか使ってはいけないことになっている。
 ちなみに女子寮は、建物の逆側で同じ作り。廊下が繋がっているから男子寮と行き来可能なので、説明を聞いたフィリップは興奮してたんだって。3階なんて、そんなに女子はいないのに。

 制服は、カールスタード学院ほど派手ではなく、黒を基調とした上品なこしらえ。最高級の生地を使っているから、売ればこれ一着で平民なら1年を余裕で暮らせるそうだ。

「んが……やべ。ヨダレ垂れた」

 それなのにフィリップは、帝都学院初日に制服の袖をヨダレで汚していたとさ。
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