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六章 夜遊び少なめ

130 初登校

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 フィリップがカールスタード王国から呼び戻されて2週間、ついに帝都学院の新学期の前日となった。この頃にはフィリップもキャロリーナと遊ぶことは短時間だけで、完全な昼型で生活していた。

「坊ちゃま。こちらが新しいメイドです」
「お初にお目にかかります。オ…私はリーバー家の長女、ボエル…です。よろしくお願いします」

 フィリップの部屋にアガータが連れて来たメイドは、ベリーショートでやや日焼けした背の高い女性、準貴族のボエル・リーバー18歳。たどたどしい喋り方はフィリップはまったく気にせず、上から下まで舐めるようにジックリ見てる。

「な、なにか?」
「あ、ゴメン。気持ち悪がらせたね。前のこともあったから警戒しちゃって」
「あ~……フリューリング侯爵家の……」
「今回は大丈夫そうだね。よろしくね~」
「はっ!」

 フィリップがエロイ目をやめて挨拶するとボエルも警戒を解いた。これでアガータの仕事は終わったので本来の職場に戻り、ボエルはさっそく仕事に取り掛かる。
 ヴィクトリア・フリューリング侯爵令嬢とは違い、ボエルはテキパキと部屋の掃除をしてくれているので、フィリップも感心して見ている。

「あの……そんなに見られるとやりにくいというか……」

 いや、ゲスイ目で体を見ていたので、さすがにボエルも気持ち悪くて口に出しちゃった。

「ゴメンゴメン。前のヤツが酷すぎたから、感動しちゃって~」
「そんなに酷かったん…ですか」
「一切お世話してくれなかったんだよ? 全部、自分でやるしかなかったの~」
「マジかあの女……」
「マジマジ。てか、ボエルはちょいちょい言葉詰まるよね? 貴族の女性が『マジか』なんて汚い言葉も珍しい」
「も、申し訳ありません」
「いいよいいよ。僕なんかに気を遣わなくていいから。ま、偉そうな人の前だけは気を付けたほうがいいかな~?」
「はっ!」

 とりあえずボエルは掃除に戻り、フィリップが雑談というかヴィクトリアの話を振ってみたら、帝都学院でクラス違いの同級生だったとのこと。ヴィクトリアはその頃から横暴だったので、殴ってやろうかと思っていたらしい。
 さらには、決定していた第二皇子専属メイドを権力とお金で横取りされたから、怒り爆発。再燃した怒りのせいで、ボエルの喋り方が崩れまくった。

「オレ??」
「あ……」

 そして一人称も変わったので、フィリップは目を輝かせている。

「父が騎士をしていて、私もその粗暴な喋り方が移ったというか……どちらかというと、そっち方面に進みたかったというか……」
「そっち方面って、女性が好きってこと?」
「ちちち、違う!? 騎士の道だ! オレは女なんて!?」

 ボエルが急に顔を真っ赤にして大声を出すので、フィリップはキョトンとした顔になった。

「も、申し訳ありません……」

 その顔を見て、ボエルは失礼が過ぎたと頭を下げた。

「謝る必要なんてないよ。それに、自分の性がおかしく感じている人なんて五万といるんだから、恥ずかしがる必要はないと僕は思う。あ、違うんだったね。ちょっと僕はお昼寝するから、何かあったら声掛けてね~」
「はい……」

 フィリップはそれだけ言うと、手をフリフリ振って寝室に入るのであった。


 寝室のベッドに飛び込んだフィリップは、こんなことを考えていた。

(あの子、乙女ゲームでは顔しか出て来なかったから知らなかったけど、オレッ娘だったんだ)

 そう。フィリップは乙女ゲームの登場人物が出て来たから舐めるように見ていただけ。さらにモブにもこんな設定があったのかと驚いていたのだ。

(ボーイッシュでオレッ娘なんて、そそるな~。なんとか男好きに引き込めないものか……)

 でも、性格は変えられない。エロイ顔をしてゴソゴソしてるよ。
 そんなことをしていたらノックの音が響いたので、フィリップはドキッとして返事の声が裏返っていた。そして平常心で入室を許可したら、ボエルが入って来たのでフィリップはベッドに寝転んだまま話をする。

「さっきの話……本当なのか?」
「さっきのって??」
「五万といるってヤツだよ」
「あ~。性同一性障害ね」
「性同……なんて??」
「性同一性障害だよ。自分とは同じ性の人を好きになる病気……じゃないな。神様が間違って、体とは違う性を入れてしまった人のことね。五万といるってのはいっぱいという意味だけど、正確には少数ね。でも、帝国人のうち数パーセントは必ずいると思うから、少なくとも十万人はいるんじゃないかな~?」

 フィリップが長々と喋ると、ボエルはわかったようなわかっていないような顔になっていた。

「大丈夫? ついて来てる??」
「あ、ああ。なんとか……」
「そんなことを聞くってことは、やっぱりってことで合ってる? あ、僕は言いふらさないから安心して。って、ダメ皇子じゃ安心できないか~。アハハ」

 フィリップが笑っていると、ボエルは不安な顔から覚悟を決めた顔に変わった。

「いや、なんだか殿下なら信じられる気がする。聞いてたより賢いし優しいし……」
「じゃあお互いの弱味を握り合った仲ってことだね。僕が賢いの、秘密にしてよ~?」
「わかった」

 秘密の共有を約束すると、固い握手。フィリップはこの程度では賢いとは思われないし、ボエル1人の証言なんて役に立たないとか思ってるけど……

「それでさっきの答えなんだが……オレは女が好きだ。だから、女が多い職場に行けば、そんな子が1人ぐらい居るかもと期待したんだ」
「なるほど~。ボエルならではの婚活なんだ。ちなみにどんな子が好みなの~?」
「オレは……」

 その後は、好きな女子の話題で盛り上がる男子みたいになる2人であった……

「ちなみにちなみに、本当に女しか愛せないか、僕で試してみな~い??」
「試すか! やっぱりメイドに手を出すって噂は本当だったんだな!?」

 でも、フィリップが早くも本性を出したせいで、ボエルに警戒されてしまうのであった。

「えぇ~。前は洗ってくれないの~?」
「見せるな! 隠せ! ……ちっさ」
「ひどい!? ボエルだって! ……けっこうおっきいね。触っていい?」
「いいわけないだろ!」

 警戒されたせいで、お風呂場では全部洗ってくれないしケンカになるのであったとさ。


 翌日、フィリップはついに帝都学院に登校する。この帝都学院は全寮制で、皇族であっても寮で暮らすことになっているから、フィリップはお城からお隣の帝都学院にお引っ越し。
 帝都から一歩も出ないしあまり離れてもいないので、荷物は家臣が勝手に運ぶらしい。なのでフィリップは、お城から馬車に揺られてそのまま初登校。

 ボエルにセクハラすると壁を作られそうなので、この日のフィリップは口数が少なく、ずっと乙女ゲームのことを考えている。

(さあ、華々しい僕のデビューだ。馬車を降りたら、ヒロインとの出会いだ~)

 フィリップが待ち焦がれた世界に心躍らせていたら、帝都学院の正門が見えて来た。そして馬車はゆっくりとスピードを落とし、フィリップも正門の奥にいるヒロインを捜していた。

(いた! やっぱりここで出会うんだ……ん??)

 ヒロインを発見したフィリップであったが……

「と……止まるな! そのまま走り抜けろ!!」
「はい??」
「いいから行け! 死罪にするぞ~~~!!」
「は、はい!!」

 御者を脅して、出会いはキャンセル。馬車は急にスピードアップして、正門を通り過ぎるのであった……
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