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六章 夜遊び少なめ
123 フィリップの任務
しおりを挟む髪の毛が真っ白なメイド長のアガータ・ユーバシャールから、エイラが嫁いでいなくなったと聞かされたフィリップは絶句。しばらく頭が真っ白になって動くこともできなかった。
「どうかなされましたか?」
「……」
「坊ちゃま??」
アガータが心配して近付いて手を伸ばしたところで、やっとフィリップも再起動した。
「エイラは!? エイラはどこにいるの!?」
「ですから嫁いだと……」
「嫁ぎ先! 城に……帝都にいるんだよね!?」
フィリップが怒鳴るように立て続けに質問したら、アガータは手を引いて首を横に振った。
「いえ。他領の伯爵家に嫁ぎましたので、そちらで暮らしています」
「なっ……なんで……」
帝都にもエイラがいないのでは、フィリップは力が抜けてその場にへたり込んだ。
「坊ちゃま……エイラから手紙を受け取っております。こちらでお読みください」
手紙と聞いても反応を示さないフィリップを、手を貸して優しく運ぶアガータであった……
アガータはフィリップをテーブル席に座らせると、部屋の前で立っていた護衛騎士に近付き、任務の終了を告げて書類にサインをする。護衛騎士が去って行くとフィリップの元へ戻り、お茶を入れて斜め後ろで待機していた。
そうしてお茶が冷めた頃に、フィリップはやっとテーブルに乗っていたエイラの手紙を開いた。
手紙の内容は、謝罪。一言もなく離れることを許してほしいや、自分のことを忘れてほしいなど、何度も謝罪と共に書かれていた。
その中にはフィリップに対しての未練が一言も書かれていなかったので、フィリップは検閲があるから書けなかったとは頭の中ではわかっていたけど、悲しさのあまり涙がポロポロと零れ落ちるのであった。
エイラの手紙を何度も読み返していたら日が暮れ、アガータが夕食にしようと声を掛けると、フィリップは食欲が無かったが食堂に向かう。やはり食事は喉を通らず、半分以上残して席を立った。
帰る途中でアガータが呼び止めるのでフィリップは振り返ったら、お風呂とのこと。心ここに有らずのフィリップは言われるままにお風呂に入ったが、アガータが裸で入って来たので我に返った。
「あ、洗えるから! 自分で洗うからいいよ」
「そんなこと言わずに任せてください。赤ちゃんだった坊ちゃまを隅々まで洗っていたのは私ですよ? まぁ大きくなって」
「大きくなってな~~~い!!」
年上好きのフィリップでも老婆と2人きりのお風呂は、さすがに嫌そう。ちなみに「大きくなった」の意味は、アガータは全体的な話をしており、フィリップはあの部分が反応していないと言いたいみたい。
フィリップはなんとか前面は自分で洗って、早くにお風呂を終わらせたのであった。
帰還初日は、連日ダグマーとマッサージしていたことと旅の疲れがあったので、お風呂から上がったフィリップはすぐに就寝。
翌日はアガータに起こされて、朝っぱらから勉強。メイド長をやっているだけあって、けっこうスパルタみたいだ。
お昼になったらやっと休憩。でも、30分しかくれなかったので、さすがにフィリップもブーブー文句を言い出した。でも、「こんな簡単なこともわからないのか」と反撃にあって、ずっと説教を聞かされていた。
そうして長い小言に辟易していたら皇帝との面会の時間になったので、フィリップはフラフラで執務室に入って皇帝の膝の上に乗せられた。
「まずは、呼び戻した理由だが……」
「はあ……」
「フレドリクがおかしいのだ」
フィリップは乙女ゲームの設定を覚えているので、皇帝の言葉は興味なさそうに聞いている。
「元平民の女に現を抜かし、エステル嬢との結婚に悩んでおるのだ。そこでフィリップには、どちらがフレドリクに相応しいか、中から見定めてほしいのだ」
最後まで聞いて、フィリップにイタズラ心が出た。
「え? エステル嬢を応援しなくていいの? 婚約者だよね? 婚約破棄なんてされたら、辺境伯は怒るんじゃない??」
「それは……そうだな。俺は何を言っているんだ……」
なので真っ当なレールに戻すような発言をしたら、皇帝は混乱した。
「その平民の女って、何者??」
「聖魔法の使い手だ。アメルン男爵が偶然見付けて養子にしたのだ。そうか。聖女だから、フレドリクに似合うと俺は……」
「そういうことなんだ~。聖女様じゃ、皇家に取り込みたくなるよね~。わかったよ。僕に任せて」
「う、うむ……」
フィリップは何かおかしいと思ったが、このままだと乙女ゲームのシナリオが狂いそうだと考えて話を終わらせた。ただ、皇帝はまだ何かを考えているような顔をしていたので、その隙に頼み事をしてみる。
「エイラって呼び戻せないの?」
「エイラ? ……ああ。あのメイドか。その者には無理な仕事をさせていたから、褒美に何が欲しいかと聞いたら、結婚相手を見付けてくれと言われたから叶えたのだ。後妻に入るのは、フィリップの案らしいな」
「そうまでして僕と離れたかったんだ……」
「どうも、自分といるとフィリップが結婚できないと思ったらしい。その反応を見ると、エイラの行動は正しかったみたいだな」
フィリップが苦しそうな顔をしているので、皇帝はエイラを褒めてこの話は終わらせた。
「じゃあ、ダグマーは? ダグマーを僕の専属にしてよ」
「ダグマーにはひと月の休みを与えた。戻って来るかは、本人しだいだ」
「戻って来ないことあるの?」
「厳しい職場でよく働いてくれたからな。暗部を辞めさせてやろうと思っているのだ」
「じゃあ、メイドで雇ってもいいんだね?」
「すぐには無理だ。お前には新しいメイドをつけることになっている」
新しいメイドと聞いて、フィリップはめちゃくちゃ嫌そうな顔をした。
「あのメイド長……」
老婆ではセクハラ大好きフィリップには耐えられないからだ。
「アガータは繋ぎだ。予定していたリーバー家の者が急遽辞退したから、2、3日遅れているだけだ」
「そ、その人はどんな人??」
「フリューリング侯爵家の若い娘だ。ただ、メイドとしてはどこまで使えるかわからない」
「ふ~ん……そんなメイドいるんだ……」
「これも勉強だ。使えないメイドをフィリップの手で使えるようにしろ」
「はい……」
フィリップは少し不思議に思いながら話を聞き、ダグマーのことも最悪護衛にしたいとお願いしたところでタイムアップ。皇帝は仕事に戻り、フィリップは頭を下げてから執務室を出た。
「若い子か~……僕色に教育しろって、本当にいいのかな~? ムフフ」
そんなこと言われていないのに、フィリップはエロイことに頭をいっぱいにして、自室に帰って行くのであった。
エイラとダグマーのことはもういいのかな?
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