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六章 夜遊び少なめ
121 フィリップの帰還
しおりを挟むカールスタード王国の首都を立ったフィリップは、馬車の中でダグマーに抱きついて泣きじゃくっていたが、途中からゲーゲー吐いて涙の意味が変わった。久し振りの馬車での長時間の移動は、体が耐えられないらしい。
寝不足も祟って、初日はグロッキー状態。宿屋では護衛兼メイドのダグマーと一緒に寝れるのに、何も手を出せなかった。
「あぶなっ!?」
「あ……ですから、寝てる私に触れようとしないでください」
「僕は敵じゃないじゃな~い」
でも、夜中に目が醒めてしまったフィリップが手を出そうとしたら、ナイフが首元に飛んで来たのでビックリ。今日はダグマーの暗部スイッチが入っていたみたいだ。
というわけで、ダグマーの暗部スイッチを切ってから、フィリップは抱きついて眠っていた。ダグマーもフィリップを抱き締めることは悪い気はしないらしく、心地よく眠れたそうだ。
他国の移動はカールスタード兵やダンマーク辺境伯兵に守られて進み、フィリップはダグマーとマッサージを楽しんでそのまま裸で抱き合って眠る毎日。
ボローズ王国と帝国の国境に到着すると、ボローズ兵とカールスタード兵にはホーコン・ダンマーク辺境伯が感謝の言葉を述べて、フィリップは顔を見せず。
これはサボっているわけではなく、敵兵にフィリップの顔を隠しているから馬車から降りられないのだ。
帝国に入ると安全になるから夜中の護衛は必要なくなるが、フィリップは命令してダグマーを部屋に招き入れる。各地の娼館に行きたい気持ちはあるが、帝都に近付くに連れてダグマーが寂しそうにするから、フィリップも気を遣った模様。
フィリップ的には、ダグマーもメイドとして傍に置きたいと思っているが、城にはエイラがいる。どちらも傍に置きたい旨を皇帝に直訴するとダグマーには伝えているけど、ダグマーの本来の職場は暗部。
ダグマーはそんなワガママは通じないと思っているから、日に日に寂しさが募っているのだ。だからフィリップも、変な噂が立つのも覚悟で命令して部屋に呼び込んでいるのだ。
ダンマーク辺境伯領を抜けると護衛の交代。ホーコンにはいちおうフィリップも労いの言葉を掛け、次の担当である領主やたくさんの護衛騎士にチェンジ。次々と交代して、帝都が近付く。
そうして残り1日の距離となった町の宿屋で、フィリップとダグマーは裸で抱き合っていた。
「明日でお別れですね……」
今日で最後の夜となるから、ダグマーも泣きそうだ。
「そんな顔しないで。メイドで落ちても、護衛で雇えないか頑張るから。ね?」
「嬉しいお誘いですが、皇帝陛下は許してくれないと思います」
「だったら、ダグマーから来てくれたらいいだけだよ。忍び込むのとか得意でしょ?」
「それは……見付かった場合、命がないのでは??」
「あ、そっか。逆夜這いで面白いと思ったのにな~。アハハハ」
フィリップが笑うと、ダグマーも優しい顔になった。
「その気持ちだけで、私は充分です。今までありがとうございました」
「諦めないでよ~。そうだ。音魔法! 決まった時間に窓から顔を出したら、連絡し合えるんじゃない? どこかで逢い引きしようよ~」
「ウフフ。殿下の頭の中にはそれしかないのですね」
「そうだよ~? そのためには頑張っちゃう」
「もっと他のことを考えたほうがいいと思います。勉強とか……帝都学院はレベルが高いのですから、勉強してください」
「急にメイドに戻らないでよ~~~」
ここまでフィリップが自分のことを想ってくれているのだ。ダグマーはそのことが嬉しくなって、どんな結果になろうと受け入れる覚悟をして最後の夜を過ごすのであった……
「雨だね」
「はい……」
「今日は一日中できるね~? 踏んで蹴って罵って~~~」
「この変態ブタ皇子~~~!!」
「ブヒー!!」
でも、雨で足止め。せっかく覚悟を決めたのに移動ができなくて1日延びたので、ダグマーも少しヤケになってフィリップを踏んだり蹴ったり罵ったりするのであったとさ。
雨の日の翌日は快晴。馬車は颯爽と走り、車内では昨日ダグマーが楽しんだからと、今日はフィリップがマッサージを楽しみながら進む。最後かもしれないから、ダグマーも献身的だ。
さすがに帝都に入るとそんなことをしている場合ではない。帝都民は第二皇子の帰還を祝って道に出ているから、隣り合って座ることもできないのだ。
「なんで僕みたいな出来損ないなんて見たがるんだろ?」
「それだけ皇族の血が尊いということでしょう」
「そんなものかね~? ちなみに、行きもこんな騒ぎだったの??」
「はい。殿下はぐっすり寝てましたので、私が隠れて手を振っていました」
「そこまでしなくてもいいのに……」
まさか二人羽織みたいなことをして出発していたとは、フィリップも初耳。ここで手のひとつも振らないのでは、ダグマーの苦労が台無しになり兼ねないので、フィリップもイヤイヤ窓から手を振ってるよ。
「あの子はアリ……あの子もいいな……」
「どこ見てらっしゃるのですか?」
「いや~~~ん」
でも、フィリップが巨乳の女性に向けて手を振っていたから、対面に座るダグマーが足を伸ばしてある部分を刺激するので、フィリップは喜びながら手を振るのであったとさ。
帝都民が手を振る町中を走り、城が近付くとダグマーはお互いの服装を整え、サービスでフィリップのある部分にキスをした。フィリップは「もっと~」とかエロイ顔になったから、「やるんじゃなかった」と後悔したらしい。
そうして馬車が城の入口に着くと、そこではフィリップの帰りを待ち兼ねたというより、命令されて待っている多くの貴族や騎士が整列していた。
「フィリップ殿下の、おな~り~~」
「「「「「ははっ!」」」」」
ダグマーから馬車を降り、続いてフィリップが顔を出すと貴族たちは跪いて出迎える。その中をフィリップは堂々と歩き、唯一立っている人物の前で止まった。
「お兄様、ただいま~」
「ああ。おかえりフィリップ。大きく、なっ……小さくなってないか??」
「お兄様が大きくなったんだよ! 僕だって背は伸びてるんだからね!!」
「す、すまない。父上がお待ちだから中に入ろうか」
「話逸らさないでよ~~~」
フレドリクとの久し振りの再会は、フィリップはプンプン。周りは吹き出しそうになっていたが、ギリギリ耐えた。でも、下を向いて肩が震えていたのは、フィリップは見逃さない。
フレドリク14歳170センチ、フィリップ12歳128センチ。同じ血を引いているのに、成長の度合いがこんなに違うのかと肩を落とすフィリップは、フレドリクに手を引かれて城に入るのであった……
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