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三章 夏休みは夜遊び
079 クーデターの行方
しおりを挟む「ハタチさ~~~ん!!」
ドーグラス近衛騎士長の攻撃を受けて無様に吹っ飛んで行ったフィリップが壁に衝突して倒れたからには、クリスティーネの悲鳴のような声が玉座の間に響いた。
「フハハハハ。こやつは剣豪の称号を持ち、レベルは30じゃ。小賢しい小僧なんて一溜まりじゃ。お前たちもすぐにあの世に送ってやるぞ。フハハハハ」
すると、カールスタード王が興奮して立ち上がり、笑い続けている。
「失敗した。狭いんだよここ」
「フハハハ…ハハ……」
だが、フィリップが普通に立ち上がると、カールスタード王の笑い声はストップ。
「な、何故、生きておるんじゃ?」
「見てなかったの? 防御してたじゃん」
「吹っ飛んだじゃろうが!!」
フィリップはカールスタード王のツッコミを無視して、ドーグラスに近付きながら質問する。
「あんたならわかるよね? 僕がわざと飛んだの」
「いや……かなり重かった……」
「なんだ~。剣豪って聞いたのにその程度か。達人ってわけではないんだね」
「できれば、どうやったか教えてほしいのだが……」
「いいよ。この剣、よく見て。真ん中辺り、切り込み入ってるでしょ?」
「ああ」
「さっき防御したらそこまで斬られちゃった。だから、全部斬られる前に横に飛んだんだけど、壁との距離を計算し忘れてぶつかっちゃったの」
「あ、ありえない……」
自慢の剣速を目で追っただけでなく、それより速く動く人間が目の前にいては、ドーグラスも驚きを隠せない。
「なかなかいい剣使ってるね。ちょっと貸してくんない?」
「……」
さらに、戦闘中に剣を貸せとは意味不明すぎて声も出ないみたいだ。
「嘘に決まってるじゃろう! さっさと殺さんか! 娘が死んでもいいのか!!」
なので、カールスタード王が反論してくれたので我に返り、ドーグラスは剣を振ってフィリップを遠ざけた。
「ま、倒してから借りればいっか。かかっておいで~?」
「うおおぉぉ~~~!!」
ここからドーグラスは、自分の持てる力を振り絞って剣を振るうが、フィリップにはかすりもしない。全て小さな動きで避けられている。
それなのに、フィリップは一切攻撃をしない。これは剣豪とか聞いたから、生きた剣筋を確認しているだけ。フェイントやいい攻撃の時には拍手までしている。
それに受けてしまうといま持っている剣が折れてしまうので、足捌きだけでかわしているのだ。
そんな一方的な剣戟は、フィリップが飽きて来たら終了。フィリップは大きく後ろに飛んで剣を上段に構えた。
「よく頑張った! そのお礼に、僕の奥義を見せてあげるよ!!」
「こ……来い!!」
ここまで子供に子供のようにあしらわれては、ドーグラスも実力差を認めて剣を力強く握り直した。
「行くよ! 二の太刀要らず!!」
「ぐあっ!?」
その直後、フィリップは瞬きほどの速度で近付き、肩口から斬り付けて勝負が付くので……
「……??」
「ヤベッ。折れちった。ほいっ!!」
「ぐあああああ……」
いや、鎧がべっこり凹んだだけで剣が折れてしまったので、ラストは掌底でドーグラスをブッ飛ばして壁に打ち付けたのであったとさ。
「勝利~。ニヒヒ。あいたっ」
しばし微妙な空気が流れていたのでフィリップがピースで締めたけど、クリスティーネに頭を叩かれた。
「なに~??」
「二の太刀要らずって仰々しい名前の奥義はどこに行ったのですか?」
「えっと……1回しか剣を振ってないから、セーフみたいな??」
「はぁ~~~……」
「ゴメンゴメン。今度、奥義が完成したら見せてあげるから。ね?」
「奥義でもなかったのですか!?」
「ほらほら。最後にやることあるでしょ~?」
フィリップの適当すぎる奥義にクリスティーネが呆れたり怒ったりしていても、そんな場合ではない。フィリップに押されてクリスティーネは前に出た。
「まだやると言うのなら、この者が相手をします! ふざけたような人ですが、その実力は本物です! おふざけで死にたくなければ、武器を捨てなさい!!」
「真面目にやってたんだけどな~……はい。お口、チャック」
クリスティーネが最後通告をしていたらフィリップが茶々を入れるので、ギロッと睨んでいた。
騎士たちは、そんな死に方をしたくないのか、はたまたこんな化け物をひと睨みで黙らせるクリスティーネが怖いのか、1人、また1人と剣を投げ捨てた。
「では、逆賊、カールスタード元国王を捕縛せよ!」
「「「「「はっ!」」」」」
「離せ! 余は国王であるぞ~~~……」
こうしてロビンたちに捕縛されたカールスタード王は、地下牢に連行されるのであった。
「我々の勝利です! 無駄な抵抗はやめて即刻城から立ち去りなさい! まだやると言うのなら、逆賊として討ち取ります!!」
「「「「「うおおおおお~!!」」」」」
地下牢へ向かう間、クリスティーネたちは説得と勝鬨。王族は全て幽閉して敵兵は城から追い出すと、メイドや執事などには帰る家があるのかと聞いたりスカウトしたり。
その従者の内半分ぐらいは、クリスティーネが先々代に似ているからか残ることにしていた。
それから連れて来ていた兵士には、半分は休憩させて、もう半分は城の警備にあてる。数人は地下道を走らせて、スラム街にいる追加の兵士と第二王子を明朝に連れて来てもらう係。クリスティーネの勝利を広げるのも仕事だ。
それらの指示が終わりある程度片付くと、客間のベッドでサボっていたフィリップの元へクリスティーネがやって来た。
「お疲れ~」
「やっと終わりました~」
フィリップはベッドの上で体を起こし、両手を広げて労いの言葉を掛けると、クリスティーネは飛び込んで抱き付いた。
「なに言ってんの。大変なのはこれからだよ。数日は眠れないほど忙しいんだからね。それに、朝一で王族は全員処刑しないといけないんだから、かなり堪えるから気をしっかり持つんだよ?」
「はい……でも、全員じゃなくても……」
「いい? 情けをかけるには、クリちゃんには圧倒的に力が足りない。それをやるには大きな後ろ盾か、1人で国を相手取れるほどの力がないとできないの。1人でも取り零したら、クーデターの二の舞い。今度は貴族が王族を旗印にして、あちこちで内乱が起こる。どれほどの国民が死ぬかわからないよ」
フィリップの説明に、クリスティーネは情けない顔から覚悟の目に変わった。
「ここで禍根を断つのですね……」
「そう。辛いと思うけど、頑張って」
「はい」
そのクリスティーネを抱き締めて、背中をポンポンと叩いて気持ちを落ち着かせるフィリップ。
「それが終わってもやることいっぱいだ。カールスタード学院には、忘れずすぐに安全だと言うんだよ~?」
「はい。他国の貴族の子供が多いのですから無碍にはできませんからね。他には……」
しばしフィリップはクリスティーネの相談に乗っていたけど、終わりが見えた頃に大事なことを思い出した。
「あ、そうだ。報酬の件、覚えてる?」
「もちろんです。しょ……王配ですね」
「覚えてるのに、途中で変えないでよ~」
「だって~。ハタチさんほど相応しい人、いないんですも~ん」
「僕ほど相応しくない人はいないよ。毎日、娼館に入り浸り。酒場ではナンパしてお持ち帰りしまくり。そんな人の夫になりたいの? いや、国民が許してくれるの??」
「女好きを直せばいいだけでは??」
「不治の病だから無理!」
「そんな~~~」
どう考えてもこんな男は王配としては相応しくないので、クリスティーネも考え直してはいるけど、まだ諦め切れない。
しかし、フィリップも娼館の入場券を貰うために頑張っていたのだから、なる早で用意するように説得していると、クリスティーネに限界が来てしまった。
「ふぁ~……」
「ちょっとだけ寝な。帰る前に起こしてあげるから」
「今日は、しなくて、いいの……」
「うん。おやすみ」
「スースー……」
「よく頑張ったね」
こうしてクーデターを成功させたクリスティーネは、フィリップの腕の中で安らかに眠るのであった……
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