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三章 夏休みは夜遊び
078 バトルシーン
しおりを挟む「馬鹿なんですか馬鹿なんですか馬鹿なんですか!!」
最終ステージに緊張なく下ネタを言いながらフィリップが入ったからには、クリスティーネは激オコ。その声はカールスタード王たちがいる玉座の間にまで響いていることに気付いてないな。
「その上、向こうは驚いて隙だらけなのに、なんで戻って来てるんですか!!」
「いや、仕切り直ししてほしそうな顔をしてたから……」
「馬鹿~~~!!」
「はい。馬鹿ですいません……」
一通りクリスティーネに罵倒されたら、フィリップは話を戻す。
「あの……中に入ります?」
「見ましたよね? 準備万端で待ち構えていたのを……」
「でも、入らないことには話が進まないし……」
「責任取ってください」
「は~い。なんとかしま~す」
ひとまずフィリップは、クリスティーネたちには隠れているように言って、「たのも~う!」と立派な扉を勢いよく開けた。
すると、先程の配置で弓を構える者や魔法使いが殺気を放ち、いまにも発射しそうだ。それなのに、フィリップは数歩前に出た。
「さっきはなんかゴメンね~。先手譲ってあげるから、好きに攻撃しなよ」
その声に、玉座に座る老齢のカールスタード王が応える。ちなみに金髪クルクルパーマを黒髪カツラで隠しているから、フィリップだと気付けないみたい。
「お前たちは、いったい何者じゃ?」
「昨日から外町で話題の、カールスタード王国正統後継者、クリスティーネ姫様御一行だよ。国を奪い返しに来たんだ」
「フッ……何が正統後継者じゃ。この国は、代々我が先祖が治めており、血は一度だって途絶えておらん」
「嘘ばっかり言わないでくれる? あんた、王配の子供でしょ? 先代からもそう聞いてるよね? 僕、知ってるよ??」
フィリップがカールスタード王しか知らないことを言い当てるので、カールスタード王の眉毛がピクリと動いた。
「プププ。動揺してやんの。やっぱり聞いてたか~」
「嘘ばかり言っているのはお前のほうじゃろ!」
「そんなことでキレるってことは、当たりと言ってるようなモノだよ? そこは鼻で笑うとかするのが、本物の王様だよ。偽者じゃあ、王族の気品を受け継げないから仕方ないか。プププ」
「誰が偽者じゃ! もういい! 皆殺しにしろ!!」
「「「「「はっ!!」」」」」
フィリップが煽りまくると、カールスタード王は激怒して無情な命令。遠距離から風魔法や弓矢が放たれた。
「ほいっと。パンパンパパンっと!」
その攻撃は、フィリップは手の平に水の渦を作って全て弾き飛ばし、反撃の指鉄砲。目にも留まらぬ氷の礫が、攻撃をした6人の左太ももと右肩に潜り込み、全員片膝を突くことになった。
「な、何が起こったんじゃ……」
「みんな~。もう出て来ていいよ~?」
カールスタード王たちが驚くなか、フィリップが呼び込むとクリスティーネから順に玉座の間に入って来た。
「そ、その顔は……」
すると、カールスタード王たちはクリスティーネに釘付け。先々代の女王に瓜二つ。姿絵から出て来たようなクリスティーネでは、お化けを見るような顔になった。
「あとはいいよね?」
「はい……」
カールスタード王たちが驚いているので、フィリップは横にズレてクリスティーネにいいところを譲る。
「先々代女王の名はアレクサンドラ。その娘の名は、この国に死んだことにされたオリーヴィア。オリーヴィアは当時の近衛騎士長に外町に逃がされ、そこで生まれたのが私の母マルガレータ。
そして私はマルガレータの娘、クリスティーネ・アッペルクヴィストです! この国を、本来の姿に戻すために私は帰って来ました!!」
クリスティーネが凜とした表情で自己紹介すると、あまりの迫力に騎士たちは膝を折りかけた。これが、王族だけが纏えるオーラなのだろう。
「小娘の戯言に惑わされるな! 奴らはただの賊じゃ! 余が負ければ、カールスタード王国の歴史が終わってしまうのじゃぞ! さっさと討ち取らんか!!」
そこにカールスタード王の怒声が劈き、騎士たちも我に返って剣を構えた。
「皆様、いま矛を収めるならば、罪には問いません。これからも女王の私に仕えることも許します。どうか、命は大事にしてください」
「そんな言葉、嘘に決まっておる! お前たちは余を守る盾じゃ! 剣じゃ! 死んでも代えがおるんじゃぞ! 死ぬ気で戦え!!」
「いえ、死んだ人の代わりなんて誰1人いません。悲しむ人が必ずいるはずです。あなたにも、あなたにも……愛する人が待っているのですよね? だったら死んではなりません」
「騎士は死ぬことも職務に含まれておる! さっさと殺さんか!!」
「無駄な抵抗はおやめなさい!!」
騎士はクリスティーネが喋る度に迷いが生まれ、その迷いを払拭しようとすぐにカールスタード王が反論するので口喧嘩のようになって来た。
「アハハハハハ」
そこにフィリップの笑い声が響き、一斉に睨まれた。
「忠臣が小娘1人の言葉に惑わされるってどゆこと? めちゃくちゃ嫌われてるじゃん! アハハハハハ」
フィリップがカールスタード王を指差して笑うと、カールスタード王はブチギレた。
「なんじゃと~~~!!」
「アハハ。ずっと怒鳴ってばっかり。あんた、底が浅すぎるよ。やっぱ下賎な者には、王様なんて務まらないんだね。アハハハハハ」
「ふざけよって……ドーグラス! あのガキを殺せ! やらないなら、お前の一家全員皆殺しじゃぞ!!」
「は、はっ!!」
カールスタード王から脅されたドーグラス近衛騎士長は、剣を両手に握り、全身鎧を揺らしながらジリジリとフィリップに近付く。それを見たフィリップはクリスティーネを下がらせ、腰に差していた剣を抜きながら前に出た。
「やっぱり、ラストはバトルシーンだよね~」
どうやら無駄に煽っていたのは、問答に飽きたから戦いたかっただけらしい……
「いざ、参る!」
「おお! 騎士道、かっけ~……はやっ!?」
フルメイルの鎧でここまで速く動けるとは思っていなかったフィリップは、気を抜きすぎて反応が遅れた。
しかし、それでも剣での防御は間に合い、玉座の間には、激しい金属音が鳴り響いた。
「あぶ……わっ!!」
「ハタチさん!?」
その刹那、フィリップはドーグラスの剣に吹っ飛ばされて壁に衝突するのであった……
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