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三章 夏休みは夜遊び

076 クリスティーネの演説

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 クーデターが開始すると、首都は大騒ぎ。そんなことが起こっているのにフィリップは爆睡。この騒動の黒幕なのだから、自分にはるいが及ばないことを知っているから眠れるだけなのに、ダグマーは肝がわっていると感心していた。

「この馬鹿皇子は……」

 いや、夕方に起こしに来たらフィリップがヨダレを垂らして寝ていたので、顔を踏んでグリグリしてる。みんな大変な思いをしているのにと怒っているみたいだ。

「ふぁ~……おはよう。一発ヤル?」
「そんな気分に見えますか? 馬鹿なんですか??」
「うん。馬鹿だよ? 知ってるでしょ??」
「はぁ~~~……」

 メイドがこれほど主人を罵倒しても怒らないのでは、ダグマーも力が抜けてフィリップの隣に倒れてしまった。

「チュチュチュ。モミモミモミモミ」

 それが開始の合図だと思ったフィリップは、キスしたり胸を触ったりしたけど、ダグマーに両手を掴まれた。

「遊んでいる場合ではありません」
「ん~? なんか動きあったの??」
「たいした動きはありませんが、クーデター側が優勢となっています」
「へ~……中町まで攻め込まれたの??」
「いえ。いまのところは……」

 ダグマーが集めた情報では、どうやらクリスティーネは朝からスラム街の住人を全て仲間に加え、2級、3級市民にもすぐに受け入れられたそうだ。
 その騒ぎを聞き付けたカールスタード王は兵を出したけど、多勢に無勢。戦闘は行われたが、兵は逃げ出して中町の門を閉ざし、膠着状態こうちゃくじょうたいとなったらしい。

「よっわ……王様軍、何してんだよ」
「どうも首謀者は、聖女と呼ばれるほど回復魔法に長けているらしいのです。どんなに傷を負わしても向かって来るので、兵士は攻めきれないと逃げ出したようです。そのこともあって、民が一丸となってしまったのです」
「ゾンビアタック……」

 これはフィリップが昨夜クリスティーネにアドバイスしたこと。ただ、フィリップは治してあげたらいいと言っただけで、そのまま攻撃しろなんて言ってないのでちょっと引いてる。

「そこに追い討ちで、城内でも謀反むほんの動きがあったらしく、思うように兵を出せなくて苦戦しているみたいです」
「なんじゃそりゃ。どっかの馬鹿が王位を狙ったの?」
「それはわかりかねます。ただ、こうも後手後手では、カールスタード王の敗北はありえるかと……」
「それは困ったな~……とりあえずごはんにしよっか? それとも僕とする?」
「おたわむれを……」
「いや~~~ん」

 困ったとか言いながらフィリップは全然困った顔をしないので、ダグマーはある部分を握って困らせようとしたけど、何故か喜ばせるだけであったとさ。


 なんだかんだで流されてマッサージしてしまったダグマーは、フィリップと手を繋いで食堂に移動。さすがにフィリップも、指揮を任せたラーシュが心配でこっちで食べようと思ったらしい。

「殿下! まだ持ちこたえていますよ!!」
「うん。ご苦労。でも、まだ戦闘もしてないんだから、落ち着こっか?」

 そしたら駆け寄って来たラーシュは目がギンギン。いきなり大役を与えられたから、興奮しまくっている。
 ひとまずフィリップは、夕食をしながら「今晩は大丈夫だから寝てね?」と説得してみたけどラーシュは聞いていない。ダグマーにも手伝ってもらったけど聞いていないので解任して、フィリップの専属護衛騎士を指揮官に任命していた。

「パタッ……」
「倒れちゃった……」
「相当無理していたのでしょうね」
「たった数時間じゃ~ん」

 10歳の子供には荷が重すぎたみたい。ラーシュは気絶してしまったので、「これはこれでいいことしたのでは?」と話し合うフィリップとダグマーであったとさ。


 ラーシュが退場してしまったので、まだ食堂に残っている生徒にフィリップがもう一度指揮官を説明し直したら、「いまは王国軍が押し気味」と嘘をついて今日は解散。
 ラーシュのように不安を抱いていたら生徒が眠れないと思っての配慮らしい。ダグマーには「嘘ついていいのか?」と踏まれていたけど。

 そうして日が暮れてダグマーも見張りをすると部屋から出て行ったら、フィリップも着替えて部屋から消えた。

「ゴメ~ン。遅くなった~」
「わっ!? いま、どこから現れたのですか!?」

 フィリップが現れた場所は、クリスティーネの後ろ。急いでいたから屋根を飛び交い、上から登場して声を掛けたので、ほとんどの人は驚いている。

「まあまあ。作戦は順調みたいだね」
「順調ですけど……なんだか敵兵が少なかったんですよ。その点をロビンさんが不安視しています」
「あ、それね。城の中で謀反が起こっているの」
「謀反……ですか?」
「第二王子がさあ~。宝物庫の宝を持ち逃げしたらしくてね。その上、武器庫を空にした犯人は第三王子って書き置きを残して消えてしまったから、大変だったらしいよ」

 これがフィリップが第二王子をお持ち帰りした理由。ご丁寧に第三王子にも罪をなすり付け、城内を混乱におとしいれたのだ。

「それって、全部ハタチさんがやったことでしょ……第二王子さんとも話をしましたよ?」
「あ、もう会ってたんだ。スラム街フルコース、喜んでた?」
「虫なんて食べられないって、いっさい手を付けてないみたいです……いやいや、話を逸らさないでくださいよ~」
「もう終わったことだからいいじゃない。こんなに話し込んでたら、夜が明けちゃうよ~?」
「もう! あとで聞かせてくださいね!!」

 何もフィリップはクリスティーネに会いに来たわけではない。そのことを思い出したクリスティーネは、少しキレ気味にロビンに命令して、武装したお掃除団の大隊を移動させる。
 そうして墓地にやって来たら、クリスティーネは碑石の前に設置された壇上に登って演説を始める。

「皆様、今日は本当にお疲れ様です。疲れているところ申し訳ありませんが、もうひといくさしていただきます。と言っても、寝込みを襲う酷い作戦なんですけどね~。王族らしくない戦い方でゴメンなさい。ずっと家事手伝いしかしていなかったから、許してくださいね」
「「「「「ブッ……わはははは」」」」」

 クリスティーネの冗談に、一同爆笑。疲れも眠気も吹っ飛んだ。

「さあ、もう一息です! 私に続け~~~!!」
「「「「「おおおおおお!!」」」」」

 こうしてクリスティーネが地下道に飛び込むと、兵士は続くのであった……
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