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三章 夏休みは夜遊び

075 寮内の異変

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「殿下! 起きてください! 退避します!!」

 その日、フィリップはお昼前に焦ったダグマーから往復ビンタされて起こされていた。

「いったいな~。起こすなら踏んでよ~。ムニャムニャ」
「変なこと言いながら二度寝しないでください!!」

 でも、起きない。ダグマーもよくそんな起こし方しているけど、変だとは思っていたらしい……

「ふぁ~……何があったの~?」

 結局は、電気アンマで起こされたフィリップは目をこすりながら質問している。

「クーデターです。退避しますので、急いでください!」
「クーデター? 退避? その前に、一杯水を飲ませて。ダグマーも飲んで。これは命令だよ~」

 まだ頭が回らないフィリップは時間稼ぎ。ダグマーも命令だからか、急いで水を入れて戻って来た。

「プハ~。落ち着いた?」
「落ち着いていますから急いでください」
「いや、まずは何があったか確認させて。クーデターってのは、どういうこと?」
「武力を使って国王を討とうとしているのです」
「言葉の意味じゃないよ。首謀者と、どれぐらいの規模かだよ」
「首謀者は、先々代女王の血を継ぐ者らしいです。規模は、外町全員と仮定しています」
「わ~お。そりゃダグマーも焦るわけだ」
「ですから!」

 怒鳴るダグマーを、フィリップは右手をかざして止めた。

「逃走経路は?」
「ひとまず馬に乗って町の外へ。そこから近くの町で待機している密偵と合流してカールスタード王国を出ます」
「なるほど……ボローズ王国を通って、僕は生き残れる?」
「そ、それは……」

 ダグマーが言い淀んだので、そこに付け込むフィリップ。

「カールスタードの兵なしでは厳しいみたいだね。そもそも少ない人数での護衛になるんじゃない?」
「はい……」
「だったら整理しよう。1、この町を出るまで。2、帝国までの移動。3、王様の勝利。4、クーデターの成功。どれが一番、僕に危険が及ばない?」

 フィリップが指を立てながら案を出すと、ダグマーはひとつずつ答える。

 もちろん国王の勝利が一番安全。町を出るのは、フィリップの地位を知っている者がいれば人質として捕まえようとするから危険。他国の移動は、盗賊などを倒して進んでも国境を越える時に敵国に捕まる危険性もある。
 クーデターの成功は、首謀者もフィリップの使い道があるからすぐには殺さない。皇帝に自治権を認めてもらえるように、丁重に持てなすか脅すかの二択になるとダグマーは答えを出した。

「てことは、動かないほうがまだマシってことだね?」
「そうなりますね……」
「そもそも、この情報をどうやって知ったの?」
「カールスタード兵が、安全のため寮から出るなと言って来ましたので……朝から町の雰囲気がおかしかったので、殺す勢いで吐かせました」
「思ったよりデンジャラス!?」

 まさかダグマーがそこまでやっていたとは思わなかったので、フィリップもビックリだ。

「その人には、僕から謝罪の手紙でも書くよ」
「も、申し訳ありません。緊急事態でしたので……」
「うんうん。僕のためでしょ。ありがとう。それより寮に残っている生徒が心配だね。大丈夫かな?」
「この国から逃げようとする者もいるかもしれません」
「それじゃあ止めようか。ラーシュに、寮にいる全ての人を食堂に集めるように言って来てくれる?」
「はっ!」

 珍しくフィリップが皇族らしい振る舞いをしているので、ダグマーは敬礼して走って行った。そして諸々の手配をすると、階段を駆け上がってフィリップのお着替え。
 制服に着替えたフィリップは、自分の足で階段を下り、食堂で不安そうな顔をしている各国の子供たちの前に立った。

「ダグマー。現状の説明」
「はっ! 現在、外ではクーデターが……」

 ダグマーの説明で生徒たちはますます不安になっていたが、外に出ないほうが助かる可能性が高いことは理解する。

「んで、この寮内で一番位が高いのは僕だ。だから、ここからは僕が指揮する。反対の者は挙手~」

 フィリップの発言は、どうしていいのかわからないので生徒たちはキョロキョロと周りの動向を見ている。こんな馬鹿に任せていいのかと……

「いないみたいだね。んじゃ、全員の護衛の指揮権を僕に集中するよ。言いたいことはあるだろうけど、全員で力を合わせたほうが、賊が寮内に入るのを阻止できると思うんだよね~。どうどう? 僕って賢くない??」

 最後の発言がなければ全員拍手していたけど、微妙な空気になってしまった。

「そして、指揮権はラーシュに譲渡しま~す。頑張って僕を守ってくれたまえ」
「……はい? 丸投げ!?」

 さらに指揮権を放棄してしまったのでは、全員残念な顔になっていた。ラーシュはいきなり振られて焦りまくっているし……

「最後に。クーデターが成功したら、首謀者は僕を狙って来ると思うんだよね~。だから、君らを売ってでも僕は生き残るから。絶対に僕を売ったりしないでね? そんなことしたら、僕はプンプンだよ~??」
「「「「「……」」」」」

 とんでもなく自分勝手なことを言われた生徒たちは絶句。何も言えなくなっている。

「そんじゃあ、僕はもうちょっと寝るよ。ラ-シュ、あとのことはよろしく~」
「ええぇぇ~~~……」

 そんな空気なのに、フィリップはあくびをしながら食堂から出て行くので、ラ-シュだけじゃなく全員から呆れられるのであった……


「殿下! お待ちください!!」

 あまりにも酷いことを言って出て行ったので、ダグマーもしばらく固まっていたが、フィリップが階段を登っているところで追いついて来た。

「さささ、さっきのはなんだったのですか!?」
「なんかめっちゃ焦ってるね。僕、変なこと言ってた?」
「最初のほうは賢く聞こえて変でした! それよりも最後が変すぎます!!」
「全部変だったんだ……」

 賢く発言しても変では、フィリップもどうしようもない。

「自分のことを売るななんて、アレでは殿下を売れと言ってるようなものですよ!」
「へ? そう聞こえたの??」
「当たり前じゃないですか!!」
「うっそ~ん……もう手遅れってヤツ?」
「どこまで馬鹿なんですか!?」
「そんなに怒鳴らないでよ~。王様が勝てばいいだけでしょ~~~」

 こうして寮内では一時混乱したけど、フィリップのおかげかどうかわけらないけど、いちおうは冷静さを取り戻したのであった。

 最悪、フィリップを売れば自分たちは助かると……
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