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三章 夏休みは夜遊び
073 ネタバラシ
しおりを挟むカールスタード王がフィリップと会ってから2日後……
早くも税金の徴収が始まった。
その額は、スラム街の住人からは銅貨10枚。3級市民からは銀貨5枚。2級市民からは銀貨10枚。1級市民からは金貨2枚。
1級市民が一番辛いように見えるが、貴族ばかりだからこれぐらいは端金。スラム街の住人はフィリップの援助があるから、なんとか払える額。
ただし、フィリップの予想通り払う意志を見せれば取り立てはそこまで厳しくないので、いまのところ半分だけ払って先送りにさせている。
一番辛い思いをしているのは、2級と3級市民。突然、税金以外のお金を払えと言われても、そこまで裕福に暮らしていないのだから反発も凄かった。
しかし、徴収する者は騎士。反逆罪は即刻死刑と言い回り、力で黙らせ無理矢理お金を奪い取る始末。そのせいでさらなる反発が出て、日に日にカールスタード王を非難する声が大きくなっている。
その声は寮にも聞こえており、フィリップはバルコニーでニヤニヤしていた。
「なんの騒ぎだろ~? お祭りかな??」
「どうやらカールスタード王が、無理に税を徴収して国民が怒っているらしいのです」
夕食を運んで来たダグマーは、そう告げながら対面に座った。
「なんだ~。お祭りなら行きたかったのにな~。いや、反対運動ってお祭りみたいなモノか。行ってもいい?」
「いいわけありません。暴動になる可能性もあるのですよ」
「えぇ~。見たいのに~」
フィリップが残念そうにしていると、ダグマーは鋭い視線を送った。
「そもそもこの騒動の原因は殿下ですよ」
「なんで? 僕、寮から一歩も出てないよ?」
「もうお忘れですか……カールスタード王に、国民全員から銅貨1枚を徴収しろとアドバイスしていたじゃないですか」
「あっ、アレ? 本当にやる馬鹿いたんだね。アハハハハ」
「馬鹿に馬鹿なことを教わって、もっと酷いことになったことが事の真相です」
「アハハハハ。僕より馬鹿なんだ。大馬鹿だね~。アハハハハ」
「はぁ~。殿下にも責任があると言っているのですが……はぁ~」
反乱の理由を教えてもフィリップが大笑いするので、ダグマーは「馬鹿に何を言っても通じない」と諦めてしまうのであったとさ。
その夜は、フィリップは寮を抜け出しクリスティーネの元へ顔を出す。ここには昨日会う約束をしていたロビンがすでに待っており、フィリップは背負っていた姿絵を見せて打ち合わせをしていた。
その話は、ロビンは愕然の表情。しかしクリスティーネは覚悟を決めた表情をして、ロビンを落ち着かせた。
それから3人はスラム街に向かい、とある倉庫にて待ち合わせしていたお掃除団の幹部と合流した。
「皆の者、今日は素晴らしいお方を紹介する!」
そこで、倉庫に背を向けて立つロビン、クリスティーネ、フィリップの中で、ロビンが一歩前に出て声を大にした。幹部はいきなりロビンが偉そうにしていることと、周りには誰もいないことに不思議に思っている。
「こちらに御座すお方を誰と心得る! 闇夜の聖女とは仮のお姿。真実は、かの先々代女王の忘れ形見。クリスティーネ・アッペルクヴィスト様で在らせられるぞ!!」
ロビンが尊大に紹介すると、フィリップが姿絵の布をバッと外し、クリスティーネが見やすいように光の球を宙に浮かした。
「「「「「は? え? へ? はい??」」」」」
かといって、そんなことを言われても学の無い連中ばかりなので、どう反応していいかわからず仕舞いだ。
「皆様、急に言われてもわかりませんよね。簡潔に言いますと、私はこの国の君主になる資格を唯一持っており、いまの国王を引きずり下ろす権利があるのです。ですので、もしも私が女王になった暁には、この国を変えます! 国民の誰もが笑って暮らせる国にしてみますので、どうかお力添えをお願いします!!」
クリスティーネが頭を下げるとロビンも続いたが、幹部たちはまだ頭が回っていない。なので全員、狐に摘ままれたような顔で、ニヤニヤしてるフィリップを見た。
「アハハ。僕じゃなくてクリちゃんを見なよ。彼女が、僕の雇い主。お前たちはみんな、僕に指示されていたんじゃなくて、クリちゃんに命令されていたの。どう? ビックリした?? アハハハハ」
フィリップが笑い散らすと、幹部は「騙された」って顔になった。
「あ、騙したような形だけど、そのおかげでどうなった? ごはんは食べられるようになったでしょ? みんな健康になったでしょ? スラム街は綺麗になったでしょ? 全部、クリちゃんのおかげ。これをこの国全土でやろうってことだよ。
お前たちは知らない内に勝ち馬に乗っていたんだ。子々孫々語れる自慢だよ~? なんだったら、国の要職にだって就けるかもね」
「「「「「お、おおおお~……」」」」」
ここでようやく幹部は理解して目の色が変わったので、フィリップはクリスティーネのお尻をポンッと……ムギュッと掴んだ。「話せ」って合図のつもりらしい。クリスティーネは叩き落としてたけど……
「国盗りは、あと少しのところまで来ています! 次の次の朝日が昇った頃、私は女王になっていることでしょう! 全員、私について来い!!」
「「「「「はっ!!」」」」」
こうして幹部全員は跪き、クリスティーネに忠誠を誓ったのであった……
「んじゃ、次は僕からね。これはプレゼントだ~~~!」
「「「「「おおおおお……」」」」」
クリスティーネの紹介が終わったら、倉庫の中身を披露。そこには、大量の武器防具が山積みにされていた。
「素人揃いの集団だから、戦闘員は動きやすいように胸当てと武器ぐらいにしておきなよ? 非戦闘員は、フル装備してハリボテで相手をビビらせる役ね? 極力戦闘は避けるんだよ~??」
「「「「「おうっ!!」」」」」
浮かれる幹部に軽く説明したフィリップがクリスティーネの元に戻ったら、クリスティーネは難しい顔をして唸っていた。
「何か心配事?」
「いえ……これって、城から盗んで来た物ですよね? 何人いたら、ここに運び込めたのかと思いまして……」
「元々置いてあったんじゃない??」
「そんなわけないですよ~。教えてくださいよ~」
逆算しても、ますます謎が深まるだけ。せっかく凛々しい顔になっていたクリスティーネは、気になって情けない顔でフィリップに質問し続けるのであったとさ。
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