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三章 夏休みは夜遊び

067 泥棒騒ぎ

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 スラム街で騒動があった日の翌朝。フィリップはダグマーの体調チェックで仮病を確定させたら、ベッドから下りてバルコニーに出た。

「殿下、お体に障ります」
「いつもよりちょっと体調いいから大丈夫。それにたまには太陽の光も浴びておかないとね~」
「そうですか……いま、お飲み物を用意いたします」

 フィリップの嘘を半分ぐらい信じたダグマーが下がると、フィリップはテーブル席に着いて頬杖を突きながらボーッと町中を見る。
 そうしていたら、ダグマーはティーセットを持って来てフィリップに入れると、自分のお茶も入れて対面に座った。これはいつもフィリップがお茶に誘うから、声を掛けなくてもよくなっているので失礼にあたらない。

「何かあったのかな~……」

 フィリップがボソリと呟くと、ダグマーは気になる。

「何かとは?」
「なんか朝早くから馬が駆ける音が聞こえてたんだよね~。町中も馬が走り回っているように見えるし」
「そういえば、今日はいつもより騒がしいですね……」
「ダグマーの音魔法っての、ここからでも町中の声を聞けたりするの?」
「残念ながら、雑踏の中の1人の声を拾うことはできません。お役に立てず、申し訳ありません」
「あ、そっか。音を全て拾うから、うるさいだけなんだ。例えばこういうのはできる?」

 フィリップの案は、ここから遠く離れた城の声を聞くことと、途中で音があった場合の聞こえ方。前者は喋る場所と時間がわかっていれば、小さい声でも大丈夫。後者は音を挟んでしまうとハッキリとは聞き取れないらしい。

「なるほどね……隣の部屋とかなら、壁一枚だから筒抜けなんだ」

 さらに追加で質問したら、ダグマーも不思議に思っている。

「どうしてそのようなことを聞くのですか?」
「主人として知っておいたほうがいいかと思って」
「遅すぎます……」
「確かに! アハハハハ」

 フィリップが音魔法について知ったのは、何ヶ月も前の話。なので、ダグマーは「こいつ、完全に忘れてたな?」と、呆れた顔をしている。

「ま、何か変わったことあったら教えてよ」
「はい。できる限り詳細に情報を集めておきます」
「そこまではいらないよ? メイドの範囲でいいからね? 城とかに勝手に忍び込んじゃダメだからね??」
「あ、はい。そうですね。わかりました」

 ダグマーが暗部のスイッチが入っていたので、そのスイッチはオフしてから眠るフィリップであった。


 それから夕方まで眠ったフィリップは、ダグマーに顔を踏まれて起こされた。これはダグマーの趣味だから、フィリップも許しているので失礼にはあたらない。らしい……

「ふぁ~。1回スッキリしとく?」
「寝惚けてますね。これはお仕置きが必要ですね」
「いや~~~ん」

 だってこれは、ダグマーのイエスノー枕だから……

 本当にスッキリしたら、ダグマーが食事を用意して一緒に食べる。これはダグマーと喋る時間が少ないから、フィリップがゴリ押ししたから失礼にはあたらない。

「へ~。お城に泥棒が入ったんだ。何が盗まれたの?」
「それはわかりかねます。ただ、多くの兵が探し回っているので、それ相応の品かと思われます」
「お姫様とかかな? いや、男兄弟しかいないのか……いや、男が好きな人もいるよね?」
「何を考えているかわかりませんが、人間ではないと思われます。逆に聞きますけど、殿下はお姫様なら盗むのですか?」
「そうだね~。僕ならハートを盗むね。ダグマーみたいに。アハハハハ」
「もう……殿下ったら……」

 フィリップが茶化したら、ダグマーも頬が赤くなる。盗まれた張本人では反論もままならないみたいだ。

 こうしてダグマーは、さっきやったのに自分から第2ラウンドを提案したのであった……


 ダグマーがツヤッツヤの肌で部屋から出て行くと、フィリップは急いで着替えて出掛けた。そしてやって来たのはマッツの酒場。4人組の女性を発見したフィリップは、その隣に座った。

「お姉さんたち、今晩ヒマ? いまならタダでやらせてあげるよ~??」
「ハタチ君……いつもそんなこと言ってナンパしてるの?」
「やだな~。お姉さんたちってわかってたから誘ってるんじゃ~ん」

 4人組の正体はフィリップのスパイ。後ろからでもカロラたちだとすぐにわかったからフィリップは冗談を言ったのに、日頃の行いが悪いからあまり信用してもらえない。

「なんか疲れた顔してるね。大丈夫??」
「うん。大丈夫。ちょっと職場でね~……あ、ここではできない話だから、いつもの部屋でいい?」
「わ~お。積極的~。今日は大漁だ~」

 ナンパが成功したようなテンションでフィリップが椅子から飛び下りたら、マッツが血の涙を流して睨んでいたので、カロラたちの支払いを多く払って「娼館、行って来い」とか言ってた。
 そうしてフィリップはルンルン気分で宿屋に入り、いつもの部屋に入った瞬間から服を脱ぎ出したが、誰1人脱ごうとしない。

「ハタチ君。今日はそういうつもりで来てないから」
「ん? ロリさんは脱いでるよ??」
「「「ロリ……」」」

 カロラがフィリップを止めるので振り返ったら、ロリがすでに薄着になっていたので3人に冷めた目で見られていた。
 とりあえず3人は別目的ってのは雰囲気でわかったフィリップは、ソファーに飛び込みロリを隣に置き、皆が座ったら質問してみる。

「それで……どうしたの?」
「あのね。ハタチ君って……もしかしてだけどね……」
「なになに~?」
「……泥棒なんかじゃないよね??」

 カロラは言葉を選びながら問うと、フィリップは不敵に笑う。

「フッフッフッ……バレたか。フッフッフッフッ……」
「「「「ウソ…」」」」」
「そう。僕こそは、夜の街々で女性のハートを盗む大泥棒。その名もハタチだ~~~!」
「「「「ズコーッ!!」」」」

 フィリップがかっこつけて自己紹介したら、全員ずっこけた。

「え? 僕、なんか変なこと言った??」
「そういうことじゃないの~。城で泥棒騒ぎがあって大変だったの~」
「あ、そうなの? なに盗まれたの??」
「「「「よかった~~~」」」」
「え~? なんの話か教えてよ~~~」

 どうやらカロラたちはフィリップが犯人だと思って緊張していたけど、ここまで何も知らないのなら、その線は消えたと安心するのであったとさ。
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