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三章 夏休みは夜遊び
052 夜の帝王降臨
しおりを挟む「「「「「なんだこりゃ……」」」」」
酒場にて酔っ払いに絡まれたフィリップは、外で1人目をワンパンで倒したら、その他の酔っ払いも襲い掛かって来たので山積みに。その騒ぎを見ていた者は、子供が大の大人を蹴散らす姿に息を飲んでいる。
「僕はいくつに見えるのかな~?」
「「「「「20歳です……」」」」」
「でっしょ~? じゃあ、マスター。ミルク出してくれる??」
「はあ……」
力業で皆に20歳と言わせたフィリップは、酒場の角刈り店主、マッツと共に中に入るのであった。
「酒場でミルクって……子供じゃねぇか」
「「「「「うんうん」」」」」
ただし、だいたいの人は納得していないのであったとさ。
酒場のカウンターに戻ったフィリップは、温いミルクを飲みやすいように熱魔法で冷やしながらチビチビやり、マッツと喋っていた。
「ここって初めて来たんだけど、中と外ではぜんぜん違うね」
「あん? あんた、中町に入れるほど偉いのか?」
「いや、話に聞いただけ。中は楽しい場所って聞いてやって来たのに追い返されたんだよね~」
「そりゃそうだ。中町はお貴族様ばかりだからな。今年は帝国の皇子様まで来てるってんだから、入場は特に厳しいんだ」
いきなり身バレしそうな話を振ってしまったフィリップは、上手く言い訳して話を聞き出す。その話は中町のことから始まり、外町の話。
どうもカールスタード王国の首都であるこの町は、内壁の中と外ではまったく異なる世界らしく、中町で働く者には通行手形のような物が配られてセキュリティも厳しいそうだ。
外町で栄えている場所は、東側の大通りのみ。カールスタード学院に通う生徒や外国の要人は必ずこの道を通らされるらしいから、綺麗にしているとのこと。
通りを3本ほど奥に入ると、程度の違いはあるけどほとんどがスラム化しているらしい。
「ふ~ん……この通り沿いだけしか遊び場はないんだ……」
「まぁな。特に西側に行くほど酷くなって行くから、絶対に近付いちゃダメたぞ」
「酷いって??」
「あそこは4級市民の集まりだからだ……つってもわからねぇか。汚いからって、奴隷や罪人だったヤツの住み家はそこだけとか、王様が昔に決めたらしくてな。国も何もしないから治安が悪いんだ」
「へ~。ちなみにマスターは何級なの?」
「2級だ。3級市民とたいして暮らしは変わらないから、自慢にもならないがな。そこで酔い潰れてるヤツやあそこで女を口説いているヤツが3級市民な」
「うん。同じ人間どうし、階級が違えどやることは変わんないね」
「だろ?」
意外と話が合うのでマッツもフィリップの見た目は忘れて世間話に付き合ってくれている。
「んで、お勧めの娼館はどこ?」
「ああ。娼館なら……行っちゃダメじゃないか??」
でも、娼館と聞いて止まった。どう見ても子供だもん。
「ハタチだからいいのいいの。僕、地元では夜の帝王と呼ばれてたんだよ~?」
「あんだけ腕っ節が強けりゃ、そんな呼ばれ方するだろうけども……」
「違う違う。僕の遊び方が豪快だからだ。その証拠を今から見せてあげるよ」
フィリップは椅子から飛び下りたら、店中に銀貨をバラ蒔いた。酔っ払いたちは最初は痛そうにしてフィリップを睨んだが、当たった物が銀貨だと気付いたら、奪い合いの大騒ぎとなった。
「みんな~! 今日は僕の奢りだ! 好きなだけ飲んでブッ倒れろ!! アハハハハ」
「「「「「うおおぉぉ~~~!!」」」」」
さらにカウンターに金貨を山積みすると、酔っ払いたちは注文の嵐。何事かと入って来た客も誘って、店中の酒を飲み尽くす一同であった。
「アハハハ。お姉さん、いきなりどこ触ってるんだよ~」
夜も更けると、酒場の中は酔い潰れた屍ばかりとなり、フィリップもベロンベロンの女性を両手に侍らせていた。どこを触ったかは想像に任せる。
そんなことをしていたらマッツがやっとこさ一息付けると、フィリップのカウンター越しに座った。
「なんちゅう豪快なことしやがるんだ」
「アハハ。お疲れ様。儲かったでしょ?」
「儲かったけど、明日の仕入れが大変だ。どうすっかな~」
「休みにしたら? 明日は違う店で同じことするし」
「まだ使うのか!? そりゃ、夜の帝王と呼ばれるわけだ」
「そそ。娼館でも5人同時に頼んだことあるんだよ~?」
「う、羨ましい……」
「明日一緒に行く? 2人までなら出してあげるよ」
「こんな子供に出してもらっていいのか、俺……」
「ハタチって言ってるでしょ~」
子供を娼館に連れて行くことすら気が引けるのに、その子供に自分でも出せない額を使わせるのは、大人としての葛藤が凄いことに。結局マッツは奥さんに怒られて泣く泣く諦めていた。
「ま、いま行っても揉めるだけで入れてくれないけどね」
「それを先に言えよ~~~」
「じゃあ、僕はこの子たちと宿屋にしけ込むね~」
「見せびらかして行くなよ~~~」
フィリップは奥さんが近くにいたからおちょくっただけ。マッツの羨ましがる声を聞きながら、フィリップは女性2人と手を繋ぎ、酒場から出て行ったのであった。
翌日の朝、宿屋の一室では……
「アレ? ここはどこ??」
「いたた……昨日は飲みすぎた……え? あなた誰だっけ??」
裸の女性2人がベッドで目覚めて何があったかと話し合う姿があった。
「なんか薄らと、かわいい男の子に凄いことされた記憶があるんだけど……」
「奇遇ね……私も何度も腰が砕けた記憶が……」
「「これって夢だよね??」」
2人とも記憶が曖昧。なので子供としたことは夢だったと割り切ることにしたけど、テーブルの上には宿代には多いお金が置いてあったので、「やっちゃった~」と思い知らされたのであったとさ。
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